なぜ今、品質工学が注目されるのか?:品質工学(タグチメソッド)の基礎知識1

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更新日:2015年6月29日(初回投稿)
著者:のっぽ技研 代表 長谷部 光雄

1.「時間の壁」に直面する日本のモノづくり

モノづくり企業において、表立ったリコールに至らなくても、生産トラブルや製品品質の問題は日常的に発生しています。そして、製品開発や生産に携わる技術者の多くは、これらのトラブルや品質問題の解決に多くの時間を費やしているのが現状でしょう。

日常の品質管理は厳格に実施しているのに、なぜ製造でのトラブルが無くならないのでしょうか?以前に対策したはずの問題なのに、なぜ似たような現象が再発するのでしょうか?

国際競争力を高めるために技術的な改善をしたいが、想定外のトラブルが発生するのを懸念して、手が付けられない。コストダウンのアイデアを試したいのだが、副作用を確認するコストが大きく、実行に移せない。一言でいうと、モノづくりの技術力が低下しつつあり、それを打開するにもコストがかけられないのです。

このようなモノづくり力に関する悩みを持っている経営者は、かなり多いと思います。現場の技術者は、それ以上に心配しているでしょう。なぜなら、日々のトラブル対策に追われて、本来やるべきことに時間を割けないことを実感しているからです。

日本のモノづくりは、技術力の不足ではなく、時間の不足という「時間の壁」に突き当たっています。そして、従来の方法論では、その壁を乗り越えることが難しいのです。

ところが、時間の壁に突き当たっている問題も、品質工学なら対処できます。実績も豊富なため、品質工学(またはタグチメソッド)は注目されてきました。

本連載では、その理由と方法論を、実例を交えて説明しましょう。

2. 製品開発の役割分担

モノづくりの現場では、何が起きているのでしょうか?課題を明らかにするために、基本にかえって考えてみます。新製品のモノづくりステップは、大きく2段階に分けられます。

  1. (1) 企画仕様に合わせて具体的に製品を「設計する」段階
  2. (2) それを「量産する」段階

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図1:新製品の開発ステップ

まず(1)の設計段階では、どのような構造の製品を、どのような手順・やり方で作るのかを検討し、決定します。これが設計者の役割です。ここでの設計には、製品設計ばかりでなく、生産技術、つまり製造工程の設計も含まれることに注意してください。

次の(2)製造段階では、設計部門から指示された通りに製品を作り、出荷検査をして合格品だけを出荷します。これが製造部門の役割です。

3. 設計時には見えない不具合問題

きちんと設計された製品を、きちんとした品質管理で生産すれば、生産トラブルや品質問題は起きないはずです。しかし現実には、多くの問題が発生していますね。どうしてでしょうか?

その理由は、現実には、設計者の意図した通りに製品はできないからです。実際に使用される部品寸法や材料特性には、必ずばらつきがあります。温湿度などの作業環境も常に変動します。
作業者の習熟度や作業のばらつきも、必ず生じると考えなければなりません。

しかし、これらトラブルの原因となる変動要因を厳格に管理することは不可能です。製造工程で無理に管理しようとすれば、多大な費用が必要となります。量産工程でのばらつき管理には限界があります。

そればかりでなく工場を出荷した後でも、問題を起こす原因は多数あります。お客様の使用法や環境、保存状態や劣化の程度などです。もちろん、これらは管理しようがありません。

4. 重要なのは設計での未然防止

生産トラブルや市場品質問題の元凶は、量産開始前の設計にあると考えるべきです。トラブルの真の原因は、量産後に発生するばらつきです。これは、設計段階でしか修正できません。

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図2:新製品の開発ステップと不良防止

量産工程の検査で発見できた不良は、フィードバック管理で再発を防止できます。しかし、検査で見つからずに市場に出荷されて起きる品質クレームは、フィードバックでは間に合いません。

近年問題となっているのは、日常の管理では見つけられないタイプの不具合なのです。従来の方法で発見できないので「見えない不良」と名付けましょう。

「見えない不良」の原因は、量産開始後に対策はできません。設計段階で対策しておく「未然防止」の対象です。日常管理では見えない不良を、設計段階で事前に防止する。これが現代モノづくりの最重要課題なのです。

次回は、「見えない不良」の未然防止について、基本的な考え方を説明します。