地震防災における社会的役割:地盤工学の基礎知識5

地盤工学の基礎知識

更新日:2021年9月9日(初回投稿)
著者:東京電機大学 名誉教授 安田 進

前回は、構造物建設に対する地盤工学の社会的な役割を解説しました。地震による被害というと、まず強い震動による建物の倒壊が頭に浮かぶでしょう。しかし実際は、地盤に起因した被害が近年目立つようになってきています。これは、耐震設計のレベルが上がったことで建物自体の被害が少なくなってきているのに対し、対策が容易でない地盤の方は、対策が進んでいないためです。地盤工学に関係する代表的な被害には、低地における砂地盤の液状化や、山地における自然斜面の崩壊があり、最近は丘陵地における盛土造成地の被害も多く発生するようになってきました。また、土構造物と総称される河川堤防や道路・鉄道盛土の被害も、昔から多く発生してきています。これらのうち、地震時の自然斜面の崩壊に対しては対策が難しく、ほぼ手が付いていない状況にある中で、液状化や盛土造成地、土構造物の被害に対しては対策が進められつつあります。今回は、これらの3点を取り上げて、現状と課題を述べていきます。

1. 液状化による被害と対策方法

砂地盤の液状化に関しては、1964年に起きた新潟地震の被害例(第1回、図4)を示し、研究が始まった経緯やその後分かってきたメカニズムを第3回で述べました。約50年に及ぶ研究と技術開発の結果、現在は液状化発生の予測方法が考案され、耐震設計に取り込まれるようになってきました。また、その対策方法も数多く考案されています。従って、新しく造られる橋りょうやビルなどの大型構造物は、液状化による被害が発生しないように設計されているのです。

ところが、2011年の東日本大震災では、図1に示すように、東京湾岸の埋め立て地などで数多くの戸建て住宅が液状化により沈下や傾斜を起こし、生活道路やライフラインも甚大な被害を受けました。これは、戸建て住宅や生活道路に関して、いまだ液状化を考慮した設計が行われていないからです。また、ライフラインについては、最近では液状化が考慮されているものの、住宅地が造られた当時は液状化による被害自体がまだ認識されていなかったため、大きな被害を受けました。

図1:東日本大震災による浦安市の被災状況(地震翌日)

図1:東日本大震災による浦安市の被災状況(地震翌日)

このように、液状化を考慮せずに設計された古い既設構造物への対策と、現在でも考慮されていない小規模の構造物への対策は、今後も進めていく必要があります。前者に関して、実際に対策が行われた事例を模式化して図2に示します。

図2:既設構造物の液状化対策事例の模式図

図2:既設構造物の液状化対策事例の模式図

液状化対策方法を大別すると、

  • (1)地盤が液状化しないように締め固める、あるいはセメントで固化する
  • (2)地盤が液状化しても構造物が甚大な被害を受けないようにする

となります。

広い敷地に構造物を新設する場合には、(1)が経済的な対策方法です。しかし、この方法は既設構造物では難しいことが多いため、費用が多くかかかる(2)の方法が用いられます。また、この対策方法は、構造物や地盤条件、施工環境によって適する工法が異なるということもあり、今後は更なる工法の開発が必要とされています。

一方、戸建て住宅の対策方法は、既設はもとより新設に対しても、あまり開発されてきませんでした。これは、戸建て住宅の設計に液状化が考慮されてこなかったためです。なぜなら、安価で、しかも用地が狭い所に施工できる工法でなければ採用されないという制約があるからです。東日本大震災の被害を契機に、対策工法の開発促進が期待されていたにもかかわらず、実際にはそうなりませんでした。震動による被害と違い、液状化による戸建て住宅の被害は沈下して傾くだけで、窓ガラスが割れることなどありません。ところが、少しだけでも傾いた家に住み続けていると、めまいや吐き気など健康障害が起きることが、東日本大震災で改めて認識されました。今後、対策工の開発に本気で取り組む必要があります。

