Xbar-R管理図とAQL(合格品質水準)には注意!:永井さんのモノづくり海外進出見聞録2

委託先は自分の目で見極める!:永井さんのモノづくり海外進出見聞録1

更新日:2016年3月3日(初回投稿)
著者:TQM Labo コンサル代表 永井 守

この連載コラムでは、私が長期にわたり海外購入品の品質改善や品質保証に取り組んできた体験談を紹介します。第2回は、工程を安定的に管理するためのXbar-R管理図と、ある不良率以下のロットを合格させ、それ以上悪いロットは合格させない抜取検査手法AQL(合格品質水準)の信憑性について説明します。

1. 実は抜け穴だらけだった「Xbar-R管理図」

大手電気メーカーに在職中の1989年、私は香港駐在が決まり、東南アジア製HDD部品の調達を担当しました。東南アジアの購入先の選定や、選定後の工程監査および品質監視など、気を緩めることのできない日々でした。

ある日、切削部品を供給していたフィリピンの工場から寸法不良が発生していると連絡が入り、私は耳を疑いました。なぜなら、その部品の製造を委託していたメーカーは、出荷検査データを「Xbar-R管理図」で管理していたからです。

Xbar-R管理図は、Xbar抜き取ったサンプルの平均と、R抜き取ったサンプルの最大値と最小値の差、すなわち範囲をプロットした図で、製造工程が一定の品質を維持しているか否かを管理するために用いられます。管理・運用が正しく行われていれば、不良品が発生することはありえないと思いました。

しかし、実際にフィリピンから郵送されて来た部品をノギスで測定すると、規格より0.5mmほど大きいことが分かりました。至急、私は製造元へ向かい、在庫品50個をサンプリングし、検査を行いました。すると、50個のうち1個が規格外であることが判明しました。

全ての在庫品に対し検査を実施し、そのデータから平均値と標準偏差(σ)を算出し、上限規格から平均値を引いた値を標準偏差で割った数値は2.15でした。標準正規分布で推測される不良発生率は1.58%となります。50個のうち1個が不良となる理由が理解できました。一方、平均値 から下限規格を引いた値を標準偏差で割った値は3.98、不良発生率は0.0034%となります。(図1参照)

標準正規分布

図1:標準正規分布

Xbar-R管理図を用いた管理ルールでは、サンプリングした製品の測定値の平均値が上限管理限界(UCL:Upper Control Limit)をオーバーしていなければ、工程が安定して管理状態にあると判断し、製造条件の見直しを行いなません。しかし、上限管理限界値は、平均値+Rの平均値×k(サンプル数で決定する計数)であり、ロットの良否を判定する規格値が式に入っていません(図2)。

Xbar-R管理図(LCLのグラフ上に平均値が来た場合、下限規格を考慮すると、このロットには50%以上の不良が混入しているが、サンプルの平均値LCLの線上であれば、管理図のルールでは正常。工程が安定しているため、製造条件の見直しやロットの製品を全数選別することにはならない)

図2:Xbar-R管理図(LCLのグラフ上に平均値が来た場合、下限規格を考慮すると、このロットには50%以上の不良が混入しているが、サンプルの平均値LCLの線上であれば、管理図のルールでは正常。工程が安定しているため、製造条件の見直しやロットの製品を全数選別することにはならない)

このようにして私は、Xbar-R管理図ではサンプリングしたロット内における不良混入を正しく判定できないということに気付きました。問題解決を迫られた私は、Xbar-R管理図の代わりに「JIS Z 9004計量抜き取り検査」を用いることにしました。JIS Z 9004計量抜き取り検査は、製品規格と対比したロットの合否判定を行うため、Xbar-R管理の欠点を補うことができます(図3)。

図3:JIS Z 9004に基づく管理図

図3:JIS Z 9004に基づく管理図

Xbar-R管理図にて管理限界内あれば、不良品発生は当初信じられませんでした。しかし、管理図の欠点を見抜くことで、問題解決を導き出すことができました。現在でも、世界で知られているXbar-R管理図は改良されていません。

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2. AQL(合格品質水準)=1.0%は、くせもの?

海外製品を購入するにあたって、私たちは購入先メーカーに対し、工程監査を実施しました。その中に「QC工程図・QC工程表」の審査があります。QC工程図・QC工程表とは、一つの製品が完成するまでの工程の各段階における製造条件や品質特性を、工程の流れに沿って記録した表です。

QC工程図・QC工程表の検査工程に「抜き取り検査、AQL=1.0%を適用する」と記載されていることがあります。AQLは「Acceptable Quality Level」の略で、「合格する、品質、水準」という意味です。実は、この「抜き取り検査、AQL=1.0%を適用する」という記載をそのまま受け入れてしまったならば、工程監査は失敗に終わったといっても過言ではありません。何が問題なのでしょうか?

