超音波計測・センシング:超音波の基礎知識3

超音波の基礎知識

更新日:2019年4月4日(初回投稿)
著者:東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 教授 中村 健太郎

前回は、超音波の発生と検出を取り上げ、圧電振動子、計測用トランスデューサ、およびパワー用トランスデューサを紹介しました。今回は、超音波計測(センシング)について解説します。代表的な超音波計測として、厚さ測定、距離測定、流速測定などが挙げられます。超音波の伝搬時間や、ドップラー効果による超音波周波数の変化を検出することで、計測が可能です。

1. 厚さ計測・距離計測

超音波パルスを用いた実用例に、配管管壁の厚さ測定があります。超音波を用いることで、管の外から、配管の肉厚が減っていないかを調べられるのが利点です。管の外面にトランスデューサを押し当て、超音波パルスを送信すると、超音波は管壁の中を伝わり、管壁の内側で反射され、トランスデューサが受信します(図1の反射波1)。この反射波は管の外側で反射されて再び管の内側に向かい、そこでさらに反射されてトランスデューサが受信します(図1の反射波2)。

図1:配管管壁の厚さ測定

図1:配管管壁の厚さ測定

このように、送信したパルス波は管壁内で多重反射して、そのたびにトランスデューサが受信します。よって、トランスデューサで検出される受信波形は、同じ時間間隔Tで並んだパルス列になります(図2)。

図2:厚さ測定の受信波形

図2:厚さ測定の受信波形

時間Tは、超音波パルスが厚さLの管壁を往復する時間です。管壁内の音速をcとすると、管壁の厚さは、L=cT/2 で求めることができます。なお、厚さ測定には、数MHzの周波数が使われます。

管壁のような固体を測定する場合、トランスデューサを物体に密着させる必要があります。密度と音速の積を音響インピーダンスといい、音響インピーダンスの異なる物体の間では超音波が反射します。トランスデューサと物体が密着していない場合、つまり空気が介在していると、超音波が透過しにくくなります。これは、空気の密度や音速が固体と比べて非常に小さいためです。そのため、トランスデューサと物体の間に、水やゼリーを入れます。水やゼリーなどの個体で満たすことで、音響インピーダンスが大きく変わることを防ぎます。超音波医用診断装置でゼリーを使うのも同じ理由によるものです。

一方、空気中の距離計測には、自動車やロボット、ドローンなどに用いられる近接センサがあります。近接センサは超音波を空中に送信し、障害物からの反射波を検出します。この時、反射波が戻る時間から、障害物までの距離を割り出します。

空気は音響インピーダンスが小さいため、受信器は固体に用いられるトランスデューサではなく、金属薄板に圧電セラミックスを貼り付けたものや、アルミニウム箔を圧電セラミックスで振動させるものが使われます。これらは、超音波センサとして量産されています。空気中では、固体中や液体中よりも超音波の減衰が大きいため、数十kHzの低い周波数が使われています。

2. 流速計測

超音波は光や電波とは異なり、媒質を伝わる波動です。そのため、気体や液体などの媒質が流れる速度(流速)を測定できます。図3のように、流れの方向に超音波を送信すると、距離Lだけ離れたトランスデューサに到達する時間T1は、音速をc、流速をVとして、T1=L/(c+V) で表せます。

図3:流速測定

図3:流速測定

一方、流れと逆方向に超音波を送信した場合の到達時間T2は、T2=L/(c-V) となります。このように、超音波の上りと下りの伝達時間によって、以下の式で流速を求めることができます。この原理は、ガスメータの流量測定や、風速計に活用されています。

配管中の流速を測定するには、配管の外側にトランスデューサを斜めに取り付けるクランプオン流速計が用いられます(図4)。超音波の伝搬方向と流れの方向のなす角度の余弦に応じた流速が測定できます。

図4:クランプオン流速計

図4:クランプオン流速計

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3. 非破壊検査

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