量子コンピュータがもたらす未来:量子コンピュータの基礎知識4

量子コンピュータの基礎知識

著者:東京大学 大学院 工学系研究科 物理工学専攻 准教授 武田 俊太郎

前回は、量子コンピュータの計算を支える量子の性質について詳しく説明しました。今回は、将来、量子コンピュータが実用化されると世の中にどのような影響があるのか、そのインパクトや具体的な用途について説明します。

1. 量子コンピュータのインパクト

量子コンピュータは、世の中を大きく変える力を持っています。コンピュータの性能が上がるということは、皆さんが日常生活で使っているスマートフォンやノートパソコンの操作が快適になるだけではありません。世の中のさまざまな製品やサービスは、ほとんど全てコンピュータの力に頼っています。コンピュータの性能が上がれば、科学技術は進歩し、企業は成長し、国の経済成長や安全保障にも役立つでしょう。だからこそ、どの国や企業も、量子コンピュータ開発に躍起になっているのです。

第1回で述べたとおり、量子コンピュータは、どのような計算においても、現代のコンピュータより速く行えるわけではありません。現代のコンピュータより得意な計算がいくつか見つかっているだけです。量子コンピュータが得意な計算の一つが、第2回でも述べた、現代のインターネットで利用されている暗号の解読です。それ以外にも、量子コンピュータが得意な計算は、約60種類見つかっています。しかし、量子コンピュータはどのような計算が得意かという一般論は、まだよく分かっていません。量子コンピュータは、その活用方法においても発展途上であり、今後さらなる画期的な活用方法が発見される可能性があります。量子コンピュータが実用化されると、思いもよらない使い方やサービスが生まれ、私たちの予想もしえない未来が訪れるかもしれません。

2. 具体的な応用例:材料や薬の開発

量子コンピュータが活躍しうる代表的な分野を、1つ紹介しましょう。それは、新しい素材や薬の開発です(図1)。私たちの身の回りには、プラスチック、ガラス、金属、コンピュータ部品に使われる半導体など、さまざまな性質を持つ素材があります。それらの物質は全て、原子が組み合わさってできており、原子の組み合わせ方次第で、性質の違いが生まれます。

図1:材料や薬の開発への応用

図1:材料や薬の開発への応用

それでは、何らかの用途に特化して優れた材料がほしい場合、原子をどのように組み合わせれば作ることができるでしょうか? 実際に一つ一つ作って調べるのは大変です。そこで、あらかじめ原子が組み合わさったときの振る舞いをコンピュータで計算することで、下調べすることができます。しかし、原子は量子の一つなので、その振る舞いを正確に予測するには、量子力学の法則に基づいて計算する必要があります。現代のコンピュータに量子力学の法則を覚えさせて計算させるのは非常に労力がかかり、最先端のスーパーコンピュータでも歯が立ちません。これに対して、量子コンピュータはそもそも量子力学の法則を使って計算する装置なので、量子の振る舞いの計算との相性が非常に良いのです。

量子コンピュータに計算させることで、画期的な新素材を作る「レシピ」を次々と見つけられるかもしれません。例えば、飛行機の機体などに使える軽くて丈夫な素材、太陽光を効率良くエネルギーに変える太陽電池、リニア新幹線に利用できる優れた超伝導材料などが生み出されるかもしれません。

量子コンピュータは、将来、ものづくりを支える重要なテクノロジーとなり、私たちの生活を豊かにしてくれるだけでなく、エネルギー問題をはじめとするさまざまな社会問題に根本的な解決策を提示してくれる可能性もあります。実際に、将来を見据えて、量子コンピュータを用いた材料開発の研究に乗り出している企業もあります。例えば、フォルクスワーゲンは、電気自動車用の高性能なバッテリーの開発に量子コンピュータを活用する研究を進めています。新素材開発と同様に、薬の分子を量子コンピュータで設計することで、画期的な新薬を見つけられる可能性もあります。将来的には、一人一人の症状や体質に合わせた、オーダーメードの薬の設計も不可能ではありません。

3. その他の具体的な応用例

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