試作車ボディの板金職人、13種類の道具をどう使い分けるのか?:データで伝える!熟練技術者の勘所5

20220726194859

データで伝える!熟練技術者の勘所

更新日:2017年5月23日(初回投稿)
著者:大阪産業大学 デザイン工学部 情報システム学科 教授 後藤 彰彦

前回は、熟練技術者が研磨試料を固定する姿勢や指先の技を紹介しました。今回は、長年にわたり試作車の板金加工に携わる職人の技術を解析します。

1. 試作車ボディの板金加工

板金加工は、薄い板状の金属材料に、切断、穴開け、曲げ、絞り、溶接などの加工を施し、金属材料を目的の形状に変形させる技術です。特に薄い板に加工を施す場合は、精密板金と呼ばれます。通常は常温で加工し、型に押し付けることで曲げや段差を作るプレス機、穴開けや切断を行うボール盤、マニシングセンターやレーザー加工機などの装置を使用します。

自動車メーカーは、自動車を量産する前の開発段階で試作車を製造します。試作車をもとに開発車の欠点を探り、ボディはプレスの型枠にも流用されます。製造台数は1~2台なので、ボディの形状作りは機械加工ではなく、手作業により行われてきました。

昨今は、CAD(コンピュータ支援設計:Computer Aided Design)、CAM(コンピュータ支援製造:Computer Aided Manufacturing)による開発が主流となりました。またプレス加工や三次元レーザー技術の進歩により板金加工の生産性は高まり、大幅な時間短縮とコストカットが可能となりました。このため、手作業による板金加工の仕事は減り、コンピュータによるシミュレーションが主流になりつつあります。

試作の段階では、手作業による板金加工に頼らざるを得ない仕事も残っています。しかし、手作業で板金加工を行う職人は、高齢化や後継者不足のため激減しています。職人の優れた技のコツや勘を記録、解明し、後継者の育成に取り入れることは急務です。そこで、板金技術を駆使してオールハンドで試作車のボディ製作に携わってきた職人を対象とし、技術の解析を行いました。

2. 板金加工職人の作業の記録と解析

手作業による板金加工技術の記録と解析に協力してもらったのは、77歳、職歴59年の自動車部品の板金加工職人です。職人に、鉄板からリアフェンダーを製作してもらい、作業の様子を3台のデジタルビデオカメラで撮影しました。次に、撮影したビデオ映像を見ながら、職人に聞き取りを行いました。聞き取り内容は、使用道具、各場面で成型する形状と使用する道具の関係、形状により使用する道具が異なる理由です。同時に、各道具の使用時間を記録しました。また、聞き取りの内容をテキストデータ化し、ソフトウエアを用いてテキストマイニング(文章を単語やフレーズに分割し、出現頻度や相関関係を分析して有用な情報を抽出すること)を行いました。

使用した道具の種類

リアフェンダー製作作業では、13種類の道具を使用しました(図1)。
・木づち:デンガク、キヅチ、カラカミキヅチ
・金づち:エボシ、イモヅチ、ナラシハンマー、カラカミ
・その他:カゲタガネ、ハサミ、バーナー、アテバン、サンダー、サンドペーパー

図1:板金加工に使用した代表的な道具

図1:板金加工に使用した代表的な道具

各工程の作業時間と道具の使用頻度

リアフェンダーの製作作業は、上部形状出し、下部形状たたき、中部形状出し、溶接、左側面の形状出し、仕上げの6工程に大別されました。表1に、各工程の名称と作業を示します。

表1:リアフェンダー製作の工程
A. 上部形状出し 1. ゲージ作り
2. 板裁ち
3. 形状出し a. 形状たたき
b. ひずみ取り
c. 溶接
d. ひずみ取り(2回目)
e. 溶接(2回目)
f. ひずみ取り(3回目)
g. 形状たたき(調節)
B. 下部形状出し 1. ゲージ作り
2. 板裁ち
3. 形状出し a. 形状たたき
b. ひずみ取り
c. 溶接
d. ひずみ取り(2回目)
e. 形状たたき(調節)
C. 中部形状出し 1. 板裁ち・寸法・切断
2. 形状出し・形状R曲げ
D. 溶接 1. 上部と中部の溶接
2. 溶接箇所ひずみ取り
3. 下部の溶接
4. 溶接箇所ひずみ取り
E. 左側面の形状出し 1. ゲージ作り
2. 板裁ち
3. 形状出し
4. 溶接
5. 溶接箇所ひずみ取り
F. 仕上げ 1. 下部を型に合わせて切断
2.サンダーで仕上げ

職人は、リアフェンダーの形状出し工程を、上部、下部、中央部の順で行いました。続いて、溶接工程、左側面部の形状出し工程を行い、最後に仕上げ工程を行いました。作業時間の合計は5時間で、それぞれの工程で要した時間は、上部形状出しが1時間12分49秒、下部形状出しが24分23秒、中部形状出しが23分58秒、溶接が1時58分30秒、左側面の形状出しが20分20秒、仕上げが40分00秒でした。

図2に、各工程における道具の使用頻度を示します。

図2:工程ごとの道具の使用頻度

図2:工程ごとの道具の使用頻度(引用:池元茂、因幡兵次郎、澤田貞良、小瀬木将弥、高井由佳、後藤彰彦、自動車の板金加工熟練職人からの聞き取り調査による最適作業プロセスの解明、機械材料・材料加工技術講演会講演論文集、2012年、P.516)

上部形状出し工程における形状たたきでは、木づちの一つであるデンガクを多用していることが分かりました。下部形状出しでは、突出して使用頻度の高い道具はありませんでした。中部形状出しでは、上部と下部の間に入れる部分ということもあり、ハサミでの切断が多く見られました。溶接と左側面の形状出しではバーナーの使用が、仕上げではサンダーとハサミの使用が多く見られました。

3. 職人への聞き取り内容のテキスト分析

上部形状出し工程に関する聞き取りにおいて、「デンガク」という単語の発言数と関連単語の分析結果を図3に示します。

図3:上部形状出し工程における「デンガク」に着目した単語の発言数と関連性

図3:上部形状出し工程における「デンガク」に着目した単語の発言数と関連性(引用:池元茂、因幡兵次郎、澤田貞良、小瀬木将弥、高井由佳、後藤彰彦、自動車の板金加工熟練職人からの聞き取り調査による最適作業プロセスの解明、機械材料・材料加工技術講演会講演論文集、2012年、P.516)

この図では、単語の発言数が多いほど円が大きく示され、単語同士の関連性が高いほど線が太く示されます。発言数が最も多かったのは「たたく」で19回、次に多かったのは「デンガク」で13回でした。また、「デンガク」と関連が高い単語は、「たたく」「鉄板」「角」「アール(R:曲げ)」でした(関連性5)。これらにより、デンガクは、角や曲げを作る際にたたいて使用するということが分かります。また、絞りや段落としに使うことも分かりました。このような分析を進めていくことにより、行う作業や鉄板の状況を入力することで、どのような道具を使用し、どのように加工すればよいのかを検索できる、板金加工手法のデータベースの構築が可能になります。

いかがでしたか? 今回は、試作車の板金加工に携わってきた職人の技術を紹介しました。次回は、最終回、繊維強化プラスチックの成形熟練工のワザを取り上げます。お楽しみに!

おすすめピックアップ
板金加工 精密板金加工