研磨加工とは?研削加工との違いとは?:研磨加工の基礎知識1

研磨加工の基礎知識

更新日:2016年10月28日(初回投稿)
著者:元東海大学 工学部 精密工学科 教授 安永 暢男

シリコンデバイスを中心とする半導体素子、HDDやDVDなどの磁気や光による記録・記憶部品、レンズ・反射鏡などの光学部品、LEDや太陽電池など省エネ・クリーンエネルギー関連部品など、最先端技術分野で使われる高機能部品の製造には、高精度な精密加工技術が使われています。その最終工程として不可欠なのが、研磨加工です。

研磨加工は、有史以来の最も古い加工技術です。現在の先端産業においても、基幹技術の一つとして重要性を増しています。本連載では、研磨加工の基本知識から最新技術動向まで、分かりやすく解説します。第1回は、研磨加工の定義、精密加工における位置付け、研削加工との違いを説明します。

1. 研磨加工とは?

研磨は、微細な硬い粒子(砥粒)を多数同時に作用させて、対象表面を少量ずつ削ることにより、表面の凹凸(粗さ)を小さくして鏡面状態にする加工作業です。代表的な研磨対象について、加工の目的と期待する効果を示します(表1)。

表1:代表的な研磨対象の研磨目的と期待する効果
研磨対象 研磨の目的と期待効果
宝石・大理石など ・つや・光沢の付与 → 外観・美観の向上
・割れ・欠け防止 → 取り扱い性・搬送性の向上
刀剣・金属食器など ・つや・光沢の付与 → 外観・美観の向上
・切れ味向上
・汚れ防止 → 洗浄性の向上
・さび・変色の防止 → 寿命の向上
金型 ・成形品への光沢付与 → 外観・美観の向上
・流動抵抗の低下・離型性の向上(樹脂金型)
・合わせ面精度の向上 → 樹脂漏れ防止(樹脂金型)
・寸法精度・経常精度の向上 → 製品精度・強度向上
・さび防止 → 金型強度・寿命の向上
機械部品・機構部品・
ゲージ・工具など
・機械としての運動精度向上
・耐摩耗性・耐食性の向上 → 寿命の向上
・加工精度向上
・部品互換性の向上
・汚染付着・パーティクル発生防止
光学部品・電子部品など ・光学的・電気電子的素子特性の向上
・高精密化・超微細化・高集積化の促進
・汚染付着・パーティクル発生防止
歯科・生体用代替物 ・プラーク沈着防止・歯肉炎防止
・触感向上
・機械的強度向上(破損防止)

研磨により材料表面の粗さが小さくなると、光の反射率が高まり、つや・光沢が増します。また、透過率も高まります。古来、人はその輝きに神秘を感じ、鏡などに珍重してきました。

近代産業においても、研磨加工は工学的・工業的に多くのメリットがあります。特に、最先端技術の中核をなす光学素子、半導体素子、磁気デバイス素子などの高機能部品では、高平たん、高平滑で、加工変質層が残留しない高品位表面仕上げが必須とされます。そのためには、超精密な研磨技術の適用が不可欠です。また、これらの素材の多くは硬くもろいため、加工が困難です。今後、さらに高度な研磨技術が求められることになるでしょう。

2. 精密加工における研磨加工の位置付け

近代製造業のモノづくり現場では、さまざまな精密加工法が利用されています。例えば、固体工具を用いる機械的加工法、エッチングや電解研磨などの化学的加工法、放電加工や電子ビーム加工などの電気的加工法、レーザ光を利用する光学的加工法です。

このうち、最も種類が多く汎用性が高いのが、固体工具を用いる機械的加工法です。機械的加工法は、単刃工具(刃先を一定形状に整形した工具)を用いる切削加工法と、多刃工具(多数の不整形砥粒)を作用させる砥粒加工法に大別されます。また砥粒加工法は、砥粒を結合剤で固めた成形工具(いわゆる砥石)を用いる固定砥粒方式と、砥粒をバラバラの状態で供給する遊離砥粒方式に分けられます(図1)

