川崎重工流、IoTの使い方とは?:日本能率協会2017ものづくり総合大会レポート

2017年2月15日~17日に開催された日本能率協会主催の「2017ものづくり総合大会」。3日目には、「川崎重工業における生産改革の取り組み」というテーマで、川崎重工業株式会社(以下、川崎重工)技術開発本部 古賀 信次 氏が講演を行いました。各工場によってバラバラだった生産方法を、ICTやIoTを活用して全社統一のものづくりに取り組んでいます。川崎重工の取り組みは、多種類の製品群を抱えている企業の読者の方も参考になるはずです。

川崎重工業株式会社 技術開発本部 古賀 信次氏

川崎重工業株式会社 技術開発本部 古賀 信次氏(写真提供:日本能率協会)

1. 競争力のある製品を作るための段組み

生産技術と生産管理技術の関係

製品競争力の根源は、生産技術と生産管理技術であると考えています。この2つの技術を、ものづくり技術の両輪としました。生産技術は性能・機能を差別化するために用います。生産管理技術は製品を安く短い時間で製造するために用います。

図1:川崎重工業株式会社における、生産技術と生産管理技術の関係

図1:川崎重工業株式会社における、生産技術と生産管理技術の関係

川崎重工の生産技術の位置付け

従来の生産技術の位置付けは、自動化・ロボット化によるコスト・品質改善が大きな要点でした。しかし、川崎重工では生産技術を製品の性能・機能を差別化する手段として重視しています。以前は生産技術を、設計部門により設計された製品を実現するための技術であり、設計に従属するものと考えていました。現在は、開発設計と生産のコンカレント化、すなわち製品に関わる全ての工程が共に製品を生み出すという考え方です。そのため、営業や開発段階から、生産技術を製品の持つ武器として顧客にアピールしています。生産技術による営業の事例を紹介します。

川崎重工では、ボーイング社の航空機製造に参画し、大型旅客機の胴体パネルの生産を行っています。航空機の胴体パネルは、リベットやボルト・ナットを使う機械的締結で製造されています。これは、金属製航空機が登場してから変わらない製造方法です。大型旅客機では、1機当たり10万個以上のリベットやボルト・ナットが用いられています。川崎重工は、他社製品との差別化を行うため、胴体パネルの製造に、自社で研究開発を行った生産技術であるFSJ(Friction Spot Joining:摩擦スポット溶接)を用いることを提案しています。FSJは摩擦熱により金属を柔らかくし、接合する金属同士をかき混ぜることで締結を行う技術です。FSJの採用により、大型旅客機において1機当たり1トンの重量削減が可能になります。このように、設計技術ではなく純粋な生産技術をPRし、次の受注につなげていくことが、開発設計と生産のコンカレント化の典型例です。

図2:開発設計と生産のコンカレント化

図2:開発設計と生産のコンカレント化

川崎重工の生産管理技術の位置付け

生産管理技術の位置付けは、生産のコスト、リードタイムを決定し、品質を担保するシステムであると考えています。川崎重工では生産管理技術として、KPS(Kawasaki Production System)を導入しています。KPSとは、カワサキグループを貫く生産管理の基本思想です。トヨタ生産方式を基礎とし、無駄の徹底排除、リードタイムの短縮を行うため、人・もの・設備をフル活用する方式です。川崎重工では、まず、モーターサイクル部門で導入し、現在、全社で展開を進めています。KPSによる一般的な作業改善例を5つのステップに分け、紹介します。

ステップ1として、生産開始前に標準作業の組み合わせを作ります。標準作業とは、ねじ締めなどの生産を細分化したときの、作業の要素を指します。この標準作業の組み合わせにより、手順を作成します。そして、それぞれの標準作業に時間を設定します。手順にそって生産を開始した後に、ステップ2として5S、アンドン、生産管理板などを用い、現状の見える化を徹底します。ステップ3として、作業分析や物流・在庫評価などにより、問題点の抽出を行います。ステップ4として、作業指示の見直し、作業者配置の見直しなどの手法で問題点を改善していきます。ステップ5として、改善が反映された標準作業の組み合わせを作成し、実装します。