個々の住宅への対策が進んでいないのに対し、東日本大震災の半年後には、市街地の地区全体(宅地と道路、ライフライン)への対策である「市街地液状化対策事業」が国土交通省によって創設され、実際に被災した都市で対策が施されました。その1つの方法として、千葉市などでは図3に示すように、地区全体の地下水位を下げる対策が行われました。一般に、液状化で被害を生じやすい地盤の地下水位は深さ1m程度と浅いので、これを3m程度の深さまで下げるという方法です。地下水位より上の土は液状化しないため、この方法によって表層に3m程度の液状化しない地盤ができ、その下の層が液状化したとしても戸建て住宅は地盤にめり込まず、傾きません。

図3:地下水位低下方法による地区全体の液状化対策

図3:地下水位低下方法による地区全体の液状化対策

実際に、千葉市で集排水管を設置した状況を図4に、レイアウトと対策前後の地下水位の分布を図5に示します。このような対策は、2006年の熊本地震で被災した地区にも適用されました。地震後の復興時だけでなく、今後は事前対策として、市街地やコンビナートなどに適用されることが望まれています。

図4:千葉市で集排水管を設置している状況

図4:千葉市で集排水管を設置している状況

図5:千葉市美浜区磯辺4丁目の集排水管と地下水位分布(千葉市の資料をもとに作成)(参考:安田進、液状化対策技術の現状と展望、基礎工Vol.49、No.5、2021、P.2-5)

図5:千葉市美浜区磯辺4丁目の集排水管と地下水位分布(千葉市の資料をもとに作成)(参考:安田進、液状化対策技術の現状と展望、基礎工Vol.49、No.5、2021、P.2-5)

2. 盛土造成地の被害と対策方法

日本では戦後人口の増加と核家族化により、1960年代頃から全国の都市で宅地開発が行われてきました。都市ごとに開発できる地形は異なり、埋立地、山裾、丘陵地に宅地が造られてきました。このときに造成の仕方が悪いと、埋立地では前述した液状化による被害が発生し、山裾では豪雨時に土石流やがけ崩れの被害(次回解説)が発生します。さらに、丘陵地でも盛土造成地が地震や豪雨によって被災することが急増しています。

図6に、東日本大震災によって被災した仙台市の住宅地の例を示します。この地震では、岩手県から茨城県にかけて数多くの造成地が被害を受けました。

図6:仙台市で被災した盛土造成地

図6:仙台市で被災した盛土造成地

丘陵地は丘と谷からできているため、宅地化するに当たっては丘の地区を削り谷の地区に盛土します。ただし、谷部には水が集まってくるので、図7に示すように、まず暗渠(あんきょ)排水管を設置し、その上に土を盛ります。盛る土が悪い(例えば、軟弱な粘土や液状化しやすい砂)、あるいは土を盛る際の締め固めが十分に行われないと、地震時に崩れやすくなります。さらに、暗渠排水管の設置の仕方が悪ければ、盛土内の地下水位が上がり崩れやすくなります。最近では、こうした点に留意して造成が行われるようになってきました。それでも、古い造成地では留意されていないものも多く、加えて、暗渠排水管が経年変化で機能を果たさなくなっており、大地震の度に多くの被害が発生するようになってきています。

図7:丘陵地における造成宅地の模式図

図7:丘陵地における造成宅地の模式図

このような事態に対し、2004年の新潟県中越地震を契機に、国土交通省から大規模盛土造成地の耐震化を促進するための「大規模盛土造成地の滑動崩落対策推進ガイドライン及び同解説」が出され、現在も調査が進められています。まず、どこに該当する造成地があるかを調べる第1次スクリーニングが全国で行われ、各自治体からマップが公表されました。それによると、例えば、横浜市には3,271カ所、全国では51,306カ所の大規模盛土造成地が存在することが明らかになっています。この中から優先順位を決めて地盤調査を行い、地震時ののり面のすべりに対する安定性を検討して、必要な箇所には対策を施していく手順になっており、現在各自治体で検討が進められています。なお、対策としては、盛土のり面がすべり破壊しないようにする必要があります。まず、アンカーでのり面のすべりを抑止し、のり枠工でのり面の変状を抑えた上で、集水ボーリングによって地下水位を下げるといったことが行われます。東日本大震災で被災した盛土造成地で、対策を施した事例を図8に示します。復旧に当たって、グラウンドアンカー、集水ボーリング、格子枠で対策を施した例です。

図8:東日本大震災で被災した東海村の造成地

図8:東日本大震災で被災した東海村の造成地

3. 土構造物の被害と対策方法

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