店舗運営における変化とトレードオフ:店舗運営の基礎知識5

店舗運営の基礎知識

更新日:2022年3月23日(初回投稿)
著者:中京大学 総合政策学部 総合政策学科 教授 坂田 隆文

前回の、店舗運営における、差別化と模倣の関係から分かるように、小売業者は、店舗を運営する中で他店と差別化を図っても、常に他店から模倣される宿命にさらされています。それでも、差別化を目指して変化し続けなければ、店舗運営において利益を生み出すことはできません。しかし、変化するといっても、小売業者は店舗運営においてさまざまなトレードオフを背負っています。今回は、店舗運営における継続的変化とトレードオフについて確認してみましょう。

1. 差別化の3つのフェーズ

差別化を行うということは、他店と比べて魅力的な違いを持つということです。それでは、魅力ある店舗とは何でしょう。最寄り駅から自宅までの間にある通いやすい店、他では入手しづらい商品を取り揃(そろ)えている店、お値打ち価格で販売している店など、さまざまな観点から魅力を説明することができます。定価でどの店でも売られている商品をわざわざ遠方まで買いに行くということは考えにくく、私たち消費者は、無意識のうちに魅力的な店を選択する購買行動をとっています。しかし、前回「業態」という概念を用いて説明したように、店舗の魅力というのは比較的模倣しやすく、差別化の決定要因にはなりにくいものです。

ここで差別化という概念について、確認しておきましょう。差別化というのは、単に違いがあるというものではありません。それは単なる差異であり、マーケティング用語でいう差別化とは、図1に示すように、その違いが消費者にとって価値あるものと認識されなければなりません。しかも、その価値ある違いも、すぐに真似られてしまっては差別化とはいえません。

図1:差別化の3つのフェーズ

図1:差別化の3つのフェーズ

この連載では、これまでにプライベートブランド(PB)を扱うことによって差別化を図る店舗や、競合他社から見えにくい事業システムを整備することで差別化を図る店舗について議論してきました。しかし、PBや事業システムはフェーズ1や2は達成できたとしても、フェーズ3を達成することは困難です。なぜなら、あるメーカーが特定の小売業者に対してPBを提供したとしても、それが人気を博すれば、そのメーカーは類似商品を他の小売業者に提供するようになるかもしれません。もちろん小売業者側はそれを防ぐための契約を行います。しかし、それも時限措置付きにならざるを得ません。また、事業システムがいかに目に見えないにくいものだとしても、その仕組みが永遠に解明も模倣もされないというのは考えにくいことです。そのため、店舗運営において上記3つのフェーズを満たす真の意味での差別化というのは、本当に難しいことだといえます。

2. 店舗の継続的変化

前述の、差別化の3つのフェーズを満たすには、変化し続けることが一つの条件になります。ある店舗が一度何らかの魅力的な違いを生み出したとしても、それが模倣されてしまっては継続的な利益を生み出せません。継続的な利益を生み出そうとするならば、その店舗は新たな魅力的な違いを生み出し続けなくてはなりません。これは、当然といえば当然のことかもしれません。自動車メーカーでも自動車のモデルチェンジは継続的に行い、Windowsも常にアップデートやバージョンアップしています。現状維持で継続的な利益を得られるなど、店舗運営に限らず、ビジネスの世界ではそのような甘いことはありません。

日本で最初の大規模小売商といわれる百貨店も、呉服屋から始まり、徐々に取扱品目を増やしていくことで百貨店への変化を遂げました。また、家電量販店の台頭で、それまで店頭で扱っていた家電を扱うのをやめたり、屋上遊園地が消費者にとって魅力的な場でないと考えるや否や、屋上の使い方を変えたりもしています。ちなみに、日本で初めてディズニーランドができたのは、1957年の三越日本橋店屋上です。1カ月の期間限定であったものの、アメリカのウォルト・ディズニー・カンパニーと正式に契約が結ばれ、開園されました。このような変化は、何も百貨店に限ったことではありません。スーパーでもコンビニエンス・ストアでもドラッグストアでも、変化しない店舗は徐々に廃れていく可能性にさらされています。

では、小売業者にはどのような変化が可能なのでしょう。一度出店した立地を変える― あまりにコストがかかります。では、業態を変えてしまう― そんなことをすれば、取引先の変更が必要となり、何よりも既存顧客を失ってしまう恐れがあります。最も簡単な変化といえば、店頭に陳列する商品を変えることでしょう。例えば、駅構内にあるコンビニエンス・ストアでは、朝と夕方とで店頭の品揃えを変えることがあります。朝であれば昼食用のパンや弁当を多く並べるのに対し、夕方には自宅で楽しめる菓子類を充実させるといった、店頭陳列の変化を行っているコンビニエンス・ストアも存在します。この品揃えや陳列というのは、店舗が最も手軽に行える変化の一つでしょう。しかし、この品揃えというのも、突き詰めて考えると、実は非常に難しい問題をはらんでいます。

3. 店舗運営におけるトレードオフ

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