空気圧のエネルギー:空気圧の基礎知識3

空気圧の基礎知識

更新日:2021年8月27日(初回投稿)
著者:東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 川嶋 健嗣

前回は、空気圧の状態変化と、圧力、温度、体積の状態量の関係を紹介しました。今回は、空気圧のエネルギーを取り上げます。空気の圧縮性は膨張エネルギーとして作用します。よって、空気圧のエネルギーの取り扱いでは、油圧などの非圧縮性流体と比較して膨張分を考慮する必要があります。今回は、その理解を深めるために、初めに、空気が保有するエネルギーにおいて内部エネルギーが支配的であることを紹介します。次に、空気圧駆動として広く用いられている空気圧シリンダを例に、その仕事を見ていきます。最後に、空気圧の有効エネルギーについて説明します。

1. 内部エネルギー

空気が保有するエネルギーには、運動エネルギー、ポテンシャルエネルギー、内部エネルギーの3つがあります。運動エネルギーは、物体の運動に伴うエネルギー、ポテンシャルエネルギーは、物体の運動状態に関係なく力の場の中の位置だけで決まるエネルギー、内部エネルギーは、物体内部の状態だけで決まるエネルギーのことをいいます。

運動エネルギーEkは、

となります。ここで、mは空気の質量(kg)、uは空気が流動する際の平均速度(m/s)を表します。よって、静止している空気では運動エネルギーはゼロとなります。ポテンシャルエネルギーEgは、

Eg=mgh

となります。ここで、gは重力加速度、hは基準面からの高さ(m)を表します。

容積一定の容器に封入した単位質量の空気の温度を1(K)上昇させるのに必要な熱量をCvとして、温度0(K)の内部エネルギーを基準とし、全体温度をθ(K)とすると、空気の内部エネルギーUは、

U=mCvθ

と表すことができます。ここで、Cvは定積比熱と呼ばれ、空気ではCv=718(J/(kg・K))となります。

上記3つのエネルギーの割合を見ていきましょう。空気の質量m=1(kg)、空気の速度をu=100(m/s)、高さh=10(m)、空気の温度を293(K)(=20℃)とすると、上述した式より、各エネルギーを計算できます。その結果を表1に示します。空気が保有するエネルギーは内部エネルギーが支配的であり、産業用途などで一般に使用される空気圧システムにおいては、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーは無視しても問題ないことを示しています。

表1:空気が保有するエネルギー
エネルギー 条件 数値 割合
内部エネルギーU 温度θ=293(K)(=20[℃]) 210.4(kJ) 97.63%
運動エネルギーEk 平均流速u=100(m/s) 5.0(kJ) 2.32%
ポテンシャルエネルギーEg 基準面からの高さh=10(m) 0.1(kJ) 0.05%

2. 空気の仕事

空気圧のことを理解するには、油圧のことも知っておくことが必要です。空気圧と油圧の大きな特徴の違いは、油は液体で非圧縮性であり、空気は気体で圧縮性であるということです。油圧では、油動力は、圧力pと流量Qの積pQと表示されます。この油のパワーは電圧と電流の積で表される電力パワーと同様のものであり、単位はワット(W)です。空気圧技術には油圧を参照したものが多く、空気のパワーとして油動力を適用することは自然な流れです。しかし、油動力を適用すると、空気圧の最も大きな特徴である圧縮性をパワーとして表現できません。また、膨張エネルギーを考慮する必要があります。空気圧シリンダを例に膨張エネルギーを見ていきましょう。

図1に示すように、鉛直に取り付けた空気圧シリンダで負荷を持ち上げる場合を想定します。空気圧シリンダの理論推力を500(N)、負荷の質量Mgを450(N)、空気圧シリンダの排気側は大気開放とします。ここで、空気圧シリンダの摩擦力は十分に小さいものとします。

図1:空気圧シリンダにおける空気の仕事

図1:空気圧シリンダにおける空気の仕事

供給側の遮断弁を開くと、圧縮空気が空気圧シリンダのヘッド側(図1下側の空気圧シリンダ室)に充填(てん)され、負荷がゆっくり持ち上げられます。ピストンが下面からの高さl1=0.2(m)に到達した時点で遮断弁を閉じ、ピストンを高さl1に中間停止させます。このときの圧力をPとします。ここで、負荷質量を半分にすると、下側の空気圧シリンダ室の圧縮空気が膨張して、負荷が空気圧シリンダ上端l2=0.3(m)まで持ち上げられたとします。この過程における空気の仕事Woutは、

となります。一方で、pQで空気のパワーを表す場合、空気圧シリンダに供給したエネルギーWinは、

と計算できます。よって、空気圧シリンダの仕事効率ηは

となり、100%を超えてしまいます。これは、上述した入力エネルギーに膨張分が考慮されていないことに起因します。

そこで、膨張分を含めた空気の仕事を考えます。供給圧力Psで空気圧シリンダの容積が0からVsとなり、その後、供給を遮断することで、空気圧シリンダ内の圧力Pが等温膨張し、大気圧Paにおいて容積がVaになったとします。この場合、空気の最大仕事Wは、

となります。ここで、lnは自然対数を意味します。上式における中辺の第1項は圧縮空気を充填することによる仕事を、第2項は等温膨張による仕事を表します。

3. 有効エネルギー

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