転がり軸受の潤滑:転がり軸受の基礎知識4

転がり軸受の基礎知識

更新日:2022年12月9日(初回投稿)
著者:東京理科大学 理工学部 機械工学科 教授 野口 昭治

前回は、転がり軸受の寿命を解説しました。今回は、転がり軸受の潤滑について解説します。潤滑の一般的な目的は、摩擦を小さくすることです。ただし、転がり軸受においては、長期間安定した性能を維持することが潤滑の目的に挙げられます。

1. 転がり軸受の潤滑目的と潤滑剤

第1回で説明したように、転がり摩擦の摩擦係数は非常に小さいため、潤滑を行うと粘性抵抗や撹拌(かくはん)抵抗が生じ、摩擦係数は大きくなってしまいます。そのため、転がり軸受を潤滑する目的は、転がり面、および滑り面に油膜を形成し、金属同士が直接接触するのを防ぎ、表面損傷を防ぐことです(軸受内部には滑り摩擦をする箇所があり、そこでは摩擦を低減させる)。これ以外にも、転がり軸受の潤滑は、以下の目的で使用されています。

  • 摩擦熱の排出
  • 軸受寿命の延長
  • さびの防止
  • 異物の浸入防止・排出

転がり軸受に使用される潤滑剤には、以下の3種類があります。

  • 潤滑油:液体状、最も一般的に使用されている
  • グリース:半固体状、転がり軸受では多く使用されている
  • 固体潤滑剤:固体状、表面に皮膜を形成させるなどして使用されている

潤滑剤の働きを十分に発揮させるためには、使用条件に適した潤滑剤と、潤滑方法の選定が重要になります。固体潤滑剤は特殊な用途なので、本稿では、潤滑油とグリースについて解説します。

2. 潤滑油

潤滑油は、主成分となる基油(粘度などの物性に影響を与える基材)と、添加剤(潤滑効果を高めるために加えられる薬品や物質)から構成されています。液体で流動性が高いため、転がり軸受内部の隅々にまで浸透します(図1)。

図1:潤滑油は転がり軸受内部の隅々にまで浸透する(イメージ)
図1:潤滑油は転がり軸受内部の隅々にまで浸透する(イメージ)

潤滑効果が高いため、潤滑剤としては最も多く使用されています。また、循環させて使用することで、軸受から発生する熱や、内部で生じた摩耗粉などを排除する効果もあります。

潤滑油には、スピンドル油、マシン油、タービン油などの鉱油(石油が原料)が多く使われます。また、高温や低温領域では、人工的にブレンドした合成油が使われます。

潤滑油の流動性を示す尺度として、粘度があります。粘度の値が小さいと流動しやすく、値が大きいと流動しにくくなります。潤滑油の粘度は、潤滑性能を決定する重要な物性です。粘度が低すぎると油膜形成が不十分となり、軸受表面が損傷しやすくなります。逆に、粘度が高すぎると、粘性抵抗が大きくなり、温度を上昇させ、摩擦損失を増大させます。一般的な選定としては、低トルクや高回転用途には低粘度潤滑油、重荷重や低速用途には高粘度潤滑油となります。

転がり軸受においては、形式ごとに必要な粘度として、表1のような目安があります。

表1:転がり軸受の必要粘度(引用:転がり軸受入門ハンドブック、CAT.No.9012-7/J、NTN株式会社、P.63
表1:転がり軸受の必要粘度(引用:転がり軸受入門ハンドブック、CAT.No.9012-7/J、NTN株式会社、P.63)

また、潤滑油は液体なので、温度によって粘度は変化します。図2に、潤滑油粘度の温度特性を示します。軸受が稼働する温度において、必要な粘度を確保する必要があります。

図2:潤滑油の粘度-温度線図(引用:転がり軸受入門ハンドブック、CAT.No.9012-7/J、NTN株式会社、P.63)
図2:潤滑油の粘度-温度線図(引用:転がり軸受入門ハンドブック、CAT.No.9012-7/J、NTN株式会社、P.63

潤滑油の粘度は、基油によって決まります。基油には、潤滑効果を高める目的で多くの添加剤が入っています。摩擦を低減させる油性剤、摩耗を少なくする摩耗防止剤、耐焼き付き性能を高める曲圧剤などが代表的です。用途によっては、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤などを加えることもあります。

3. グリース

グリースは、潤滑油に増ちょう剤を入れ、半固体状にしたものです(図3)。転がり軸受においては、密封性が高く、メンテナンスフリーで使用できることが、滑り軸受と比較して大きなメリットとなっています。そのため、グリースは欠くことのできない潤滑剤です。生産数量が多く、家電品に使用される小径玉軸受においては、100%グリース潤滑が使われているといっても過言ではありません。

図3:転がり軸受にグリースを塗り入れる作業
図3:転がり軸受にグリースを塗り入れる作業

グリースの重要な物性として、ちょう度があります。潤滑油の粘度に相当するのもので、グリースの硬さを表しています。円すい形の重りが沈んだ深さをパラメータとし、値が小さいほど硬く、値が大きいほど軟らかいグリースとなります。潤滑油の粘度とは逆の特性を示すため、注意が必要です。ちょう度の選定としては、使用温度と軸受荷重を考慮することになります(表2)。

表2:グリースのちょう度(引用:転がり軸受入門ハンドブック、CAT.No.9012-7/J、NTN株式会社、P.58
表2:グリースのちょう度(引用:転がり軸受入門ハンドブック、CAT.No.9012-7/J、NTN株式会社、P.58)

グリースでは、軸受への封入量が重要になります。多すぎると攪拌抵抗や粘性抵抗が増加して、トルク上昇や温度上昇の原因となります。一方、少なすぎると焼き付きを生じる懸念があります。軸受メーカーのカタログには、以下のように、グリース封入量の一般的な目安が書かれています(引用:日本精工株式会社、産業機械用転がり軸受 CAT.No.1103 2016、A-228)。

軸受内部の空間容積(外輪と内輪の間にできる空間から転動体と保持器の体積を引いた容積)に対して

  • 許容回転速度の50%以下で使用する場合:1/2~2/3を充填(てん)する
  • 許容回転速度の50%以上で使用する場合:1/3~1/2を充填する

また、特にトルクや発熱の低減が必要な用途では、1/3より封入量を少なくする、極低速回転で使う場合や防じん・防水を目的にした場合には、空間容積全てにグリースを封入する場合があるとも書かれています。用途に応じて、適切なグリース封入量にする必要があります。

グリースの種類は数が多いため、グリースメーカーや軸受メーカーのカタログを参照してください。また、第3回の転がり軸受の寿命においても、グリースに関する記述があります。

4. シールドとシール

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