チームで仕事をしている現場の皆さんから、「チームのコミュニケーションがうまくいかない」とか、「チームワークを発揮するにはどうすればいいのか分からない」といった悩みの声を聞くことがあります。チームで成果を上げられるようにマネジメントするには、さまざまな個性を持つ人々が集まって働くチームにはどのような特徴があるのか、よく知っておくことが大切です。今回は、チームとは何か、について理解を深めていきましょう。
1. チームが備えるべき条件
複数の人々が集まって仕事をすれば、それはチームと呼べるのでしょうか? あるいは、職場で〇〇チームと名付けられていれば、それがチームなのでしょうか? 野球やサッカー、ラグビーなどのチームと比較してみると、いずれも少し、物足りない印象を受けるのは否めません。
図1に、一つの集団がチームとして機能するために満たすべき条件を示します。そのうち、最も大切な条件は、チームで達成すべき目標が明確に示されていて、メンバーみんなでその目標を認識し、共有していることです。また、メンバー同士が何らかの方法でコミュニケーションを取り合い、協力し合いながら活動することも、チームであることの大事な条件です。さらには、複数人のメンバーがいて、それぞれに役割が振り分けられていること、そして、どんな手順で活動をするか、一定のルールや約束事が存在することも、チームとして機能する上で必要です。

多くの職場で、さまざまなチームが作られています。そして、ほとんどの場合、上で述べた条件は満たしているように見えます。ではなぜ、「チームワークを発揮することが難しい」という嘆きの声が上がってくるのでしょうか。
それは、実際のところ、チームで仕事をするといっても、メンバーの個人的な心理としては、自分の役割・責任を果たすことについては非常に気になる一方で、チームのみんなで目標達成することには、さほど注意が向かないことが多いためです。その理由は、次のように説明できます。
まず、仕事の結果について、個人としての責任を問われることは非常に辛いため、できるだけ避けたいと思うものです。他方、みんなで取り組むチームの仕事は、目標を達成できない場合でも、その責任はチーム全員で負うことになるため、個人として責められる辛さは和らぎます。つまり、チームで仕事をすることによって、メンバーが感じる責任感が分散し、低下してしまうリスクが伴います。従って、チームを作っただけでは、期待するようなチームワークの発揮や、高いチーム・パフォーマンスが実現されるとは限りません。
責任感の分散のリスクを考えると、メンバー個々の業績を監視し、各自が責任を果たす仕組みを取り入れたくなるかもしれません。しかし、それでは、メンバーはいつも監視されながら、義務感に縛られ、受け身の姿勢で仕事に取り組むことになります。「やらされ感」の充満は、充実感や満足感のある仕事にはつながりません。
メンバーが充実感や満足感を得ながら、チーム活動に取り組むには、チームの目標を、自分たちが是非とも達成したい(達成すべき)ものとして捉える、攻めの姿勢を引き出すマネジメントが大切になります。そのカギはどこにあるのでしょうか。
2. ミッションの重要性
図2に、チーム活動の概念図を示します。ゴール(目標・成果)の上に、ミッション(狙い・目的)があることに気付いたでしょうか。ゴールとは、現在のチーム活動によって達成しようとする、目前の達成目標です。短期的な目標といってもいいかもしれません。それに対して、ミッションとは長期的な目標です。目前のゴール達成を積み重ねていった先にある、チームとして将来達成したいより大きな目標といえるでしょう。または、「どんなチームになりたいのか」、「チームとしてどんなことを成し遂げたいのか」といった、チームが目指す理想像と表現することもできるでしょう。

