熟練工の勘をデータで見える化?!予防・予知保全を考える

熟練工の勘をデータで見える化?!予防・予知保全を考える
著者:有限会社MEG 代表取締役社長 木暮 大輔

「町工場の熟練技術が、世界の先端技術を支えている」

日本のお家芸であるモノづくりが称賛される際によく聞く話です。テレビドラマで話題になった、ロケットエンジンに大きく貢献した町工場の技術者の話や、国産ジェット機の多くで中小企業の技術が使われている話など、日本における熟練の技は、世界の最先端技術に直結するといえるでしょう。今回は、これからの保全のあり方について考えてみます。

1. 熟練工の力が欠かせなかった保全領域

熟練工の技術は、製品を生み出すときだけではなく、保全の現場でも大きな役割を果たしています。身近な例では、水道管の水漏れ点検や鉄道の保守点検が挙げられます。水道管の点検では、聴診器のような器具を道路に当て、わずかに異なる水漏れの音を識別します。鉄道の保守点検では、熟練者が金槌で線路をたたきながら、異常音を識別して確かめてきました。どちらも安全を支えてきたのは、異常音を識別する熟練者の技術です。

水漏れ点検や鉄道の保守点検に限らず、熟練の技はどの製造現場にもある、企業の競争力の一つ。例えば製造業者では、歩留まり改善(不良品率を抑える努力)における穴あけロボットのドリル角度調整や、穴のずれ許容範囲などは、熟練工の勘と経験によって設定することがよくあります。

そのような中、近年はデータを活用することによって、熟練工だけに頼らない取り組みが見られるようになりました。データ解析結果から始動時の各種初期値を設定したり、始動後に再分析した結果を反映してティーチング値を設定したりと、これまでは熟練の技であったものが、熟練工でなくてもできるようになってきました。この取り組みは海外を中心に展開されており、近いうちに日本でも同じような動きが起こると予測しています。

図1:データ活用によるこれからの保全活動のイメージ

図1:データ活用によるこれからの保全活動のイメージ

2. ケーススタディー:データを用いた歩留まり改善のための要因検出

A社は精密機器の関連部品を製造する工程の一つで、データを活用しています。同社は毎日1,000個の同部品を製造。その製造工程はとても複雑で、鋳型製造から、鋳造、穴あけや表面処理、組み立てにまで及びます。そして同部品のさらなる生産性向上のために、データの活用をスタートしました。

従来は、歩留まり改善のための要因検出はとても困難な作業でした。製造ラインではあらゆる工程において、部品や材料の質、量、サイズ、加工条件・時間、温度、湿度などの製造条件があります。これらの変数の中から、熟練工が経験と勘で要因を絞り込んでいました。さらに特定した要因について、肌で感じる温度や湿度、機械が回転するときの音、部品が削られるときのにおいなどから、不良率の高まる予兆を感じ取り、各要素の調整を行っていたのです。

A社は製造工程のあらゆるデータを、センサーを通じて記録、分析することで、熟練工でなくても要因を特定できないかと考えました。そこで、4年目の社員にデータサイエンティスト育成トレーニングを受講させたところ、A社が保持する大量のデータを分析して、重要なデータや歩留まり改善要因を迅速に特定することができるようになりました。

さらに、分析ソフトウェアを使ってデータマイニングに取り組むことで、各データの状況から障害を予測することまで実現しました。

分析過程では、決定木分析により、歩留まり改善の要因が穴あけ工程のドリル挿入角度の大きなずれにあることや、2つの部品の穴が重なったときのずれにあることが分かりました。さらにずれの許容範囲(しきい値)をピンポイントで特定することができ、テストランの段階でしきい値を設定することで、著しい歩留まり改善が実現されました。

従来のしきい値設定は、これまでに経験した類似の部品製造時の知識を応用して行われていたため、データ活用による設定に比べると、精度が低かったのです。

3. 熟練工の暗黙知とデータ活用のコラボレーション

本稼働においても、不良品の発生にともなって収集されたデータが絞り込まれ、分析を通じて要因が特定されました。要因の中には熟練工でも特定できなかったものも検出されています。また、熟練工が感覚的に認識していた要因については、分析結果のしきい値と熟練工が判断したしきい値の両方を考慮して設定することで、高い歩留まりを実現しました。

図2:人間と機械によるハイブリッドな予防・予知保全

図2:人間と機械によるハイブリッドな予防・予知保全

データを活用した製造工程の改善は、標準化しうる部分と、引き続き熟練工の技術でしかなしえない部分とを明確にしました。熟練工の知恵が標準化されたことで、若い担当者でも対応できる業務領域は広がっています。今後人材不足が深刻になる中、このような取り組みは、保全の分野にも広まっていくでしょう。

著者 木暮 大輔

有限会社MEG 代表取締役社長
1993年米国オレゴン州ウィラメット大学卒業
1996年ニューヨーク市立大学大学院社会調査プログラムにてマーケティングリサーチを専門的に学ぶ
SPSSにてトレーナー、テクニカルサポート、シニアコンサルタントを経て、2005年に有限会社MEG 設立
主要著書:共著『SPSS クレメンタインによるデータマイニング』