前回は、防振の仕組みと防振材料を取り上げました。今回は、騒音・振動の防止設計について解説します。音に関わる特別な室以外でも、よりよい生活空間を作るために、騒音・振動の防止設計を行う場合があります。ただしその時には、必要以上に静かな空間や、居住スペースを脅かす程の大きな遮音壁を造るのではなく、用途に応じた適切な仕様にすることが肝要です。
1. 騒音防止の設計フロー
騒音防止(遮音構造)の設計手順を、図1のフローチャートに示します。配置計画(各室のレイアウト)が決定したら、検討対象室の抽出、室内騒音目標値の設定、騒音伝搬経路の洗い出し、音源室の発生騒音の予測、必要遮音量の算出です。それでは、5工程を順に解説します。
1:検討対象室の抽出
家屋や建物全体の配置計画(設計)が終了したら、音について考慮する室を選定します。室の用途から静けさが強く要求される室、生活環境レベルの静けさが要求される室、騒音・振動が発生する室など、静かであることが求められる室と、大きな音(振動)の発生が予測される室を、前もって選択・把握しておきます。
2:室内騒音目標値の設定
室内の静けさの度合いを決める際、基本的にはその室の利用者の意見を参考にします。音に対する考え方や感じ方は、人によってさまざまな差があり、画一的に決めることが難しいからです。なお、学会の推奨値や文献などを基に目標値を設定する時には、図2のような周波数特性のグラフを利用します。
図2左のNCグラフは、アメリカの音響学者L.L. Beranekが、会議室内に外から聞こえてくる騒音など、主にオフィスにおける騒音を想定して作成した基準周波数特性です。対して図2右のNグラフは、日本建築学会が推奨する、室内の内部騒音(エアコンやエレベータ、水音など)に関する基準周波数特性です。それぞれの室の用途によって、NC値もしくはN値を設定し、騒音がその値の範囲内に収まるように設計します。
3:騒音伝搬経路の洗い出し
次に、騒音伝搬経路について、細かく検討していきます。大きな音が発生する室と静けさを求める室、そしてその両方の条件を必要とする室など、平面プランと断面プランを見ながら、騒音対策を検討すべき騒音伝搬経路を抽出します。
4:音源室の発生騒音の設定
大きな音が出る室がある場合、音の大きさがどの程度か把握します。実際に騒音を測定できる場合には、測定して確実なデータを取得します。それができない場合には、文献、類似した案件のデータなどを参考にします。しかし各条件によって数値に差異が生まれる場合も多いので、注意しましょう。
5:必要遮音量の算出
空気伝搬音の必要遮音量を算出します。簡単にいうと、音源室の発生騒音から、各室内の騒音目標値を差し引くと、必要遮音量となります。なお遮音量を設定する際には、図3のような周波数特性を利用します。
図3左のDrグラフは、室間音圧レベル差の基準、図3右のTグラフは、扉や窓の遮音性能の基準となる特定場所間音圧レベル差の基準グラフです。ここで一つ、注意しておきたいことがあります。通常の遮音性能には、振動伝搬(固体伝搬音)による限界(Dr-60~65)があることです。Dr-60~65が固体伝搬の限界になるのは、それ以上の性能が必要な場合には、振動による放射音を防ぐ必要があるからです。また実際の施工に当たっては、設備配管などの貫通部の処理によって性能が確保されないことが多いため、施工図段階でのチェックを忘れずに行いましょう。この場合、貫通する配管の回りに遮音補強を施す必要があります。
5つの工程を終えたら、騒音対策にコストがかかりすぎていないか、要求を満足させられる遮音構造が実現しているか、しっかり点検しましょう。これらを満たせていない場合には、再び配置計画に戻り、各フローを再検討する必要があります。
2. 遮音構造、4つの落とし穴
遮音構造でクレームへとつながりやすい4つの落とし穴と、その解決方法を紹介します。盲点をつぶすことで、必要とされる遮音レベルを確実に実現しましょう。
1:システム天井と界壁の関係性
一般的なオフィスでは、工場生産されたパネル式のシステム天井がよく採用されています(図4)。
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