まず挙げられるのは、抜き取り検査の現実的な運用方法です。抜き取り検査の合否判断にAQLを使用する場合、検査する対象ロットが大きくなると抜き取り検査数量も増加します。しかし現実には、ロットが大きくなっても抜取検査数量は固定して実施することが大半です。

そこで工程監査時に「検査する対象ロットが大きくなった場合、最大で何個抜き取ると規定に記載されていますか?」と質問をします。最大抜き取り個数の記載がなく、品質保証内容が不十分だと判断した場合、QC工程図・QC工程表の改善を要求します。このようにして、メーカーの品質保証内容を明確にする必要があります。

さらには、「AQL=1.0%」という数値の理解についての誤解が挙げられます。実は、この「AQL=1.0%」こそが「くせもの」なのです。AQLを正しく理解してない人は、「AQL=1.0%で合格したロット内の不良率は1.0%以下」と思っています。しかし、これは誤りです。

AQLを用いた抜き取り検査のルールとして、不良率1.0%のロットは高い確率(約95%)で合格させる合否判定基準になっています。どういうことでしょうか? 図4のOC(Operating Characteristic Curve)曲線比較のグラフを見てください。例えば、「AQL=1.0%、抜き取り数=13、合格判定個数=0(ロットから13個を抜き取り、不良が0個であれば合格)」という合格判定条件では(図4の「AQL=1.0%, n=13, Ac=0」を参照)、ロット内の不良率が17.7%でも10.0%の確率で合格してしまうことが分かります。

AQL=1.0%,n=13,Ac=0とP1=4.0%,n=58,Ac=0のOC曲線:合格率(Y軸)が10.0%のとき、不良率(X軸)はAQL=1.0%,n=13,Ac=0と場合は17.7%であり、P1=4.0%, n=58, Ac=0の場合は、4.0%(グラフが少しずれましたが)になります。AQLは消費者への不良混入を考慮しておらず、品質保証上問題がある。

図4:AQL=1.0%,n=13,Ac=0とP1=4.0%,n=58,Ac=0のOC曲線:合格率(Y軸)が10.0%のとき、不良率(X軸)はAQL=1.0%,n=13,Ac=0と場合は17.7%であり、P1=4.0%, n=58, Ac=0の場合は、4.0%(グラフが少しずれましたが)になります。AQLは消費者への不良混入を考慮しておらず、品質保証上問題がある。

ここで、AQLとP1について説明をします。AQLとは先ほど記載したとおり、合格品質水準でAQL=1.0%とは1.0%のロットをほとんど合格させる抜取検査方式です。図4の「A」のようにほとんど合格するが、5%程度の確立で不合格になることを、生産者危険といいます。

P1とは、生産者に対する消費者の危険で、消費者危険といい、図4の「B」、すなわちロットが合格する確率が10%であり、不良率が高いロットが10%も合格し、消費者がこの不良ロットを購入してしまうことになります。従って、消費者は希望するP1の数値を指定して購入することが重要になります。

このように受入検査でAQL方式を適用すると、不良品が発生し、受入側は大混乱に至ることがあります。ISO/TS16949の要求事項に、「合格判定個数はゼロ」と明記されている(ただしP1の指定なし)のも、AQL方式が品質保証上、不十分であることの裏付けではないでしょうか。

受入側のリスクをも考慮したのが「JIS Z 9002計数規準型一回抜取検査」です。抜き取り検査には、この「JIS Z 9002」の導入をおススメします。一般的に、生産者危険5%(合格率95%)と消費者危険10%(合格率10%)の場合のそれぞれの不良率から、抜き取り検査で必要な標本数と不良数が決まります。抜き取り検査方式を決定する、不良率が1.0%と高い確率で合格するような抜き取り検査方式 AQL=1.0%, n=13, Ac=0を選択してはいけません。

いかがでしたか? 今回は、Xbar-R管理図とAQL用いた抜き取り検査結果をうのみにするのではなく、状況に応じた適切な管理方法を採用することの重要性について解説しました。次回は、私が台湾製FPC(Flexible Printed Circuits:フレキシブルプリント回路基板)と、カナダ製LAN製品の購入を担当し、その品質改善に奔走した事例を紹介します。お楽しみに!