このステップを繰り返すことで工程の改善を行っていきます。これは、PDCAサイクルとも見ることができます。このサイクルを回すためには、現場の意識や工場の風土が重要です。そのため、川崎重工では根気強く、粘り強く現場に働きかけを行い、KPSの浸透を図っています。

図3:KPSの基本思想、概念、手法

図3:KPSの基本思想、概念、手法

図4:改善のPDCAサイクル

図4:改善のPDCAサイクル

少量生産品へのKPS導入

トヨタ生産方式は量産品に対応した方式です。KPSでは、多品種少数生産品にも適応することを進めています。多品種少数生産品への適用例を紹介します。川崎重工では、BK117ヘリコプターの部品製造、組み立てを行っています。ヘリコプターは、年間10~15機と生産量が少なく、1機ごとに仕様が異なります。このような生産にKPSを導入するため、ムービングラインを用いた生産の流れ化を行い、部品の配膳を小ロットのキット配膳にしました。また、タブレット端末器による分単位の作業指示と報告を行うことで、リアルタイムで進捗を確認できるシステムを導入しています。このように、多品種少量生産、ジョブショップ的な製品でも、時間の概念を導入していくことが大切であると考えています。

2. ものづくりへのICT・IoT活用

ものづくりの基本的な考え方、姿勢

川崎重工ではICT・IoTを、KPSを正確・迅速・明白に具現化するためのツールと位置付けています。そのため、工場によってはICT・IoTの導入が必要ない場合もあると考えています。今後の展開では、ICT・IoTが先走ることがないよう、必要性や投資効率も吟味しつつ、慎重かつ着実に推進していきます。ICT・IoTを導入するに当たって、2つのキーポイントがあると考えています。

  • 生産における作業の標準化、定量化ができていること
  • サプライチェーン全体において、もの、情報の流れが把握できていること

この2つがキーポイントである理由は、コンピュータ上に仮想工場を建てるためのベース情報を得ることができるからです。

生産効率化のための取り組み

生産効率化のためには、工程設計時に生産ラインの全体適正化を行う必要があります。そして、生産時に的確な作業指示が行われる必要があります。また、外乱にすぐに対応できる生産管理体制が必要です。川崎重工では、工場や生産ラインの新規立ち上げ時に、KPSに基づいた作業の標準化や見える化を行います。

KPSに基づいた作業の標準化や見える化で得た情報を元に、コンピュータ上に仮想工場、仮想ラインを構築します。この仮想工場を用いたシミュレーションを利用し、工程設計を行います。これにより、工場を作る前から、工場全体の最適化を行うことができます。また、的確な作業指示を行うため、タブレット端末を通じたデジタル作業指示システムを導入しています。作業実績を収集し、リアルタイムで稼働状況を把握しています。これにより、作業ミスや工作機械の故障に素早く対応することができます。今後、これらの生産効率化のための取り組みを、工程ごとの個別最適化だけでなく、工場全体に適用すべく、更なるスマート工場化を推進していく予定です。

スマート工場を作るために

スマート工場実現のためには、情報の収集、蓄積、分析、表示の4つの要素技術が必要です。スマート工場実現には大きく分けて2つの段階があります。

第1段階として、工場内をLANで、工場外をインターネットでつなぎ、ものの動きを把握し、逐一記録し、適宜表示するシステムを構築することです。第2段階として、各工場に最適なシステムを導入し、外乱が起きた時、自動的に工程を修正するシステムを構築することです。川崎重工では、第1段階として、要素技術のうち、情報を収集、蓄積、表示できる全社共通プラットフォームを構築することにしています。また、第2段階の工程最適化システムは、工場ごとに生産形態が違うため、生産形態に応じて個別に構築しています。

このように、多種類の製品群を抱える川崎重工では、KPSを軸に共通化できる部分はシステムで共通化し、できない部分は生産体系に応じてシステム構築をするという柔軟な対応を取っています。

参考:ものづくり総合大会ウェブサイト