河川堤防とは:河川堤防の基礎知識1

河川堤防の基礎知識

更新日:2022年9月27日(初回投稿)
著者:芝浦工業大学 名誉教授 守田 優

河川堤防は、洪水から人々を守る重要な構造物です。近年、気候変動の影響からくる豪雨の増加により、堤防の決壊を含む甚大な水害が、毎年のように発生しています。本連載では、私たちの生活と深く関わりのある河川堤防について、6回にわたり解説します。初回となる今回は、堤防の目的、河道と堤防、堤防の構造について基本的な事柄を学びます。堤防の前に河川を付けるのは、海岸の堤防(例えば、高潮被害を軽減する防潮堤など)と区別するためです。

1. 河川堤防の目的

河川堤防とは、河川の左右両岸に土を盛り、連続的に建設されている構造物のことをいいます。河川堤防の目的は、洪水の流れを制御することです。洪水は、降雨や降雪が河川の上流から下流へと流れ、河川の水位が上昇し、流量が増加する現象をいいます。洪水によって宅地や農地などに水があふれ、人々の生命や財産を奪うようなことがあってはなりません。人々の生活に被害が及ばないようにするため、洪水の流れを制御し、安全に流す目的で築かれたものが河川堤防(以下、堤防)です。

堤防の歴史は古く、中国では約4,000年前、名治水家である禹(う)が、黄河の治水においてその建設に力を入れました。禹は、堤防・浚渫(しゅんせつ)・分流を治水の3要素としました。堤防とは、洪水を氾濫させないために、左右岸に盛土することをいい、浚渫とは、河川の底面を浚(さら)って土砂などを取り、河川の断面積を増やして通水量を増加させることをいいます。そして、分流とは、流路を分割し、流量を減少させる方法をいいます。このことからも、堤防による治水はきわめて古い歴史を持つことが分かります。日本では、仁徳天皇の時代、淀川下流部の治水において、茨田(まんだ)堤が築造された記録があります。

2. 河道と堤防

河川は、河道と堤防からなります。河川の断面図をもとに、河道と堤防に関する基本的な用語を解説します(図1)。河川は、上流から下流へ行くにつれ、勾配は緩やかになり、川幅も広くなります。河川の両岸には堤防があり、堤防の間で水が流れる部分を河道といいます。

図1:河道と堤防
図1:河道と堤防

以下から、堤外地と堤内地、低水敷と高水敷、堤防敷と河川区域と河川保全区域に分けて説明します。

・堤外地、堤内地

堤外地とは両岸の堤防の間をいい、堤内地とは外側をいいます。内と外が逆ではないか、と思うかもしれません。しかし、堤防が人家のある土地を洪水から守ってくれるという考え方から、住民から見た堤防の内側を堤内地、その外側が堤外地となっています。これに関連して、洪水によって河道の流水が堤防を越えて氾濫することを外水氾濫、堤防の内側、堤内地の浸水氾濫を内水氾濫といいます。

また、河川の堤外地には、水路が2段になった複断面の河道と、1段の水路しかない単断面の河道があります。図1は、複断面の河道を示しています。

・低水敷、高水敷

低水敷とは低い水路部をいい、高水敷とは低水敷の両側の少し高い水路部をいいます。雨が降らないときは、河川の水は低水敷を流れます。洪水になると水位が上昇し、高水敷に水が上がります。高水敷は、一般に河川敷ともいわれます。洪水がない期間には公園やグラウンドとして利用されることが多く、野球場やテニスコートなど、市民のための運動施設として役立っています。また環境教育の一環として、植生や生物の生態を学ぶ場として活用されている事例もあります。

・堤防敷、河川区域、河川保全区域

堤防敷とは、堤防の立地する面をいいます。そして河川区域とは、左右の堤防敷と堤外地を合わせた区域をいいます。河川区域は、洪水などの災害発生を防止するために管理の対象となる区域であり、河川法が適用されます。また、河川保全区域とは、堤防に近い掘削や盛土などにおいて堤防の安全性を低下させる恐れのある行為を禁じ、河川区域を安全に保持するための区域をいいます。河川保全区域にも河川法が適用されています。河川保全区域の範囲は、堤防敷から堤内地に向かって、50m以下の幅で設定されます。

