シリコンバレーから見たAIの未来:日本能率協会2017生産革新アメリカ視察団2

日本能率協会2017生産革新アメリカ視察団
講演者:スタンフォード大学 アジア太平洋研究所リサーチアソシエート 櫛田 健児

日本能率協会が2017年7月に開催した「JMA生産革新アメリカ視察団」から、櫛田健児氏の講演を抜粋してお届けします。20年近くシリコンバレーにいる櫛田氏から、シリコンバレーから見たAI(Artificial Intelligence)技術、AIがバズワード化する日本の危機などを話してもらいました。日本の技術者にとっても参考になる内容です。

1. AIによる企業とう汰の加速

AIはArtificial Intelligence(人工知能)の略です。多くの企業が注目していて、AppleもAI企業を買収しています。AIがあらゆる産業に入ってくると、どうなるでしょうか?

未来の話をする前に、最近の産業界の動きを見てみましょう。この15年間で、S&P500(アメリカの代表的な株価指数)構成企業の52%が消えています。1955年時点では61年だった企業の平均寿命は、2015年には17年に短くなっています。企業がとう汰され、新しいモノやサービスに入れ替わるスピードが極端に速くなっているのです。

図1:15年間でS&P500の企業の52%が消滅(ディスラプション:破壊的イノベーション)

図1:15年間でS&P500の企業の52%が消滅(ディスラプション:破壊的イノベーション)

今後AIがあらゆる産業に入ってくると、企業とう汰は加速するでしょう。AIの強みの一つは、パターン認識です。パターン認識は人の活動を認知しやすいため、人の仕事や動きの自動化技術を加速度的に進化させます。シリコンバレーでは、完全自動化へのベンチャーキャピタル投資が活発です。例えば、シリコンバレーは立地が悪く、インフラ整備が遅れているため、通勤時間帯に大渋滞が起こります。そのため、エンジニアたちは本気で自動運転車の開発に取り組んでいます。自動車だけではありません。白物家電用のAIが登場したらどうなるでしょうか。もしくは、Google Deep Mind社(囲碁でプロ棋士を破った人工知能AlphaGoの会社)の人工知能が、月額10ドルで使える時代が来るかもしれません。AIが導入された未来について、日本企業も真剣に考えておくべきです。

図2:AIの強みはパターン認識

図2:AIの強みはパターン認識

2. AIがバズワードする危険性

日本で気になるのが、AIがバズワード化していることです。バズワードとは、あやふやな定義のまま社会に浸透してしまっている言葉のことです。例えば、IoT、FinTech、ブロックチェーン、シェアリングエコノミー、プラットフォーム、クラウドコンピューティング、エッジコンピューティングもバズワードといえます。

バズワードはときに、本質を見えなくさせます。例えば、皆さんが何かのサービスを買うときに、「AIで分析しています」という会社と「独自のアルゴリズムで分析しています」という会社のどちらを選びますか? AIを利用したと聞くと、何だかすごそうです。しかしAIはバズワード化しているため、どのような分析がされたかあやふやです。結果、有象無象の企業がAIを使っていると宣伝できてしまい、AIが軽視されてしまいます。そうすると、AIの持つ本当の力を理解している日本人が少なくなり、本当のAIの時代がやってきたとき、本質を理解していないために海外企業に負けてしまいます。

また、AIの議論では、全ての問題をAIが解決してくれるという意見と、AIが解決できることはないという意見の両極端な考え方が目立ちます。現実的な議論がされていないのです。AIがなぜ今のタイミングで急速に発展して、これからどのように改革を起こすのかという時流を理解する必要があるでしょう。

3. AIと労働

アメリカではAIと労働に関する問題が議論されています。回復基調とはいえ、アメリカの失業率は高い水準で、AIの台頭が懸念されています。例えば、アメリカにはトラックの長距離運転手が約1,500万人います。AIによる自動運転は、1,500万人を失業させる可能性があります。自動運転の実証実験を行うと、雇用問題として社会は大きく混乱するでしょう。

日本はどうでしょうか。長距離運転手が足りなくて困っています。日本の地方はインフラが整っているのに運転手の数が不足し、繁忙期に業務が回っていません。日本の地方こそ、AI自動運転の実証実験に適しているのです。アメリカのAI研究者に日本について話すと、目を輝かせます。彼らは国から予算をカットされ、大規模な実証実験ができていないのです。

AIと労働の問題は、アメリカと日本では真逆の状態です。この問題は、政治経済面の観点から考えなければなりません。優れたテクノロジーを持っていても、展開方法や市場への浸透の仕方、浸透した後の社会の変化、業界の仕組みや規制の枠組みなどで結果が大きく変わるのです。

4. AIとIA

AIで無くなる仕事は何でしょうか。一般的には、付加価値の低い労働が自動化されて失われるといわれています。仕事が自動化された結果、5年後には70ミリオン米ドル程度のチップが無くなるという話もあります。この考え方は本当に正しいのでしょうか? AIの設計思想には、人間を考慮しないAIと、人間の能力を高めるIAの見方があります。IAとは、Intelligence Augmentation(知能増強)の略です。低スキル・低付加価値業務をしている人に、専門スキルが必要な高付加価値の仕事をさせる仕組みです。

図3:AIとIA

図3:AIとIA

例えば、コマツの建機にはさまざまなセンサが取り付けられていて、ドローンで空撮した3Dマップを併用することで、初心者でも熟練者並みの業務ができます。また、Google Deep Mind社が、自社AIと医師によるCTスキャン結果の解析を比較したところ、AIの正解率が高かったのです。このように、熟練技術が必要とされてきた仕事であっても、AIのサポートがあれば熟練者でなくても従事できるようになっています。それでは、熟練の現場作業員や医師は今後失業するのでしょうか? 答えはNoです。AIに仕事を任せられる分、医者であれば手術の回数を増やしたり、睡眠をしっかり取ってミスを減らしたりできます。AIに仕事を奪われるという考えではなく、IAによって効果的に生産性を上げられると考えた方が、建設的な議論ができるでしょう。

いかがでしたか? 今回は、シリコンバレーから見たAIの未来について説明しました。次回は、日本企業がシリコンバレー企業と付き合っていくために必要なことを話します。お楽しみに!