 

砥粒加工法の分類

図1:砥粒加工法の分類

固定砥粒方式には、研削、超仕上げ、ホーニング、研磨布紙(フィルムを含む)加工などがあります。一方、遊離砥粒方式には、粗砥粒を用いて高能率加工を志向するブラスト加工、超音波加工、ラッピングや、微細砥粒を用いて鏡面化を図るバフ仕上げ、ポリシングなどがあります。

ところで、本連載のテーマである研磨加工は、砥粒加工法に含まれる加工手法です。では、図1:砥粒加工法の分類のどこを指しているでしょうか? 実は、研磨加工は古くから利用されてきた技術・技能であるためか、その定義はあいまいで、明確な規定がないのが実情です。砥粒加工学会が編集した『切削・研削・研磨用語辞典』でも、研磨加工とは「工具に摺り付けて研ぎ磨くこと」、「工具であるラップ、ポリッシャ、砥石などに研磨剤や研磨液を介して工作物を擦り付ける加工操作の研磨法」と大ざっぱな定義にとどまっています。具体的な研磨加工法の種類や分類は、第2 回で詳しく解説します。

3. 研削加工と研磨加工の違い

研削加工と研磨加工は、砥粒加工技術を支える両輪です。両者の一般的なイメージは、このようなものではないでしょうか。

研削加工:円盤状砥石(といし)を研削盤に装着して高速回転させ、工作物に対して一定の切り込みを与えて削る加工法
研磨加工:スラリー(遊離砥粒を懸濁した加工液)を供給しながら、工作物を研磨布に押し付け、比較的低速で摩擦させて磨く加工法

しかし、研磨加工では、研削用砥石とほぼ同一の工具を使う場合もあり、研削と研磨の違いは必ずしも明確ではありません。そこで、以下のように区別することで、両者の違いはより明確になります。

研削加工:運動制御(転写)方式の砥粒加工法
研磨加工:圧力制御(転写)方式の砥粒加工法

運動制御方式は、工具に一定量の切り込みを与え、工具の運動軌跡を忠実にワークに転写させる強制切り込み方式です。研削加工だけでなく、切削加工もこの方式に属します。

圧力制御方式は、工具あるいはワークに一定の負荷を与え、押し付けながら相対運動させることで、加工量(除去量)を加工距離あるいは加工時間で管理する方式です。ラッピング、ポリシング、ホーニング、超仕上げなど、研磨加工法の多くがこれに属します。

運動制御方式の場合、工作物に対する工具の切り込み精度や送り精度が、そのまま加工精度に反映されます。そのため、高い精度で加工を行うには、装置の構造や運動機構が高い剛性を有し(変形やガタが少ない)、微細かつ高精密な工具送りが求められます。さらに工具自体も、高い剛性を有する損耗しにくい材質で、かつ高い精度に仕上げられていることが必須です。

これに対して、圧力制御方式は、工作物を一定の圧力で工具に押し付ける方式なので、加工装置自体の剛性や運動精度が直接的に加工精度に反映されません。工具(ラップ、ポリッシャ、砥石など)の形状精度や砥粒保持剛性が保証されていれば、加工精度の確保は比較的容易といえます。

したがって、一般論としては、研磨加工は研削加工に比べて装置コストが低く、装置管理も容易という利点があります。円柱、円筒、平面、溝、穴などの目標形状を高い寸法精度で加工するには、運動制御方式の研削加工を適用し、鏡面化などの仕上げ加工には、圧力制御方式の研磨加工を適用するのが、基本的な使い分けです。

いかがでしたか? 今回は、研磨加工の定義、精密加工における位置付け、研削加工との違いを説明しました。次回は研磨加工の種類と基本構成を解説します。お楽しみに!

参考文献
・安永暢男、はじめての研磨加工、東京電機大学出版局、2011年、P.9
・砥粒加工学会編、切削・研削・研磨用語辞典、工業調査会、1995年、P.63
・宮下政和、超精密加工技術マニアル、新技術開発センター、1985年、P.41