以上、図1の河道と堤防について、それぞれの名称を説明しました。図1は、堤防のある有堤河道を示します。一方、河川の中には、堤防のないものもあります。これを掘り込み河道といいます。平野の低地ではなく、標高の高い台地面を流れるような河川で、河道が河川両側の地盤面よりも低いケースに見られます。掘り込み河道は、有堤河道とは明確に区別されます。

3. 堤防の構造

堤防は、平地に対して台形状に土を盛り上げてつくります(図2)。台形状である理由の一つとして、維持管理上の必要性があります。堤防に異常がないか点検する、あるいは壊れそうになっている箇所を修復するために、平たんな場所が必要となります。これは台形の形状上、適しているといえます。また、より重要なことは、洪水時の河川水の浸透に対して安全であることです。河川の水位が上がり、水が堤防の中に浸透していくとき、ある程度の幅がないと反対側の斜面から水がしみ出し、崩れやすくなってしまいます。よって、浸透に対して幅がある台形状にすることにより、崩れにくい堤防ができるということです。

図2:河川の堤防工事
図2:河川の堤防工事

では、なぜ土堤(土の堤防)をつくるのでしょうか。コンクリートなど強度のある材料を使えば、洪水時も崩れる心配はないのではないか、という意見もあります。堤防を土でつくるのは、まずコストの問題です。土は、河川の近くから低コストで供給できる、最もありふれた材料です。施工も容易です。さらに、堤防は一度つくったら終わりではありません。亀裂があれば修復する、決壊したときは復旧する、洪水の規模が増大したときは堤防を高くするなど、治水構造物としての機能を果たすため、修復・復旧・増築が必須です。堤防は、土を盛って加えるだけで高くできます。こうした点において、土という材料は形状の自由度も大きく、堤防の材料として最適です。また、土構造物は、河川周辺の環境にも違和感がなく、なじみやすいともいえます。

次に、堤防の構造を見ていきましょう。図3は、土で築かれた一般的な堤防の断面を示したものです。天端(てんば)、法面(のりめん)、法肩(のりかた)・法尻(のりじり)、小段など各部の名称を説明します。

図3:堤防の構造
図3:堤防の構造

・天端

天端とは、堤防の最上部の平面をいいます。

・法面

法面とは、天端の両側の斜面をいいます。堤防において、堤外地側が川表(かわおもて)、堤内地側が川裏(かわうら)です。それに対応した斜面が、それぞれ表法面、裏法面となります。

・法肩、法尻

法肩とは、法面が天端の平面と交わった箇所をいいます、堤外地側が表法肩、堤内地側が裏法肩となります。また、法尻とは、法面が地盤面と交わるところをいいます。

河川水は、両側の堤防の間を流れます。ここで、両側の表法肩の間隔が堤防の間隔であり、それが河川の幅になります。あくまで、河川水の流れの幅として考えます。堤防を上から見たとき、河川に沿って堤防が延びており、堤防の表法肩をたどった線を堤防法線(ていぼうほうせん)と呼びます。

・小段

小段とは、法面の中腹にある幅の狭い平たんな部分をいいます。堤防が高くなる場合、このような水平な部分を設けます。堤防の両側において、それぞれ表小段、裏小段とよばれます。小段には、維持補修や水防活動を容易にする役割があります。大堤防では、小段の下、地盤により近いところに犬走り(いぬばしり)が設けられます(図3には記載なし)。小段は、法面の安定を保つといわれるものの、近年では、耐震設計の面から、また大洪水時に越流したときの安全性から、小段を設置せずに法面全体の勾配を小さくした方が有利であるという考え方もあります。

いかがでしたか? 今回は、河道と堤防、そして堤防本体に関する基本的な用語について解説しました。次回は、堤防のさまざまな種類を紹介します。お楽しみに!