堤防の高さの決定法:河川堤防の基礎知識3

河川堤防の基礎知識

更新日:2022年11月18日(初回投稿)
著者:芝浦工業大学 名誉教授 守田 優

前回まで、河川堤防の目的と種類について、そのあらましを説明しました。今回は、私たちが見慣れている連続堤防の高さについて紹介します。連続堤防の高さは、どのようにして決まるのでしょうか。それは、国の技術基準に基づき、工学的な手法で決められています。その詳細を理解すれば、堤防をさらに身近に感じることができるでしょう。

1. 連続堤防という治水事業

連続堤防は、河川の骨格を決める重要な堤防で、本堤と呼ばれます。本堤が決壊すれば、あふれた洪水は堤内地の宅地や農地を襲い、多大な被害を与えます。このように重要な存在でありながら、河川に沿って連続堤防を築く工事が国家的な治水事業として始められたのは、明治期以降になってからです。

明治以前は、工学的な技術水準も低く、河道に沿って連続的に堤防を築く財政基盤もありませんでした。このため、洪水を完全に抑止することは不可能であり、氾濫しても被害をできるだけ抑えることが重視されました。本堤が決壊しても、二番堤や三番堤で氾濫の拡大を抑えるようにしたのです。万一、氾濫水で浸水した場合でも被害を最小にするため、比較的高い場所に家屋をつくる、あるいは屋敷内の高いところに水屋などを設けて避難し、財産を守る工夫がなされました(図1)。

図1:水屋と母屋の高低差(イメージ)
図1:水屋と母屋の高低差(イメージ)

また藩政時代には、流域における全ての場所を同じレベルで守ることは諦め、堤防の高さに差をつけることで城や城下町を守り、氾濫水を農地などに流出させることも行われました。江戸時代、木曽川の左岸、尾張側の堤防は右岸より1mほど高く、尾張御三家を守るように築かれました。右岸には、主に農民が住んでいました。彼らは、輪中堤をつくって自らを守っていたのです(第2回参照)。

しかし、明治時代になると、国家としてのインフラ建設が進められることとなりました。明治29年(1896年)に河川法が制定され、利根川や淀川、筑後川など国家的に重要な河川については、国の直轄事業として治水事業が始められました。ようやく、従来の経験的な洪水対策に代わり、アメリカやヨーロッパの技術を取り入れた近代的な治水事業が進められることになったのです。その治水事業では、基本的に、流域内に降った雨をできるだけ早く河道に集め、連続的に建設された堤防、すなわち連続堤防によって河口まで一挙に流す方法が採られました。その結果、洪水は一気に下流へ流れるようになり、それまで中上流の河道周辺で滞留していた水も、河道に流入するようになりました。それによって、河道に近い場所の土地利用が高まり、住民は洪水の被害から多少は解放されました。そして、治水における連続堤防の重要性は、より高まっていきました。

連続堤防による治水事業は、明治、大正、昭和と進むにつれ全国的に着々と進められ、利根川のように万里の長城のごとく仰ぎ見る高さの連続堤防も築かれるようになりました。さらに戦後、治水事業に新たな展開が始まります。多目的ダムの建設です。これにより、流域に降った雨を山間部のダムに貯留することで下流への洪水の負担を軽減し、連続堤防がダム下流の洪水をあふれさせることなく下流に流すことができるようになりました。このように、ダムと連続堤防による治水対策へと発展していきました。

2. 計画高水流量と計画高水位

明治期に始まった近代治水事業では、計画高水流量(けいかくこうすいりゅうりょう)の概念が確立されました。計画高水流量とは、治水計画において河道を設計する場合に基本となる流量です。ダムと連続堤防による洪水防御の対象となる洪水は、計画高水流量として流域ごとに設定されます。ダムなどの貯留施設と連続堤防により洪水流量を合理的に配分した結果として、河道を流れる流量が決まります。ここで、参考として利根川の計画高水流量を示します(図2)。この図に示す計画高水流量を流せるように、連続堤防の高さは決められているのです。

図2:利根川水系計画高水流量(引用:国土交通省、利根川水系河川整備基本方針、平成18年、P.22)
図2:利根川水系計画高水流量(引用:国土交通省、利根川水系河川整備基本方針、平成18年、P.22

では、計画高水流量はどのように決められるのでしょうか。図3に、計画高水流量と計画高水位を決める手順をフローとして示しました。

図3:計画高水流量と計画高水位を決める手順
図3:計画高水流量と計画高水位を決める手順

さて、計画高水流量の概念自体は明治期に確立されたものの、当時はまだ降雨や河川水位、河川流量などの観測体制が整っていませんでした。当然、計画高水流量を決める観測資料の蓄積もほとんどありません。そこで、当初は既往最大流量(過去最大の洪水流量)をもって、計画高水流量の基準としていました。しかし、過去最大といっても、現実には上流部での氾濫水も多く、連続堤防による洪水流量を算定するには不十分でした。第二次大戦後、治水事業の河川計画に確率の考え方が導入されることで、事情は一変します。計画の対象とする降雨(計画降雨)が、確率(超過確率)によって決められるようになったのです。図3の流れを、計画降雨、基本高水(きほんたかみず)、計画高水流量(けいかくこうすいりゅうりょう)と計画高水位(けいかくこうすいい)の3つに分けて説明します。

