前回は、堤防の決壊について説明しました。堤防は、洪水から人々の生命や財産を守るために築かれます。しかし、堤防は越水、堤体への浸透や洗堀・侵食によって決壊することもあります。そのため、安全性を第一に築造される堤防であっても、必ず守ってくれると過信することはできません。そこで、住民も洪水氾濫から自らを守るための行動をとる必要があります。行政が実施する事業が治水であるのに対して、住民が自ら行う水害対策を水防といいます。治水と水防は、水害をなくすという共通の目的を持ちます。前者は行政が主体であり、後者は住民自らが主体です。今回は、堤防と、この水防活動について解説します。
1. 治水と水防について
台風の接近、あるいは前線の停滞によって豪雨が予想される場合、河川では洪水氾濫の危険性が高まります。このとき気象庁は、国土交通省あるいは都道府県知事と共同で、指定河川を対象に指定河川洪水予報を発表します。指定河川とは、水防法第10条、第13条によって指定された河川のことです。国土交通大臣が管理する109水系・275の河川と、それ以外で相当の被害が予想される河川を含む320区域(令和2年8月6日現在)が対象となります。洪水予報は、氾濫注意情報→氾濫警戒情報→氾濫危険情報→氾濫発生情報と、氾濫の危険性が高まるに従ってレベルが上がっていきます。洪水予報のレベルによって、住民も洪水氾濫への備えが求められます。
では、住民はどのように洪水氾濫に備えたらよいのでしょうか。もちろん、まず避難行動や家庭用品の移動などの減災行動が必要になります。もう一方で不可欠なのが、水防団による水防活動です。水防活動は、特に堤防決壊の危険性が高まったとき、地元の水防団によって実施されるものです。水防活動とは、後述する伝統的な水防工法によって堤防の決壊を防ぐ活動であり、住民の避難など一般的な減災行動(以下「水防行動」と呼びます)とは区別されます。
水防団とは、水防法第5条の規定によって設置される、水防に関する防災組織です。水防団の団員は、非常勤の特別職地方公務員であり、国土交通大臣、都道府県知事、市町村長から命令を受け、水防団長の指揮のもと、堤防その他の治水施設の決壊によって被害が拡大することを防ぎます。河川の洪水氾濫の危険が高まったときに発表される指定河川洪水予報と並行して、水防警報が発表されます。この水防警報に対して、水防団は待機→準備→出動→警戒→解除というプロセスで活動を進めます。図1に、指定河川洪水予報と水防予報のレベル、そして洪水水位の名称を示します。また、水防情報の連絡系統を、図2に示します。


2. 堤防と水防工法について
洪水時には、河川管理者によってあらかじめ定められた河川巡視者が堤防の点検を行います。もし、漏水やひび割れなど決壊の兆候を発見したときは、即座に水防団に伝え、水防活動に入らなければなりません。堤防の決壊のメカニズムについては、前回、解説しました。決壊の原因は、洪水流の越水による決壊、洪水の堤体への浸透による決壊、洪水の堤防侵食・洗掘による決壊の3つに分けられます。さらに、堤防裏法面の亀裂拡大による崩壊もあります。水防工法は、これらの原因に対応し、決壊を防ぐためのものです。ここでは、積土のう工、月の輪工・釜段工、木流し工(竹流し工)、亀裂対策工など、4つの主な伝統的水防工法の概要について、堤防決壊の原因に対応して解説します。
積土のう工:洪水流の越水による決壊に対応
積土のう工とは、決壊に対処するため、土のうを積み上げ、堤防をかさ上げする方法です(図3)。河川の水位が上昇し、堤防の天端を超えてあふれるようになると、水が堤防の上面や堤内地側の斜面を削り、決壊の危険性が生じます。積土のう工は、水防工法の中で最も基本的なものであり、越流水深に応じて、3段積・4段積・5段積があります。強度を増すために、河川側の土のうに鋼杭を打ち込む場合もあります。洪水位が計画高水位を超える、あるいは堤防が未整備であるとき、堤防高が不足します。そのとき、土のうによってその不足分を補い、越流による決壊を防ぎます。

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3. 水防の今後
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