前回は、地盤工学の地震防災における社会的な役割として、地盤の液状化現象・盛土造成地・土構造物の被害に対する対策の現状と課題について解説しました。今回は、最終回です。大規模な降雨による土砂災害や河川の氾濫、浸水被害など、降雨災害対策における地盤工学の社会的役割を取り上げます。
1. 降雨災害の種類
日本は多雨地帯に属していて降水量が多く、加えて山地や丘陵地の斜面や急流河川が多いため、毎年のように豪雨による災害が発生しています。このうち、地盤工学に関係する災害は、土砂災害と河川の氾濫です。また、一口に土砂災害といっても、急傾斜地の崩壊、土石流、地すべりがあり、それぞれ発生する地盤の条件や対策の仕方が異なります。
2. 土砂災害に対する対策
・急傾斜地の崩壊
豪雨時に最も多く発生するのが急傾斜地の崩壊であり、これにもまた、裏山の崖崩れ程度から大規模な斜面崩壊に至るまでさまざまな種類があります。さらに、自然斜面は硬い岩盤や締まった砂など多種多様な岩や土で構成されており、豪雨時の崩壊のしやすさが異なります。頻繁に発生する急傾斜地の崩壊としては、長い年月の間に風化して弱くなっていた表層部分が、豪雨によりすべりを起こすケースがあります。盛土斜面では、第2回の図7で示したように円弧状にすべることが多くなっています。一方、自然斜面の場合は表面から平行に風化が進行することが多いので、図1に示した模式図のように、直線状にすべることになります。すべりに対する安定性は、一般にすべりに対する安全率FSで表します。図中に示した、単純なケースにおける安全率の計算式と例題のように、豪雨時に水位が上がるだけで不安定化します。
1:風化して土砂化した層が豪雨時に風化層下面をすべり面としてすべると仮定し、常時にはすべり面位置にあった水位が豪雨時に斜面表面まで上がると仮定します。
2:風化層の粘着力がゼロの場合、斜面の勾配をθ、風化層の単位体積重量をγt、風化層のせん断抵抗角をΦ’、水の単位体積重量をγwとすると、すべりに対する安全率FSは下記のように表せます。
例えばθ=20.0°、Φ’=30.0°、γt=18.0kN/m3の場合、常時のFS=1.58、豪雨時のFS=0.72となって、常時は安定していた斜面でも豪雨によって風化層がすべることになります
このような小規模の崩壊に対しては、図2に示すように、鉄筋やグラウンドアンカーを施工してすべりを抑止したり、地下水位が上がらないように水抜きのパイプを挿入したりといった対策が行われます。また、岩盤が風化し難いようにモルタルによる吹付も行われます。ただし、経年劣化により岩盤表面と吹付の間に地下水が入り込んで崩れやすくなっている箇所もあり、この場合は補修が必要になってきます。
一方、ときには図3に示すような大規模な斜面の崩壊も発生します。このような大規模崩壊に対しては、対策はもとより、危険箇所の予測自体が難しい状況にあります。図3は台湾での事例ではあるものの、気候変動により今後は日本でも大規模な斜面崩壊が多く発生することが懸念されています。
・土石流
土石流は、谷沿いの斜面から崩れた土砂が、谷の上流部から水と一緒に猛スピードで一気に流れ下ってくる現象です。2014年に広島市で発生した土石流の被害を、図4に示します。広島県では、2010年に北部で土石流被害を受け、2014年には広島市で、そして2018年には、南部の広い範囲でさらに甚大な被害を受けました。
このように、広島県で土石流災害が多い理由の1つとして、花崗岩(かこうがん)が広く分布していることが挙げられます。図5に示すように、花崗岩では深部まで風化が及ぶ上、その途中に未風化の岩石も含むという複雑な風化の仕方をします。そして、豪雨時に崩壊すると、風化して土砂化した「まさ土」と同時に未風化の大玉石も流れ出し、それが先頭となって谷を走り下るため、破壊力が大きくなるのです。
このような土石流に対して、谷の斜面の崩壊自体を止めることは無理でも、砂防堰堤(えんてい)を建設することで土石流の流れを途中で止め、下流の被害を防ぐことができます。とはいえ、無数にある谷のそれぞれに砂防堰堤を建設するのは不可能です。第5回で説明したように、1960年代頃から全国の都市で宅地開発が行われ、山裾にも宅地が造られました。広島県ではこの方式が多くとられてきたため、土石流による住宅の被害が多発するようになってきています。土石流を止めるだけでなく、土石流が発生しても住宅地に被害を受けないようにしつつ、海まで流してしまう対策も必要と考えられます。
・地すべり
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3. 河川の氾濫に対する対策
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