熟練旋盤工も気付いていない!?チャッキングのコツ:データで伝える!熟練技術者の勘所3

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データで伝える!熟練技術者の勘所

更新日:2017年2月28日(初回投稿)
著者:新居浜工業高等専門学校 機械工学科 教授 吉川 貴士

前回は、旋盤加工における熟練技術者の動作、製品、意識のデータ化を取り上げました。今回は、旋盤加工のチャッキングと姿勢の関係について解説します。これもデータ化できるのでしょうか?

1. 旋盤加工のチャッキングとは?

旋盤とは、円筒状の鉄鋼材を加工する工作機械です。被削材は、チャックと呼ばれる部分で固定されます。被削材を固定したチャックを回転させて、被削材にバイト(刃)を当てて切削します。

図1:三つ爪スクロールチャック

図1:三つ爪スクロールチャック

汎用普通旋盤では、図1の三つ爪スクロールチャックがよく使用されます。チャックハンドルでピニオンを回転させることで、スクロールが回転し、3つのチャック爪が同時に放射状の中心に向かって移動し、被削材を締め付けます。

今回は、チャックハンドルを回して、被削材を優しく、かつしっかりと固定する技術に着目しました。非熟練者の加工製品には、図2に示すように深さ最大8μmのチャック跡が残っていたからです。ただし、このチャック跡は、バイトによる加工溝よりも浅く、指定の仕上げ面粗さでは無視できるものです。一方、熟練技術者は、わずかな跡さえ残さずにしっかりと被削材を把持していました。なぜ、このような違いが生まれたのでしょうか?

図2:非熟練者による旋盤加工のチャック跡

図2:非熟練者による旋盤加工のチャック跡

2. 熟練技術者と非熟練者のチャッキング姿勢の比較

まず、今回のチャッキング姿勢の分析にあたり、図3に示す6つのチェック項目を設けました。図3aの天井から見た旋盤と被験者の立ち位置、bは両足の位置、cは正面から見た脚幅と肩の向き、dは側面から見た上体の角度(腰の前傾角度)、eはチャックハンドルを持つ位置、fはチャッキングにおける身体のねじり方(腰のひねり方)です。

図3:チャッキング姿勢のチェック項目

図3:チャッキング姿勢のチェック項目

これらのチェック項目から、熟練技術者のチャッキング姿勢は、大きく3タイプに分かれました。彼らには特に使い分けの意識がないようで、全て「一緒!」と言われました。しかし、詳しく分析すると、鋼材表面の酸化被膜を削るとき、高速回転での荒削りのとき、寸法を仕上げるとき、仕上げ面などを掴むときなど、工程によってタイプが違っていました。

図4:チャッキング姿勢、熟練技術者3タイプと非熟練者の比較

図4:チャッキング姿勢、熟練技術者3タイプと非熟練者の比較

図5:熟練技術者と非熟練者のチャッキング時の姿勢

図5:熟練技術者と非熟練者のチャッキング時の姿勢

図5に、実際の熟練技術者タイプA、タイプB、非熟練者のチャッキング時の写真を示します。立ち位置の違いが明確です。非熟練者は、全てのチャッキングを同じ姿勢で行っていました。今回写真を掲載していない熟練技術者のタイプCは、タイプBとチャックハンドルの握り方が違うだけで、立ち位置はタイプBと同様になります。

図6:熟練技術者タイプBのチャッキング動作と軌跡

図6:熟練技術者タイプBのチャッキング動作と軌跡

さらに詳しく、チャッキング姿勢を分析していきます。図6は熟練技術者タイプBのチャッキング動作と軌跡です。aは旋盤に対する立ち位置の写真、bは背面方向からの腰、肩、肘、手首の位置、cは天井方向から見た旋盤に対するX軸とZ軸の模式図、dは天井から見た腰、肩、肘、手首の位置を示しています。このタイプの熟練技術者は、旋盤に対して35度左脚を開いて、立っています。左右の腰(図6bの黄色)は平行のまま回転せず、右肘(青色)と右手首(茶色)も水平にキープしたまま、引くように締め付けています。しかし、左肘(赤色)と左手首(薄紫色)は、押し上げるように力を加えていることが分かります。

両サイドの腰(図6dの黒と黄色)はほとんど移動がなく、肩を回転させることで、チャックハンドルを回して、締め付けていることが分かります。そのために、図6aのような立ち位置の姿勢で、ハンドルを鉛直軸から少し手前に傾けることで、大きな力を発揮しています。

図7:非熟練者のチャッキング動作と軌跡

図7:非熟練者のチャッキング動作と軌跡

非熟練者は、どうでしょうか? 図7は、非熟練者のチャッキング動作と軌跡です。aは旋盤に対する立ち位置の写真、bは天井から見た腰、肩、肘、手首の位置を示しています。腰、肩、右肘が、同程度の間隔のまま、円弧を描くように移動しています。これは、膝を曲げて体全体で体重を乗せながら、チャックハンドルを回して、締め付けているからです。

3. 熟練技術者のチャッキングの実態

ここまでのデータ分析で、熟練技術者と非熟練者のチャッキング動作には、大きな違いがあることが分かりました。熟練技術者の3パターンの動きについては、本人たちは「特に力加減をしていない」と言います。しかし、第2回の旋盤加工の意識のデータ化の章で紹介したように、「製品に傷を付けない」という意識は持っており、現に完成した製品にはチャック爪による圧跡がありません。

そこで、私たちは、熟練技術者は常に全力で締め付けているけれども、姿勢を変えることで被削物に対して、適切な力を加えていると仮定しました。全力でも姿勢によって、被削材に加える力を制御できるということです。

もう一度、2章の図4:チャッキング姿勢、熟練技術者3タイプと非熟練者の比較の図を見てください。例えば、「両足の位置」は、熟練技術者タイプBとCでは、両肩のラインと両足のラインの角度は15度です。「上体の傾き」は、熟練技術者タイプA、B、Cと非熟練者の角度は、15度、20度、20度、5度でした。

図8:タイプ別のチャッキング負荷の割合

図8:タイプ別のチャッキング負荷の割合

図8は、熟練技術者3タイプと非熟練者における、通常のチャッキング負荷と最も締め付けやすいと感じる姿勢で行ったチャッキング負荷に対する割合のグラフです。熟練技術者タイプA、B、Cと非熟練者の締付力は、全力で締め付けた場合と比較して、それぞれ40%±3.7、52%±11.8、25%±9.2、50%±4.7となりました。この結果から、姿勢のタイプが同じであれば、最大締付力に対して同じ割合で、非常に偏差の少ない締付力を被削材に加えることができます。すなわち、熟練技術者は全力で締め付けているにもかかわらず、被削材に対しては約40%、50%、25%に力を制御して、被削材の状況に応じた締付力でチャッキングしていることが明らかとなりました。

人が変わると最大の力の値も異なってくるので、「粗削りなら両足のスタンスは何度で、肘の角度は何度」ということはできません。ポイントは、熟練技術者は優しく、かつ強く締め付ける行為を、姿勢を変えて被削材に及ぼす締付力を制御しながら、行っているということです。この方法では、締付け過ぎなど過剰な負荷を被削材に与えずに、製品に対して優しいチャッキングが可能です。熟練技術者の勘所の一つといえるでしょう。

今回は、旋盤加工のチャッキングと姿勢の関係について解説しました。次回は、熟練技術者の研磨(ポリッシング)の技を見ていきます。お楽しみに!

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