前回は、転がり軸受の取り付け方法を紹介しました。今回は、最終回です。転がり軸受の状態監視と、損傷の事例を紹介します。転がり軸受に生じる損傷には、当然、不可避なものもあります。しかし、機械の状態を監視することによって予防的な保全を行うことができます。
1. 転がり軸受の損傷事例について
転がり軸受の損傷に関しては、本連載の第3回で、疲労寿命、密封玉軸受の潤滑寿命を紹介しました。今回は、それらを含めた転がり軸受の損傷事例を紹介します。まずは、代表的な、フレーキング、焼き付き、電食について説明します。
・フレーキング(剥離)
フレーキングは材料の転がり疲れによって剥離する損傷です。転動体の公転によって、内外輪、転動体に繰り返し荷重(応力)が作用すると、疲労が発生します。これが金属内部で亀裂に進展し、最終的に表面がうろこ状に剥がれ、疲労寿命に至ります。
図1に、フレーキングが生じた深溝玉軸受内輪を示します。軌道面に見える大きな痕跡の上を転動体が転がると、大きな音・振動が生じます。この損傷は、軸受回転条件から寿命を計算できます。そのため、損傷するまでの時間をある程度予測することが可能です。ただし、取り付けの不良や、回転中の異物侵入などにより、計算時間より早期に損傷することもあります。また、フレーキングは内部の非金属介在物を起点とするため、外輪、内輪、転動体の全てで生じます。

・焼き付き
焼き付きは、摩擦熱で過熱し損傷を起こす現象です。転がり軸受には、潤滑が必要です。しかし、回転中に潤滑状態が悪くなると、発熱によって軌道面、転動、保持器の変色、表面硬さの軟化が生じ、最終的には溶着して、回転不能に陥ります。
金属が溶けるほど内部は高温になるため、焼き付きが起こると、表面は黒く焦げ付きます(図2)。発熱は、転がり摩擦よりも滑り摩擦の方が大きいため、焼き付きが起こりやすいのは、軸受内部に滑り摩擦部(ころ端面、つば面)がある円すいころ軸受や、自動調心ころ軸受であるといわれてきました。しかし、密封玉軸受はグリースが劣化しても補給ができないことや、高速での使用が多くなったこともあり、玉軸受でも焼き付きへの対策が必要となるケースが増えています。

・電食
電食は、軸受に加わる力や潤滑状態ではなく、軸とハウジングに電位差が生じた場合に起こる損傷です。言い換えれば、内輪と外輪に、ある程度の電位差があると、軸受内部で放電が起こり、表面に放電痕(表面が溶融した痕跡)が多数形成されます。この放電痕が成長すると、図3のようなくっきりした縦じま(リッジマーク)が形成されます(洗濯板状と例えられることもあります)。

このリッジマークは、内輪と外輪の電位差や電流値が高くなると数時間で生じ、音・振動が上昇します。しかも、小型玉軸受では、直流電圧1.5V、電流10mAが流れると、500時間以内に電食が発生します(参考:野口昭治他、小型玉軸受の電食に関する研究(第3報)電食が発生する直流電圧の測定、トライボロジスト55巻6号、2010年)。
これは、人が触っても全く感知できません。しかし、軸受にとっては大きな問題となります。近年では、インバータ駆動モータの増加、電気自動車のバッテリー電圧上昇などがあり、機械設計者にとっても、対策を検討する必要がでてきました。転動体を絶縁体のセラミックスにしたり、外輪外周面に絶縁皮膜を施したりする対策が講じられているものの、コストが増えてしまうというデメリットもあります。
・その他の損傷
転がり軸受のその他の損傷事例としては、上記に紹介したものの他にも、たくさんあります。ここでは、保持器破壊、なし地、さびについて紹介します。
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2. 機械状態監視について
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