堤防の決壊はどのようにして起こるのか?:河川堤防の基礎知識4

河川堤防の基礎知識

更新日:2023年1月6日(初回投稿)
著者:芝浦工業大学 名誉教授 守田 優

前回は、堤防の高さはどのように決められるかについて解説しました。さて、堤防の目的は、洪水の氾濫から人々の生活を守ることです(第1回参照)。そのため、本堤をはじめ、さまざまな種類の堤防を組み合わせながら、洪水防御のための治水事業が実施されてきました(第2回参照)。堤防がその機能を果たすためには、堤防の高さを洪水の流量に対して適正に決める、工学的な検討が必要となります(第3回参照)。しかし、洪水が計画高水流量を超え、堤防の天端を越水してしまうと、堤防決壊という悲劇的な事態となります。今回は、この堤防の決壊について解説します。

1. 堤防決壊というリスク

堤防の決壊は、破堤ともいいます。台風や前線によって降雨が続くと、河川の水位が上昇し洪水になります。多くの場合、洪水は堤防を越えることなく、降雨後には水位が低減していきます。しかし、規模の大きい台風では、数日にわたる長時間、多量の雨が降ります。すると、河道から堤防本体に浸透する水量が増え、再び洪水位が堤防を越えるようになります。堤防決壊は、そうしたとき起こります。それによる被害は甚大であり、堤防近辺の民家を押し流し、農地に大きなダメージを与えます。

近年、しばしば報道される都市部の内水氾濫(大量の雨に対して排水機能が追い付かずに、処理しきれない雨水で土地や建物が水に浸かってしまう現象)による洪水では、床上・床下浸水によって民家の資産に大きな被害が及ぶものの、建物の破壊や生命の危険が生じる可能性は低いといえます。しかし堤防決壊では、氾濫流が民家を襲い、破壊し、住民を氾濫流に巻きこんで多くの犠牲者が出ます。

図1は、堤防決壊の瞬間をとらえたものです。昭和51年9月12日(1976年9月12日)、長時間の降雨が続き、長良川の堤防が、岐阜県安八郡安八町大森で決壊しました。右岸の天端は道路になっており、堤防の亀裂に生じた穴から水が一気に噴出し、後述する「堤体への浸透による決壊」によって洪水が怒涛のごとく流れ出しています。洪水の濁流は、安八町と隣接する墨俣町全域を襲い、水防活動をしていた区長一人が死亡、3,536世帯が床上浸水の被害を受けました。被害総額は両町で約130億円に達し、岐阜県史上最悪の河川の決壊となったのです。

図1:堤防決壊の瞬間(引用:岐阜県庁ホームページ、昭和51年9月長良川水害での浸透による堤防決壊)
図1:堤防決壊の瞬間(引用:岐阜県庁ホームページ、昭和51年9月長良川水害での浸透による堤防決壊

氾濫流は、堤防近辺だけにとどまりません。破堤した地点から、さらに下流へ向かって流れていきます。図2は、有名な昭和22年(1947年)9月のカスリン台風発生時における利根川の氾濫流です。埼玉県の栗橋地点、堤防は右岸で決壊し、氾濫流は埼玉平野を下って東京にまで及びました。そして、家屋の浸水30万戸、家屋流失・倒壊2万3,000戸、死者1,000名という甚大な被害が生じたのです。首都圏では、利根川だけでなく、荒川の堤防決壊も懸念されています。もし、荒川右岸の堤防が決壊した場合、その氾濫流は東京都中央区銀座でも数mの浸水となり、さらに地下鉄などの浸水も懸念されます。

近年、気候変動によって想定を超える豪雨が長期的に増加する、という指摘があります。過去の降雨の統計を元に計画高水流量を決めても、それを超える豪雨が発生することが極めて現実的なものとなりつつあります。そして、堤防決壊というシナリオは、ますますそのリスクを増大させています。

図2:カスリン台風における利根川氾濫流(引用:利根川上流工事事務所資料)
図2:カスリン台風における利根川氾濫流(引用:利根川上流工事事務所資料

2. 堤防決壊の原因

堤防決壊の原因は、洪水流の越水による決壊、洪水の堤体への浸透による決壊、洪水の堤防侵食・洗掘による決壊の3つに分けられています。このうち洪水の堤体への浸透による決壊はさらに、パイピングによる破壊と、浸透破壊の2つに分かれます。

1:洪水流の越水による決壊

洪水越水による決壊のしくみを、図3に示しました。洪水流量が増加すると洪水位が高くなり、やがて堤防の天端を乗り越えるようになります。この越水によって、土でつくられた堤体の斜面や裏のりを越流水が洗い、堤体が侵食されます。この侵食が進行することで、最終的に堤体の決壊を引き起こします。堤防決壊はこのタイプが最も多く、その意味でも、洪水を安全に流すための計画高水流量と、計画高水位の決定は非常に重要になります。

図3:堤防決壊のメカニズム、越水(参考:国土交通省、鬼怒川堤防調査委員会報告書、平成28年、P.3-1)
図3:堤防決壊のメカニズム、越水(参考:国土交通省、鬼怒川堤防調査委員会報告書、平成28年、P.3-1

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3. 堤防の安全性と維持管理

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