前回は、研磨加工の定義、精密加工における位置付け、研削加工との違いを説明しました。今回は、研磨加工法の分類と、砥粒について詳しく解説します。
1. 研磨加工法の分類
研磨加工は、圧力制御(転写)方式の砥粒加工法に位置付けられます。また砥粒加工法は、固定砥粒方式と遊離砥粒方式の2つの研磨法に分類できることは、前回説明しました。さらに、それぞれの研磨法を分類してみましょう。すっきりと分類することは難しいものの、ここでは粗研磨と精研磨に区分します(表1)。
遊離砥粒方式 | 固定砥粒方式 | |
粗研磨 | ラッピング | 超仕上げ ホーニング 研磨布紙加工 |
精研磨 | ポリシング | 砥石研磨 |
粗研磨は、比較的粗い砥粒を用いる研磨法です。粗面仕上げが要求されている場合や、仕上げ研磨の前工程として適用されます。精研磨は、表面粗さの小さい鏡面や、加工変質層の少ない高品位の表面を得るための仕上げ研磨法として適用されます。
表1に示した以外にも、バフ研磨、バレル研磨、ブラスト研磨などの研磨法があり、皆さんも生産現場で耳にしたことがあるかもしれません。これらは、金属部品やプラスチック製品のつや(光沢)出し用、バリ取り・エッジ仕上げ用などに広く利用されているニーズの高い研磨法です。しかし、寸法精度や形状精度といった精密さが要求される研磨法とは異なるため、本連載では取り上げません。
2. 研磨加工に用いられる砥粒
研磨加工の基本的構成要素として、以下の3つ(砥粒、工具、研磨装置)が挙げられます。
- 切刃としての砥粒
- 砥粒に対する圧力媒体としての工具(遊離砥粒方式の場合はラップ定盤やポリッシャ、固定砥粒方式では砥石など)
- 砥粒に圧力を付加し、かつワークとの間に相対運動を行わせるための研磨装置
ここでは、砥粒について詳しく解説します。砥粒は、研磨加工における最も重要な構成要素の一つです。天然砥粒と人造砥粒があり、それぞれに多くの種類と、大きさ、形状があります。近年の研磨加工では、表2に示すような砥粒が使用されています。
名称 | 化学式 | 結晶系 | 色 | モース硬さ | 比重 | 融点(℃) | 適用 |
アルミナ(α晶) | α-Al2O3 | 六方 | 白~褐 | 9.2~9.6 | 3.94 | 2,040 | ラッピング ポリシング |
アルミナ(γ晶) | γ-Al2O3 | 等軸 | 白 | 8 | 3.4 | 2,040 | ポリシング |
炭化ケイ素 | Sic | 六方 | 緑、黒 | 9.5~9.75 | 2.7 | (2,000) | ラッピング |
炭化ホウ素 | B4C | 六方 | 黒 | 9以上 | 2.5~2.7 | 2,350 | ラッピング |
ダイヤモンド | C | 等軸 | 白 | 10 | 3.4~3.5 | (3,600) | ラッピング ポリシング |
ベンガラ | Fe2O3 | 六方 等軸 |
赤褐 | 6 | 5.2 | 1,550 | ポリシング |
酸化クロム | Cr2O3 | 六方 | 緑 | 6~7 | 5.2 | 1,990 | ポリシング |
酸化セリウム | CeO2 | 等軸 | 淡黄 | 6 | 7.3 | 1,950 | ポリシング |
酸化ジリコニウム | ZrO2 | 単斜 | 白 | 6~6.5 | 5.7 | 2,700 | ポリシング |
二酸化チタン | TiO2 | 正方 | 白 | 5.5~6 | 3.8 | 1,855 | ポリシング |
酸化ケイ素 | SiO2 | 六方 | 白 | 7 | 2.64 | 1,610 | ポリシング |
酸化マグネシウム | MgO | 等軸 | 白 | 6.5 | 3.2~3.7 | 2,800 | ポリシング |
このうち、アルミナ(α晶)、炭化ケイ素、炭化ホウ素およびダイヤモンドは、極めて硬度が高く(モース硬度9以上、ビッカース硬度Hv=2,000以上)、融点や昇華点も2,000℃以上と高いため、ラッピングなどの粗研磨用砥粒として多用されています。それ以外の酸化物系砥粒は、硬度が若干低く(モース硬度7以下)、機械的切削作用も弱いため、ポリシング用にのみ利用されています。なお、鉄系材料の高能率研削用砥石には、cBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒が重用されています(cBN砥粒は研磨加工に使われることはほとんどないため、表2からは除外しています)。
天然砥粒
天然砥粒としては、コランダム(不純物として酸化鉄(III) Fe2O3を含む、酸化アルミニウム Al2O3が主成分の砥粒)、エメリー(コランダムと磁鉄鉱との集晶砥粒。研磨布紙に多用)、ガーネット(ザクロ石とも呼ばれる。3FeO・Al2O3・3SiO2などのケイ酸塩鉱物)、ケイ石(SiO2系天然砥粒)、天然ダイヤモンドなどが知られています。20世紀初頭までは、これら天然砥粒が砥粒の主体でした。しかし、戦後は人造砥粒の製造技術が飛躍的に発展したため、ダイヤモンド以外の天然砥粒は、特殊な用途を除いてあまり使われなくなりました。
人造砥粒
アルミナ Al2O3には、多くの結晶形があります。中でも、六方最密充填格子構造のα-Al2O3が最も硬く、化学的・熱的にも安定しているため、A系砥粒として広範に利用されています。
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