では、このチームの概念図に、ゴールだけでなく、ミッションまでがわざわざ示されているのは、なぜでしょうか? 職場のチームの場合、一つの目標を達成しても、また次の目標が待ち構えています。例えば、今年の目標は達成しても、また来年の目標が待っています。もちろん、目前の目標を一つ一つ、コツコツと達成していくことは大事です。しかし、そればかりに終始しても、次第に同じことの繰り返しのように感じられて、マンネリ感を覚えるようになります。また、チームで仕事をしていると、楽しいこともある一方、苦しいことや辛いことも経験します。そんなとき、目前の仕事をコツコツと頑張るしかないと思うのでは、逃げ場がないように感じられます。それでは納得がいかず、仕事への意欲も長続きしません。
ミッションとは、「このチームは、何のためにこんなことやっているのだろう?」、「チームでこんなことをやっていて、将来どんなことに役立つのだろう?」といった素朴な疑問への答えだといえます。ミッションをメンバーで共有することは、チームの長期的な目標を思い描き、その達成のために、今何をやっていくべきなのか、メンバーみんなで分かっていることを意味します。このように、理想とするチームの将来像を思い描くことで、一つ一つの目前の目標達成が持つ意味を理解できるようになります。また、取り組む意欲の高まりにもつながります。
どのようなことができるチームを目指すのか、なりたいチーム像を長期的な視点に立って、みんなで思い描くことで、ミッションの共有が可能になります。私たちは、目の前の目標達成に関心が集中しがちです。しかし、折に触れて、自分たちのチームのミッションに思いをはせることは、苦しいとき、辛いときでも、みんなで力を合わせて頑張る気力や意欲の基盤になります。ミッションの共有は、チーム活動の持続可能性を高める機能を持つ点で、重要だといえるでしょう。
3. チームマネジメントの重要課題
ここまで説明してきたように、チームでは、効率的にチームの目標を達成できるように、必要となる役割が検討され、メンバー一人ひとりに果たすべき役割が割り当てられます。入社すると、特定の部署に配属が決まることをイメージすると良いでしょう。
役割は、メンバー各自にとっては、自分の成すべきことや責任の範囲を意味します。このとき、個人としては、この役割をきちんと果たすことが自分の責任だ、という考え方に陥りがちです。しかし、メンバー各自が、その与えられた役割を果たしさえすれば、チームの目標は達成できるものでしょうか?
もちろん、職務設計上は、メンバー各自が個人の役割を果たせば、その成果を総計することで、結果としてチームの目標が達成できるように計算されているはずです。ところが、メンバーによって考え方や価値観に違いがあり、うまく協調して仕事ができない場面も起きます。それが、チームで仕事をするときの難しいところです。
メンバーは、チームの目標を達成するために、最善を尽くすことを求められます。そのため、個人的な意見や感情は抑え、我慢して、チーム全体の利益である目標達成に尽力すべきだという見解もあり得るでしょう。そうした個人の利益や権利よりも、集団全体の利益を優先すべきだとする考え方は、集団主義と呼ばれます。
しかしながら、メンバー一人ひとりには、自分なりの意見や価値観があり、それらが食い違うことは、むしろ当然なことです。集団主義の観点から、個人の意見や価値観を我慢するように抑圧したのでは、メンバーの自律性は損なわれ、チーム全体の活力も失われてしまいます。かといって、メンバー各自が、自分の考え方ばかりを優先して仕事をしたのでは、活動にまとまりのない、バラバラなチームになってしまいます。
では、どのように対処すればいいでしょうか? それこそがチームマネジメントの最も大切で、難しい課題なのです。意見が分かれるときでも、メンバー同士で話し合い、みんなが受け入れられる落とし所を見つけていくことが重要です。メンバー各自が、自分の考えや価値観を大切にしながら、チームの目標達成に進んで協力し合うには、普段からメンバー同士がよく対話を行い、言いたいことを気兼ねなく言い、相手の話によく耳を傾ける習慣作りが効果的です。対話と協調を基盤とするチームマネジメントを実践することが、問題解決のカギであるといえるでしょう。
いかがでしたか? 今回は、チームが備えるべき条件や、ゴールやミッション、また、チームマネジメントの重要課題を紹介しました。次回は、具体的に必要な取り組みなどを説明します。お楽しみに!