前回は、建築を取り巻く水と排水計画を説明しました。今回は、防水層に要求される性能と試験について解説します。防水材は、屋上スラブや、地上や地下の外壁に使用されています。建物の一部を構成するため、建物の外側に存在する建築部材としての性能が求められます。防水層にどのような性能が求められるか学びましょう。
1. 防水層に必要とされる性能
1:水密性
水密性とは、圧力が加わった環境で密閉した液体が外部に漏れない、または内部に液体が流入しない性質をいいます。水密性は、水圧が高いほど、性能の高さが求められます。まず、屋上を例に説明します。防水の分野では、水位1m位の水圧(1t/m2)に耐えることが想定されています。手すりを兼ねたパラペットの高さは1.1m以上と定められており、防水層もこれを目標として作られているからです。しかし、実際にこれほど多量の水が屋上にたまると、1t/m2を超える大きな積載荷重となり、構造負担が大きくなり過ぎます。そのため、ドレンを設け雨水を速やかに排水し、できるだけ水位が上がらないようにするのが一般的です。図1は、高さ30cm位の低く抑えたパラペットの例です。手すりを兼ねるパラペットの場合でも、途中にあご(パラペットの上部についた出っ張り)を設けることが多いです。地下は、かなりの水圧を覚悟する必要があります。例えば地下10mの深さのところでは水位10mに相当する水圧がかかることになります。地下の防水は、高い水圧に耐えうる構造にすることが必要です。
2:下地不連続部(ひび割れ、パネル接合部など)の耐ムーブメント性
下地不連続部とは、下地に入るひび割れや接合部分をいいます。防水層は、さまざまな下地の上に施工されています。最も多いのは、現場打ち鉄筋コンクリートです。コンクリートにはひび割れが発生します。またパネル類(PC板や断熱材)で作ると接合部ができます。これらの下地不連続には、部材の温度変化により伸び縮みし、それに連動する拡大と縮小の動きが生じます。防水の分野ではこのような下地不連続部の動きをジョイントムーブメントと呼びます。
図2は、鉄筋コンクリート壁のひび割れの温度ムーブメントの一例です。0.1mmにも満たないわずかな動きで、コンクリートの温度と連動して、一日の中で広がったり、縮まったりします。その上に施工される防水層は、この繰り返しにより疲労していきます。もともと防水層は、下地にひび割れが生じても雨水を建物内に入れないことを目的とされています。しかし、過度のムーブメントが長期間続くと、破断することもあります(図3)。耐ムーブメント性は防水層にとって最も重要な性能です。
3:耐風性
耐風性とは、台風などの強風に耐える性質のことをいいます。防水層は建物の最上部にあるため、強風が吹くと上方への吸い上げ力が生じます。飛行機の翼をイメージするとよいでしょう。下地との接着が不十分な場合は、防水層が吸い上げられて吹き飛ばされることがあります(図4)。ビルの屋上に生じる吸い上げ力は、中央部より隅角部が高くなります。例えば、東京の中層ビルの屋上の設計吸い上げ力は、0.4t/m2程になります。これは、1m2の防水層に、体重70kgくらいの大人が6人ぶら下がった状態に相当します。かなり大きな力であることが想像できるでしょう。
4:耐ウェザリング性
ウェザリングとは、屋外気象の影響により材料が次第に劣化することです。そのため、耐ウェザリング性とは、ウェザリングに耐える性質ということになります。高分子材料の分野ではよく使われる表現です。防水層は建物の外面にあるので、気象の影響をじかに受けます。防水層は、10年から20年、最近はもっと長期間使われ続けるために、時間とともに防水材料が硬くなり、変形能力が低下したり、材料の表面の状態が変化したりします。つまり漏水のリスクが次第に高まるのです。耐ウェザリング性に優れることは、防水層を長持ちさせるための大事な性能ということです。
2. 防水層の性能を調べる試験
防水層の性能を調べる試験には、主に水密性試験、耐ムーブメント試験、耐風性試験、ウェザリング試験があります。この4つの試験と、その他の試験について説明します。
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