安全を支える信号保安装置:鉄道に学ぶ!安全性と信頼性の基礎知識1

railway-safety1_key_visual-2

更新日:2015年12月15日(初回投稿)
著者:日本信号株式会社 交通運輸インフラ統括技術部 要素設計部 専任部長 森 昌也

今回から6回にわたり、日本の鉄道信号における安全性と信頼性の考え方を説明します。あえて、「日本の鉄道信号」と断っているのは、他の業界や海外の考え方とは、思想が異なる可能性が高いからです。ある意味でガラパゴス化しているかもしれません。しかし、世界一安全な日本の鉄道を支える鉄道信号の考え方は、技術者の皆さんにとっても、新鮮で学ぶこと多いはずです。鉄道信号メーカーだからこそ知っている鉄道ネタも交えて解説します。

一口に鉄道信号といっても、いろいろな装置で構成され、それらが自律的に動作しながら他の装置と有機的に結びついて鉄道輸送を支えています。第1回の今回は、代表的な装置を人間の身体に例えて説明します。鉄道信号システムの進化の歴史は、動物の進化(無脊椎動物→脊椎動物→大脳を持つ高等動物)に似ています。

図1:鉄道信号システムの全体像(一例)

図1:鉄道信号システムの全体像(一例)

1. 手足の筋肉にあたる「連動装置」

これは、駅にある出発信号機や線路のポイントを切り替える転てつ機などを制御する装置です。この装置は、人間や上位装置から、万が一、列車の脱線や列車同士の衝突につながる誤った制御指示があっても、これを受け付けない仕組みになっています。汽車の時代は純粋な機械式でした。

電車になった現在は、リレー論理で構成される継電連動装置(RI: Relay Interlocking)と、マイコンを使った電子連動装置(EI: Electronic Interlocking)の2種類に大別されます。また、信号機や転てつ機、そして列車の接近を検知して警報を鳴らして道路を遮断する踏切装置などは、合わせて「現場機器」と呼ばれます。これらは身体に例えると手足の筋肉です。

2. 脊髄神経にあたる「列車集中制御装置CTC」

CTCは、Centralized Traffic Controlの略です。これは各駅の現場機器を中央指令室から集中的に管理・制御するための伝送装置です。双方向の伝送装置で、主な役目は、指令室から各駅に信号機や転てつ機への制御内容を伝送するとともに、各駅から指令室に現場機器の現状を伝送すること(「表示を上げる」といいます)です。これは身体に例えると脊髄神経です。

3. 大脳にあたる「自動進路制御装置PRC」

PRCは、Programed Route Controlの略です。これはCTCを経由して、各駅に列車ダイヤ(「スジ」といいます)に合わせた列車運行の制御指示を自動的に出す装置です。列車の遅延が発生してダイヤが乱れたときの早期回復機能(「運転整理」といいます)も備えています。これは身体に例えると大脳です。運行列車が少ない線区では、この装置が無く、CTCを経由して指令員が列車運行の制御指示を出す場合もあります。

4. 副交感神経にあたる「自動列車制御装置ATC」

ATCという言葉は、聞いたことがある人もいるでしょう。Automatic Train Controlの略です。これは先行列車との位置関係を把握して、後続列車が追突しないように後続列車に速度制限をかけたり、停止させたりする装置です。これは身体に例えると副交感神経と言ったところでしょうか。

ATCの仕組みをもう少し詳しく解説します。ATCには、地上装置と車上装置があります。電車の線路は、適切な距離ごとに区間分けされ(「閉塞区間」といいます)、1区間には1列車しか存在できません(このことを「在線する」といいます)。

図2:ATCシステムの全体像(一例

図2:ATCシステムの全体像(一例)

地上装置は、閉塞区間ごとのレールに流れるATC信号電流の受信状態により、どの区間に列車が在線しているかを把握しています(直接レールに流さない方式もあります)。そして、先行列車と後続列車の位置関係に応じて、後続列車に速度制限信号(「速度現示」といいます)を送ります。ちなみに、地上装置から車上装置への通信は、レールに流した信号電流を、電磁誘導により列車のアンテナで受信する方法が主流です。

一方の車上装置は、自列車の速度が地上装置からの速度現示を超えていたら、ブレーキをかけます。これにより列車の追突が防止できます。また、急カーブ区間などでは、地上装置から車上装置へ低い速度現示を出して、脱線を防止します。

皆さんは、電車の先頭車両で、運転手のすぐ後ろの場所に乗ったことはありませんか? 走行中、ときどき運転席から「チンッ」という音を聞いたことがあるでしょう。これは、運転士に速度現示が変わったことを音で伝えているのです。

その他に、自動列車停止装置(ATS:Automatic Train Stop)があります。ある地点での列車速度が、制限速度を超えるとブレーキをかけて、列車を停止させます。これは、万が一運転士が信号を見落としてしまった場合に、列車が追突したり脱線したりするのを防ぐための装置です。

5. まとめ

鉄道の安全・安定輸送を支える鉄道信号システムを、駆け足で眺めてきました。このうち、列車運行の安全性を保証している装置(総称して「信号保安装置」といいます)は、主に連動装置(RI, EI)、自動列車制御装置(ATC)および自動列車停止装置(ATS)の3つです。

そして、これら装置の安全性の根幹には、「フェールセーフ(Fail Safe)」という考え方があります。(「フェイルセイフ」や「フェイルセーフ」と記載されることもあります。鉄道屋さんは「フェールセーフ」と書く人が多いです)

次回は「フェールセーフ」の考え方を詳しく説明します。お楽しみに!