割れの原因と対策とは?:塗装・塗料の基礎知識8

塗装・塗料の基礎知識

更新日:2016年11月11日(初回投稿)
著者:元職業能力開発総合大学校 准教授 坪田 実

前回は、塗膜形成後に発生する、目やせとしわの原因と対策を説明しました。今回は、塗装の欠陥を起こさないために守るべき「塗装の憲法」を紹介します。また、塗膜形成後の欠陥の1つである割れ。その対策について解説します。

1. 自分なりの「塗装の憲法」

良い塗装とは、目的に応じた外観と塗膜性能を付与することで、その状態を長く保持できることが望まれます。良い塗装を目指し、自分が経験してきたことを整理していくと、自分なりの最低限守るべき原則ができます。私はこれを、「塗装の憲法」と呼んでいます。私の「塗装の憲法」は、次の7か条です。臨機応変な考え方が大切です。

  • 第1条:塗装できる環境を整えるべし
  • 第2条:塗装の段取り(3つの要件)をするべし
  • 第3条:塗装系の原則を守るべし
  • 第4条:塗装工程を確立するべし
  • 第5条:塗りの極意を守るべし
  • 第6条:塗料配合の原則を守るべし
  • 第7条:安全な塗装作業を守るべし

今回は、この中から「第3条:塗装系の原則を守るべし」を取り上げます。基本的な塗装系とは、下塗り、中塗り、上塗りからなる塗料の組み合わせです。自由な発想で塗料を選択してもよいといわれたら、なぜ、3層も塗り重ねるのかと疑問に思うでしょう。

経験者にこの疑問をぶつけると、こんな答えが返ってくるはずです。「塗料という材料は、被塗物があって初めて存在感を発揮します。単層膜は、プラスチックフィルムと比べると非常に弱いけれども、複層膜になると、とんでもない力を発揮する優れものです。ただし、どんな被塗物にも塗ることができ、しっかりくっつく必要があります。複層膜というチームワークで塗装効果を発揮するから、3層の塗り重ねが必要です」

一般のプラスチックは、液体から固体になるときの結晶化や、配向(樹脂を構成する分子の方向)の処理で強度を増大させます。一方、塗料は被塗物にしっかり付着することで強度を増します。したがって、被塗物に直接塗られる下塗りはとても大切な役割をします。3層の役割をイラストで示すと、図1のようになります。被塗物の種類によって、組み合わせる塗料の種類が異なります。

被塗物が金属板の場合、曲げられたときに伸びが大きくなります。そのため、上塗りには曲げても割れない、たわみ性の良い塗料が必要になり、クリヤを採用するのは合理的です。経験則として、「下に塗るものほど顔料を多くしなさい」とか、「硬い素地の場合、下塗りから上塗りまで樹脂分を連続的に増やしていきなさい」など、塗料の配合に関する先人の知恵が、現在も受け継がれています。

図1:塗装系の構成と各層の役割

図1:塗装系の構成と各層の役割(引用:坪田実、目で見てわかる塗装作業、日刊工業新聞社、2011年、P.9)

2. 2種類の塗膜の組み合わせ

塗料の種類は、水性、油性、粉体などさまざまです。しかし、固化して塗膜の状態になると、チョコタイプ(熱可塑性樹脂)とクッキータイプ(熱硬化性樹脂)の2種類に分けられます。そこで、簡略化のため上塗りと下塗りの2層膜を考えてみましょう(図2)。ここでは、塗膜はすでに固化しており、被塗物は環境条件が変わっても膨張・収縮しないことにします。ただし、各層の塗膜は、環境条件で残留溶剤が揮発したり、後硬化(時間の経過により、主剤と硬化剤が化学反応して結合)することもあります。

図2:2層の塗装系の組み合わせ

図2:2層の塗装系の組み合わせ

チョコタイプ(熱可塑性樹脂)の塗膜は、塗膜を加熱するとチョコのように流動します。塗料から塗膜になる過程で、樹脂の分子量は変わりません。加熱や溶剤浸せきの際には、樹脂の分子間力が弱まります。分子鎖同士が化学結合をしていないため、チョコタイプの塗膜は流動します。

一方、クッキータイプ(熱硬化性樹脂)の塗膜は、塗料から塗膜になる過程で、樹脂成分の主剤と硬化剤が化学反応を起こし、ジャングルジムのような構造を作ります。分子鎖同士が化学結合し、分子量が無限大になります。これにより、塗膜は加熱しても流動しません。

図3:クッキータイプ(熱硬化性樹脂)の塗膜の分子構造

図3:クッキータイプ(熱硬化性樹脂)の塗膜の分子構造(引用:坪田実、塗装の実務入門Q&A、日刊工業新聞社、2010年、P.11)

3. 割れ:塗膜に裂け目ができる現象

割れとは?その原因とは?

割れとは、ひびが入ったように塗膜に裂け目ができる現象です。割れは、塗膜に引張り力が作用することにより発生します。引張り力が作用しやすい塗装系とは、どのようなものでしょうか?

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