シリコンバレーから見た日本企業の良い点・悪い点:日本能率協会2017生産革新アメリカ視察団3

日本能率協会2017生産革新アメリカ視察団
講演者:スタンフォード大学 アジア太平洋研究所 リサーチアソシエート 櫛田 健児

2017年7月16日~22日に、日本能率協会が「JMA生産革新アメリカ視察団」を開催しました。視察団中のプログラムの一つである櫛田健児氏の講演から抜粋してお届けします。シリコンバレーから見た日本企業の良い点、悪い点を挙げていきます。

1. 大企業とベンチャーの共存

シリコンバレーでは、会社を辞めた人がベンチャー企業を立ち上げ、新事業を始めることが日常茶飯事です。会社を辞めるのは裏切りだという感覚は一切ありません。シリコンバレーでは大企業とベンチャー企業が共存関係にあります。ベンチャー企業のビジネスが成功すれば、大企業がベンチャーを買収します。一般的に、大企業が新事業を展開する場合、億単位のお金が動きます。しかしベンチャー企業の買収であれば、大企業は20分の1程度のコストで新事業を始められ、ベンチャーを始めた人にはお金が入ります。

2. シリコンバレーのスタートアップの特徴

スタートアップとは、新しいビジネスモデルを開発するために集まった人たちのことです。ベンチャー企業は創業して間もない中小企業を指し、既存のビジネスモデルを使うこともあるため、明確な違いがあります。スタートアップは、シリコンバレーでイノベーションが起きる原動力といえます。スタートアップには2つの特徴があります(図1)。

図1:シリコンバレーのスタートアップの特徴

図1:シリコンバレーのスタートアップの特徴

1:事業を始める目的は知的刺激

シリコンバレーには、起業した会社を大手企業に売却した人や、多額の退職金を受け取って企業を辞めた元トップなどが大勢います。彼らは生活のために働くのではなく、知的刺激を求めてスタートアップを起こします。

2:簡潔かつ具体的な事業内容の説明

スタートアップを起こす人は大抵、自分の構想を4分程度でプレゼンできます。ポイントや課題、問題の解決方法などを端的にまとめ、「私たちはこういうことができて、あなたたちのこの問題意識とマッチしている。だから一緒に仕事をしましょう」というとてもシンプルな説得をします。この完結かつ具体的な売り込みが、スピード感あるビジネスマッチングを生み出しているのです。

3. 日本企業の悪い事例

日本企業がシリコンバレーで陥りやすい悪い事例を10個ピックアップしました。このような事態にならないよう注意しましょう。

1:取りあえず事務所を開設して、駐在員を送り込む
2:シリコンバレー進出の目的が明確でない
3:シリコンバレーでは、日本企業は売り込む側であることを理解していない
4:駐在員に決裁権・リソースがないため、具体的な商談ができない
5:駐在員が本社対応に追われる
6:未来を先取りした情報を本社に送ることができない
7:シリコンバレー事業の推進者が異動する
8:左遷した人材や経験の足りない若手を駐在させる
9:駐在者を短期で交代させる
10:注目されているときに進出し、注目が過ぎた後に撤退する

シリコンバレー進出において避けるべきことの一つが、取りあえず事業所を開設して駐在員を送り込むことです。情報集めや戦略パートナー探しがミッションになってしまうためです。シリコンバレーでは、大企業であっても日本企業は売り込む側なので、簡単にアポイントは取れません。会いたい企業の担当者ほど、少数精鋭で激しい競争下にいるため忙しく、時間を割いてくれないのです。そのため、日本企業にありがちな、資料を読んで終わりという売り込みはシリコンバレーで通用しません。構想を4分程度でプレゼンできないと、話も聞いてもらえないでしょう。

また、日本企業の決定の遅さも不利です。シリコンバレーの企業は、遅くとも2週間程度で回答を望みます。しかし、日本企業は数か月掛かってしまいます。これは、欧米のビジネスでは理解されません。日本企業が売り込みに成功しても、決済権を持つ人がシリコンバレーにいなければ、具体的な商談を進められないのです。

若い人を駐在員として現地に送り込む企業も、成功しにくいです。経験が不十分で技術が無く、本社とのつながりが希薄なため、成果を上げられないのです。また、大抵の日本企業は駐在任期が3年程度で、長期的な仕事ができません。日本企業の従業員はアメリカと異なり、四半期ごとにクビを切られるプレッシャーがないため、本来は長期スパンで仕事に取り組めます。しかし、3年程度の任期ではそのメリットを駐在員が生かせないのです。

4. 自社の強みを見直す

これまで自社の強みと考えていた要素を見直す行為は、今の日本企業にとって重要です。シリコンバレーで成功した人を日本に連れて行くと、面白いことが分かります。それは、日本企業の人たちが考える日本の強みと、海外から見た日本の強みが一致しないのです。

観光資源に例えてみましょう。姫路市の強みは何でしょうか? 一つはもちろん、日本で初の世界文化遺産に認定された姫路城です。その強みを生かすため、姫路城は改装され、真っ白く生まれ変わりました。

図2:姫路城

図2:姫路城

もう一つは意外なことに、姫路駅を山陽新幹線が猛スピードで通過することです。海外では、新幹線が近距離を通過するという体験ができません。そのため、姫路駅を新幹線が通過する光景はYouTubeで話題になり、多くの外国人が観光に来ているそうです。

図3:山陽新幹線

図3:山陽新幹線

それでは、姫路の観光協会は外国の方にどのような情報を渡せばいいでしょうか。新幹線が通過する時刻ですね。内部の人が考える強みと、外部の人が感じる強みがずれることは、よくあることです。意外な要素が新たな強みとなれば、世界企業との激しい競争でも生き抜く可能性が高まります。

いかがでしたか? シリコンバレーという地域は、さまざまな補完関係の中で成立しています。そのため、シリコンバレーのような地域を意図して作ることは難しいでしょう。それならば、シリコンバレーと上手に付き合い、学べるところは学びながら、自社がどのように変化に対応していくかを考えることが大切です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!