リテールデータの進展:リテールデータの基礎知識2

リテールデータの基礎知識

更新日:2022年3月18日(初回投稿)
著者:東京経済大学 経営学部 マーケティング学科 教授 田島 博和

前回は、1980年代に導入され、リテールデータの一大転換点になったPOSシステムを紹介しました。当初は、不正の防止や生産効率の向上といったハードメリット(システム導入によって直接期待できる効果)が目的であった一方で、日本では早くからソフトメリット(システムに蓄積されるデータがもたらす間接的な効果)にも着目してきました。今回は、リテールデータの進展をテーマに、POSシステムに蓄積されるデータおよびビッグデータについて紹介します。

1. POSデータ

POSデータとは、POSシステムにより読み取られた、商品ごとの販売履歴のことをいいます。POSシステムは、商品のバーコードをスキャナで読み取り精算を行うシステムで、スキャンした日時とバーコードによって精算情報が記録されます。つまり、この精算情報は、売価情報を付加した「いつ、どの商品が、幾らで販売されたか」という販売情報であるといえます。

ちなみに、POSとはPoint of Salesの略で、販売時点と訳され、「販売されたタイミング、および場所」という意味です。POSデータはまさに、販売されたタイミングおよび場所で収集されたリテールデータです。特に、一つの商品に着目すると「その商品は、いつ販売されたか」と解釈されるので、商品ごとの販売履歴を表しているといえます。さらに、複数のPOS端末を持つ大型店や多店舗展開している小売チェーンでは、「どの店舗で」などの情報が付加されます。また、POS端末によっては、棚位置や、店員が購入客の見た目から推測した客層(性別・年代)が付加される場合もあります(図1)。

図1:セブン-イレブンのPOSシステムに実装されている「客層ボタン」

図1:セブン-イレブンのPOSシステムに実装されている「客層ボタン」

POSデータは、商品ごとの販売履歴を網羅的、かつリアルタイムに収集します。このため、「何が売れているのか?」だけでなく、価格や棚位置、購入客層との関連を踏まえて「なぜ、それが売れたのか?」という理由にまで踏み込んだ分析も可能にしています。POSデータの分析については、次回、POSデータの利活用で紹介します。

2. ID-POSデータ

POSデータは、商品ごとの販売履歴のことをいうのに対し、ID-POSデータは、顧客ごとの購買履歴のことをいいます。購入客が、精算時に小売が発行するポイントカードや電子マネーを利用した場合、その精算情報には、顧客IDも付加されます。このPOSデータが、ID-POSデータです。ID-POSデータは、一人の顧客に着目すれば「誰が、いつ、どの商品を購入したか」と解釈されるので、顧客ごとの購買履歴を表しているといえます。

顧客を特定して時系列的な分析を行うことで、購買パターンやブランド・ロイヤルティ、価格感度といった特性の、時間的な経過を追うことができます。また、顧客横断的な分析によって、これらの特性が顧客ごとに同じとは限らないこと、すなわち顧客の異質性を検出できます。さらに、顧客を同質的なグループに細分化(分類)し、グループごとに適したマーケティング活動を行います。

小売にとっての優良顧客を抽出して、囲い込みを目的としたマーケティングを行う、いわゆるCRM(顧客関係管理)も、ID-POSデータがあって初めて実行可能な戦略です。ECサイトの取引データも、取引ごとに顧客が特定されているという意味で、ID-POSデータと同類だといえます。なお、ID-POSデータの分析は、第4回、ID-POSデータの利活用で紹介する予定です。

3. 小売が収集するリテールデータの限界とビッグデータ

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