大口決済システム改革2-ハイブリッド・システムの登場-:決済システムの基礎知識3

決済システムの基礎知識

更新日:2019年12月5日(初回投稿)
著者:麗澤大学 経済学部 教授 中島 真志

前回は、大口決済システム改革の、時点ネット決済システムからRTGSシステムの流れを紹介しました。今回は、時点ネット決済システムとRTGSシステムの両方のメリットを取り入れた、ハイブリッド・システムを取り上げます。

1. RTGSシステムの弱点

前回見たように、大口決済システムは、時点ネット決済システムからRTGSシステムへと発展を遂げてきました。RTGSシステムは「決済リスクに強い」という特性があり、これがRTGS化への流れをもたらしました。

しかし、RTGSシステムには、「決済を進めるために、多くの流動性(資金)が必要である」という弱点がありました。例えば、時点ネット決済システムでは、他行へ500の支払いがあっても、同じ日に他行から400の受け取りがあれば、決済のために必要な資金は差額の100で済みます。ところがRTGSシステムでは、相手行から当日中に400の受け取りがあると分かっていても、現時点で500の支払いを行うためには、あくまでも500の資金がなければ決済を進められません。つまり、RTGSシステムには、決済リスクには強いものの、多くの流動性が必要であるというデメリットが付いて回ります(図1)。

図1:時点ネット決済システムとRTGSシステムの特徴

図1:時点ネット決済システムとRTGSシステムの特徴

2. 頻繁なネッティングという発想の転換

端的にいうと、時点ネット決済システムは、流動性の点で優れるものの、決済リスクの面では脆弱性ぜいじゃくせいを有し、一方RTGSシステムは、決済リスクには強いものの、流動性においては見劣りします。このような、「あちらを立てれば、こちらが立たず」という「トレード・オフ」の関係を解決するために、「従来は1日に1回であったネッティングを頻繁に行う」というアイデアが考えられました。ネッティングとは、取引のたびに決済を行うのではなく、ある一定の時点で債権と債務をまとめて相殺し、差額分だけを決済することです。

「頻繁なネッティング」を行うことで、早期のファイナリティ(決済完了性)を実現し、未決済の状態が続くという時点ネット決済システムの弱点を克服できます。その一方で、ネットベースでの決済(差額決済)を行うため、少ない流動性での決済が可能という、時点ネット決済システムのメリットは維持されています。

1日に1回であったネッティングを、例えば20分ごとのように頻繁に実施するというのは、いわばコロンブスの卵的な発想であり、今にして考えれば、比較的単純なアイデアのようにも思えます。しかしこれは、当時誰も考えたことのなかった仕組みであり、その後の決済システム一連の高度化につながっていく出発点となりました。

3. ハイブリッド・システムの特徴

決済システムは、時点ネット決済システムとRTGSシステムの両方のメリットを取り入れているという意味で、「ハイブリッド・システム」と呼ばれます(図2)。ハイブリッド・システムでは、日中にネット決済が頻繁に実施され、各ネット決済は実施された段階でファイナル(完了)となるため、その分の決済リスクがなくなります。つまり、早期のファイナリティと、少ない流動性による決済を両立させており、決済システムの「安全性」と「効率性」とを同時に達成しているのです。まさに、一石二鳥のシステムといえます。

図2:ハイブリッド・システムの特徴

図2:ハイブリッド・システムの特徴

4. 初のハイブリッド・システム:ドイツのEAF2

こうした画期的なハイブリッド決済を世界で初めて実現したのが、ドイツの「EAF2」というシステムです。EAF2は、1996年に稼働を開始しました。EAF2では、20分ごとにネッティングが実施されました。また、バイラテラルな(二者間の)ネッティングという概念を持ち込んだことも革新的でした(図3)。

それまでネッティングといえば、全ての参加行を対象にしたマルチラテラルな(多者間の)ネッティングのみでした。これに対しEAF2では、午前中にバイラテラルのネッティングが、午後にはマルチラテラルのネッティングが行われました。この新たな仕組みは、決済システムに大きな発展の可能性を切り開いた、まさに画期的なイノベーションであったということができます。

図3:2種類のネッティング

図3:2種類のネッティング

5. 連続的を編み出す:フランスのPNS

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6. 3つの処理方法を持つ:米国のCHIPS

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7. ハイブリッド・システムにおける実現方法の高度化

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