なぜ今、からくり改善が注目されるのか?:からくり改善の基礎知識1

からくり改善の基礎知識

更新日:2015年8月21日(初回投稿)
著者:公益社団法人日本プラントメンテナンス協会 専務理事 鈴置 智

1. 製造改善から生まれた「からくり改善」とは?

現場第一線のオペレーターの方が、自主保全活動(注1)を推進する中で、「自分の設備は自分で守る」を合言葉に、設備への関心と改善の心を磨き、日々の生産活動でやりにくい作業や困っている問題を、自らのアイデアで解決するために、さまざまな改善と努力をされています。

注1:日本プラントメンテナンス協会が1971年より提唱しているTPM(Total Productive Maintenance:全員参加の生産保全)活動の8本柱のひとつです。

このオペレーターの方による「改善」の多くは、日本古来のからくり人形に見られるような原理(メカニズム)であるてこ、カム、クランク、ギア、リンク装置、ゼネバストップなどを利用した、手作りでお金をかけない「改善」です。

当協会では、この製造現場から誕生した「改善」を1994年以降、「からくり改善」と名づけ、積極的に普及をしています。また、正しく普及させるためには、共通の認識を持つことが重要と考え、「からくり改善」の定義を下記のように決定しました。

・「メカニズムは単純シンプル」
・「お金をかけない」
・「ムリ・ムダ・ムラを退治した改善」
その結果、創造性を高く他の見本となる楽しい改善事例となる。

これらの条件を満たした改善により、直接的には品質向上、生産性向上、故障低減、チョコ停低減、保全性・安全性向上、段取り・調整時間の短縮、刃具交換時間の短縮、部品供給や運搬・搬送効率の向上、原単位の効率向上、騒音低減、省エネルギーなどに大きな成果が得られ、オペレーターの方も楽に早く・楽しく仕事ができるようになる、としました。

014年最優秀からくり改善賞 横浜ベイ・ウォーク(日産自動車 横浜工場)

図1:2014年最優秀からくり改善賞 横浜ベイ・ウォーク(日産自動車 横浜工場)

2. なぜ今、「からくり改善」が注目されるのか?

近年、「からくり改善」が注目され、積極的に多くの企業で導入・展開されている背景には、わが国の製造業が置かれている環境の変化が大きく関係していると思います。

日銀が発表した2015年6月の全国企業短期経済観測調査では、企業が内需回復に手応えをつかんでいることを示しており、好調な業績により大企業製造業の設備投資計画は、11年ぶりの高い伸び率となっています。また、中小企業の一部にも回復の兆しが現れています。

しかし、この「11年ぶり」が示すように、ほんの数年前までは、製造業の国内空洞化により、国内の生産量は激減し、新規の設備投資を積極的にしにくい時代が続きました。この時代の企業は、いかに設備投資を抑えるかが大きな経営課題でした。

このような時代背景により、日本のモノづくりの強化と国内生産存続のためにも全員参加による「からくり改善」が、注目を集めたのです。また、「からくり改善」は、設備投資額の削減効果はもちろんのこと、人材育成にも予想を超える大きな効果をもたらしました。よって、景気回復となった今でもその流れは、簡単に変わらないのです。

実際の「からくり改善」事例をご紹介したいと思います。某自動車メーカーでは、当時、景気の低迷などにより販売予測が難しいため、新車の計画段階から新規設備の導入を極力抑え、既存設備に「からくり改善」を積極的に取り入れ、大幅に製造コストを削減しました。その結果、新車販売価格を下げることができ、計画を超える販売を実現しました。

また、某事務機器メーカーでは、加工後の事務机の天板を、従来はロボットを使って方向転換し、次工程に送っていました。方向さえ変わればよいと考えたオペレーターの方が、傾斜を使って流れてくる天板に「てこ」を応用したビンを使い、天板の方向を90度転換し、次工程に送る「からくり改善」を考案しました。この改善に掛かる費用はわずか数万円で、約600万円のロボットが不要となったと同時に、ロボットのランニングコストやメンテナンスコストをなくし、大幅な費用削減になりました。

このように、「からくり改善」は、生産性向上やコスト削減などにつながる、さまざまなロスの低減・撲滅に大きな成果を上げています。さらに、今後の設備投資の面からも生まれの良い設備づくりにも「からくり改善」は重要な役割を果たしており、LCA(ロー・コスト・オートメーション)、すなわち設備の低コスト化にも寄与しています。

なお、具体的に「からくり改善」を導入・展開するためには、「からくり改善教育道場」の開設や社内での「からくり改善くふう展」の開催、さらには、設計部門や生産技術部門を巻き込んだ「からくり改善」の検討・標準化の推進が重要です。

2014年優秀からくり改善賞 まえだにならえ(トヨタ車体)

図2:2014年優秀からくり改善賞 まえだにならえ(トヨタ車体)

3. 「からくり改善くふう展」の開催

当協会が主催し、構想から約1年目の1994年3月に名古屋で、第1回の「からくり改善くふう展」を開催することができました。2014年度までに「からくり改善くふう展」の開催は、名古屋で11回、東京では8回を数え、延べ出品作品数は、約4,200作品。参加者は、約6万2,000人に達し、年々盛大になっています。

また、「からくり改善事例集」の出版や「からくり改善」の通信教育、DVDなどの教材、さらには、セミナー、現場改善支援などを通じて、企業の「からくり改善」の取組みを支援しています。

2014年のからくり改善くふう展の会場の様子

図3:2014年のからくり改善くふう展の会場の様子

からくり改善®くふう展 ウェブサイト 
2016年は、9月29日(木)〜30日(金)パシフィコ横浜で開催です。

4. 原点は「楽に作業できること」

からくり改善の原点は、効率化ではなく楽に作業できることです。やりにくい作業を改善したり、自身が日常作業の中で困っている問題を自らのアイデアで解決したりすることから始まるのです。

行き詰ったときには、生産技術部門や保全部門と相談し、知恵を貸してもらったりすることも有効ですが、気をつけなければいけないのは、決して複雑にはしないということです。メカニズムを簡素化しないと操作性や保全性の容易さには、つながらないからです。

なお、日常生活のいたるところにも「からくり改善」のヒントはあります。過去のくふう展の作品の中には、玩具、調理器具、雨傘などからヒントを得た作品もありました。両開きの冷蔵庫や台所便利グッズなども、家庭の主婦が困っていることやあったらいいなが形になり、日常生活に定着した「からくり改善」製品だと思います。

さらに、「からくり改善」の目が養われてくると、今まででは見えなかった製品現場のいろいろな場所や機械に存在する重たい、危ない、やりにくい、きつい、汚い、うるさいなど、多くの課題が見えてきます。これらの課題を「からくり改善」を使って解決していくことで、3K職場の排除などにつながり大きな成果となるのです。仕事が安全で楽になり、結果として仕事が楽しくなるのです。

楽になれば楽しくなる、楽しくなければ長続きしないと私は思ってます。楽しくなれば、今まで気づかなかったおもしろい世界がどんどん見えてきて、興味が広がってきます。「からくり改善」に終わりはありません。満足した時点から後退してしまいます。常に問題意識を持ち、楽しく改善を進めてください。

※「からくり改善」は、公益社団法人日本プラントメンテナンス協会(JIPM)の登録商標です。

知恵の輪 連結台車(14優秀)_R2

図4:2014年優秀からくり改善賞 知恵の輪連結台車(豊田合成)

からくり改善の基礎知識は、全5回を予定しています。第2回は「からくり改善の取り組み方とその原理」です。お楽しみに!