免震構造とは:免震の基礎知識1

免震の基礎知識

更新日:2017年10月31日(初回投稿)
著者:福岡大学 建築学部 教授 高山 峯夫

地震大国といわれる日本では、兵庫県南部地震や東北地方太平洋沖地震、熊本地震など、多くの大震災が発生してきました。地震対策の一つである免震構造は1980年代に実用化され、今では一般住宅から高層ビル、工場などで採用されています。本連載では、技術者が学んでおくべき免震構造の基礎知識を、6回にわたり解説していきます。第1回目では、免震構造とは何かについて、説明します。

1. 免震構造とは

免震構造とは地震を免れると書くとおり、建物と地盤を切り離し、地震の揺れを建物に直接伝えないようにした仕組みで、1980年代に開発が進められてきました。免震構造の他には、耐震構造、制振構造などがあります。地面の揺れを建物に伝えないためには、どうすれば良いのでしょうか。

・建物基礎と地面の間を滑りやすくする

・建物を水に浮かす(例えば、船のように大きなプールに建物を浮かべる)

・建物を空中に浮かす(例えば、超伝導磁石を使って地震を感知して浮き上がらせる)

このような免震のアイデアは、科学技術が発展していない時代からありました。

2. 免震構造の歴史

免震構造の歴史は古く、日本で最初に文献に登場したのは1891年です。明治・大正期に活躍した河合浩蔵が、縦横に丸太を積み重ねてその上に建造物を建築する手法を、「地震ノ際大震動ヲ受ケザル構造」と演説した速記録が残っています。米国では、1909年に英国人J. A. Calantarientsが絶縁基礎システムに関する特許を申請しました。日本では1924年に、鬼頭健三郎がボールベアリングを用いた建築物耐震装置の特許を、山下興家が柱脚部に板ばねを用いた耐震装置で特許を申請しています。

免震効果による地震被害低減の事例として、鎌倉の大仏があります。関東大震災の時は、仏像全体が滑ることで揺れが低減し、被害を免れました。関東大震災後の大仏改修の際には、台座の上にステンレスの板を敷き、その上に仏像を設置しました。地面との間の摩擦を減らし、滑りやすくすることで免震効果を狙っています。一方で、免震建物の実用化は進みませんでした。免震化が推進されなかった一因として、建物を免振化させるための機材や、地震時の建築物を解析するための技術が不十分だったことが挙げられます。また、真島健三郎と佐野利器による柔剛論争も一因でしょう。剛構造と柔構造のどちらが耐震構造として優れているかという論争が、1924年からおよそ10年間続き、結論が出ないまま、1950年代の戦後復興でうやむやになってしまいました。

3. 積層ゴムの実用化

免震構造の実用化は、1980年代に大きく進みました。そのきっかけの一つが、積層ゴムの導入と開発です。福岡大学の多田英之博士の研究グループにより、地震動による免震建物の挙動解析と、積層ゴムの実用化に向けた研究が行われました。積層ゴム実験では、ゴムの材質や形状などをパラメータとして、基本特性や限界性能への影響を評価しました(図1)。

図1:さまざまな形状の積層ゴム試験体

図1:さまざまな形状の積層ゴム試験体

欧米では、建築物や橋への積層ゴムの利用が進められていました。一方、日本では長周期成分の地震動に対応させた積層ゴムが必要でした。多田らは、2次形状係数(積層ゴムの直径とゴム層の総厚の比率)が積層ゴムの性能に大きく寄与することを発見し、1981年に直径300mmの積層ゴムを実用化させました(図2)。

図2:日本で実用化された積層ゴム

図2:日本で実用化された積層ゴム

その後、日本初の免振住宅が1982年に千葉県八千代市に建設されました(図3)。

図3:積層ゴムを使った最初の免震建物

図3:積層ゴムを使った最初の免震建物

4. 免震構造の現状

日本には、戸建て住宅を除いて約4,000棟の免震建物があります。免振技術の適用範囲が広がったため、さまざまな建築物に使用されています。技術の進歩により、デザインが複雑な建築物にも免震技術が適用できるようになりました。

実際に起こった地震で免震効果が検証されたことも、免振建物が普及した理由の一つです。兵庫県南部地震(1995年)、東北地方太平洋沖地震(2011年)、熊本地震(2016年)において、免震構造による被害の低減が確認されています。免振効果のある病院では、地震直後から治療を開始できました。建物の安全性に加え、建物の持つ機能性が維持できる点は注目に値します。

一方で、活断層近くでのパルス的地震動や、長周期・長時間地震動などを考慮した免震構造設計が必要であることが分かりました。免震構造の安全性を高めるためには、免震層の変形能力を高めることと、適切な地震動を設定して余裕ある設計を行う必要があります。また、想定以上の地震動に備えるために、免震構造の応答挙動をシミュレーションしておくことも重要です。フェイルセーフ(誤作動に対する安全制御)のある免振設計が、これから求められていくでしょう。

いかがでしたか? 免振技術の実用化から30年、免震技術は成熟し、新しい課題も生まれています。免震構造の安全性をより向上させるための研究開発が進み、免震技術が普及することで、震災による建築物の被害をなくすことが期待されています。次回は、免震構造と耐震構造の違いについて解説します。お楽しみに!