・計画降雨

計画降雨とは、その流域の河川計画立案に使われる計画上の降雨をいい、その降雨量は確率計算により求める方法が一般的です。計画降雨は、対象とする河川の重要度によって決まります。利根川や荒川のような大河川の堤防が決壊すると、洪水流は首都圏を襲い莫大な被害が出ます。一方、流域に人口が密集していない農地主体の河川である場合、その被害規模はそれほど大きくはなりません。安全性を高めるには、できるだけ規模の大きい降雨に対応する計画が求められます。

しかし、それに対応する治水工事の費用は高額になっていきます。そこで、流域の被害をできるだけ軽減し、しかも治水事業費も拠出可能な、適正レベルでの計画降雨が想定されます。計画降雨の規模は、河川の重要度をもとに超過確率(確率分布において、対象とする数値を超える確率)として決定します。利根川のような重要度の高い河川では、200年に1回の確率の雨を対象とします。一方、中小の河川では、50年に1回程度の確率で考えます。

表1に、河川の重要度と計画の規模をまとめました。ここでは、計画の規模が、年超過確率の逆数で示してあります。

表1:河川の重要度と 計画の規模
表1:河川の重要度と 計画の規模

A級は、200以上とあります。これは、その計画降雨を超える確率が200年以上に1回であることを意味します。河川水系のうち、国が直轄管理する本川である利根川や荒川は、A級になります。同じ荒川水系でも、支川である神田川などはC級のレベルです。つまり、同じ水系内であっても、本川と支川では河川の重要度は異なります。

計画降雨を決めるための確率統計処理を行う場合、過去の降雨について、一般に降雨総量の確率分布を考えます。総降雨量の確率分布を導き、設定する超過確率に相当する計画降雨を決めます。計画降雨については、総降雨量だけではなく、降雨波形(降雨の時間変化)も考慮します。

・基本高水

基本高水とは、流域に降った計画規模の降雨がそのまま河川に流れ出た場合の河川流量の時間変化を表したものをいいます。まず、計画降雨が決まると、それが流域に降ったときの洪水流量を計算します。河川流域に流量を計算する基準地点を設定し、流出解析という手法を用いて、計画降雨から基準地点の流量の時間変化を計算します。

時間変化を表すグラフには、ハイエトグラフとハイドログラフがあります。ハイエトグラフは、降雨の時間変化を表し、ハイドログラフは、それに対応する河川流量の時間変化を表します。流量の時間変化を計算するには、まず、ダムや遊水地など、流量を調節する施設がないときに計画降雨が自然状態で流れる洪水流量を計算します。このときの洪水流量が基本高水となります。こうして、計画降雨ハイエトグラフから流出解析手法によって基準地点の流量ハイエトグラフを求め、計画高水流量決定の基本となる基本高水を算出します。

・計画高水流量、計画高水位

計画高水流量とは、基本高水からダムなどの各種洪水調節施設での洪水調節量を減じた流量の最大値で、この時の水位を計画高水位といいます。前述したように、治水計画において河道を設計する場合、計画高水流量を基本とします。洪水は堤防とダムなどの各種洪水調節施設によって、河道を安全に流れるようにするため、基本高水が決まった段階で、河道と洪水調節施設に役割分担をして、そのピーク流量を合理的に配分します。こうして、ダムと堤防によって河道を流れるピーク流量が、計画高水流量として決定されます。利根川の例としては、前掲の図2に示したとおりです。

表2に、図2に対応する、基準地点の基本高水(ピーク)と計画高水流量を示しました。図2では、鬼怒川、小貝川から利根川本川に5,000m3/sと1,300m3/sの流入がありながら、本川の計画高水流量は同じ値となっています。これは調節池などの操作により、これらの支川が利根川本川の計画高水流量に影響を与えないとされているためです。

表2:利根川水系の基本高水と河道への配分流量(引用:国土交通省、利根川水系河川整備基本方針、平成18年、P.21)
表2:利根川水系の基本高水と河道への配分流量(引用:国土交通省、利根川水系河川整備基本方針、平成18年、P.21

さて、計画高水流量が基準地点において設定された後、計画高水流量が河道断面を流下するときの水位を決めます。この水位が計画高水位です。計画高水流量から計画高水位を算出するには、河道の横断形状、河道の勾配、河道幅、河道の粗度(流水への摩擦抵抗に関する水理学的定数)などを設定し、水理計算を繰り返すことによって、最終的に最適な計画高水位を決定します。

以上をまとめると、治水計画においては、まず、計画降雨の規模を確率の考え方で設定し、その確率に対応した計画降雨ハイエトグラフから、流出解析によって基本高水を計算します。次に、基本高水のピーク流量を安全に流すため、ダムなどの洪水調節施設と堤防で役割分担し、水系全体の計画高水流量を決定します。そして最終的に、河川の上流から下流へ、各地点の計画高水流量から河道計画としての計画高水位が決まります。

3. 堤防の安全性

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