塗装とは?はけ塗りの方法とは?:塗装・塗料の基礎知識1

塗装・塗料の基礎知識
更新日:2016年7月21日(初回投稿)
著者:元職業能力開発総合大学校 准教授 坪田 実

塗装とは、単に塗料を塗り広げるだけの作業ではありません。塗料を用いて、塗膜または塗膜層を作る技法です。素地の調整、塗り付け、乾燥、研磨といった基本的な作業を何度も繰り返す技能が必要になります。

美しく見せたり保護する以外にも、塗装にさまざまな特殊機能を付けるニーズが高まっています。塗料の高機能、高デザイン性を実現するため、メーカーの技術開発は加速しています。しかし、塗料が高機能になっても、塗装の現場に合ったものでなければ、良い効果は得られません。

この連載では、9回にわたって、塗装方法や塗装時に発生する欠陥や対策法について、解説します。

1. 塗装とは?

塗装によってできた塗膜は、多層構造になっています。大きくは、下塗り層、中塗り層、上塗り層に分けられます。多様なニーズに応えるため、塗料は常に改良や開発が重ねられています。各層に適応した機能を持つ塗料を選ぶことが大切です。

図1:塗装に必要な作業工程

図1:塗装に必要な作業工程

また、きれいな塗膜層を形成するためには、図1に示す塗装の作業工程をしっかり守らなければなりません。この作業工程を守りつつ、塗装の現場に応じて塗料選びや塗りの回数を決定します。

図2:自動車塗装の塗膜構成

図2:自動車塗装の塗膜構成

図2は、自動車の塗装の塗膜構成です。各層に適応した機能を持つ塗料が使用されています。塗膜の厚さは、何と約100μmです。新聞紙2枚分の厚さで10年程度、新車感を保持しています。

図3:新車の塗装工程

図3:新車の塗装工程

図3は、現在の新車の塗装工程です。研磨と焼付け工程を徹底的に省いて、手間とコストを削減しています。

図4:ピアノの漆黒調仕上げの塗装工程

図4:ピアノの漆黒調仕上げの塗装工程

他の例を挙げましょう。図4はピアノの漆黒調仕上げをする塗装工程です。この図を見ると、研磨・磨き工程が6回もあります。塗膜の厚さは約500μmと、車の約5倍もあります。鏡面に仕上げるため、塗っては研磨するという工程を繰り返すのが、木材塗装の宿命です。

このように、塗装を行うにあたり、作業がスムーズに進むように、事前に段取りをしておくことが大切です。塗装効果やコストに応じて、最適な塗料の選定、養生の仕方や塗り回数、乾燥時間、研磨番手の決定、塗装用具や器工具類の点検・準備・後始末など、しっかり準備をしておきましょう。

2. 塗装方法の進歩

図5:塗装方法の進歩

図5:塗装方法の進歩

塗装方法は図5に示すように進歩してきました。明治維新の頃、塗料は漆や乾性油、ボイル油をベースに顔料を混ぜた油性調合ペイント(洋式ペイント)がほとんどでした。これは、乾燥に時間がかかるため、はけとヘラがあれば塗ることができます。

1950年代に入ると、ニトロセルロースラッカーが出現します。これは、速乾性であるため、はけ塗りは難しくなります。そこで、スプレーガンが開発されました。これをきっかけに、一気に工業塗装が進歩しました。

図5に示す塗装方法は、はけ塗りのような、塗料を直接移行する直接法と、スプレーガンのような、微粒子の霧にして移行する噴霧法に大きく分けられます。塗装をうまく行うカギは、被塗物の形状や、塗料の粘度、乾燥性を考慮して、適切な塗装方法を採用することです。そのためには、それぞれの塗装方法の特徴を知っておく必要があります。今回から4回にわたり、塗装方法について具体的に説明します。まずは、液体塗料の直接法からです。

3. はけ塗りの方法

はけ塗りは、古くから行われてきた塗装方法であり、さまざまな形状の被塗物に対応できます。さらに、簡単な養生で塗装ができ、塗料を無駄なく使えるエコな塗装方法です。

しかし、はけ塗りは熟練した技能がなければ、美しく仕上げることができません。はけ塗りの基本は毛先で塗ることですが、初めのうちは、なかなかうまくできません。意識して練習すれば大丈夫です。

図6:はけ塗りの基本は毛先で塗ること

図6:はけ塗りの基本は毛先で塗ること

図7:主なはけの種類と原毛

図7:主なはけの種類と原毛

はけの種類は、図7に示すようにさまざまです。毛が束になった穂と、毛を保持する柄とからできています。塗料を運び、塗る機能を持つ便利な工具です。平ばけ、ずんどうばけ、および柄と毛の部分に角度のある、すじかいばけなどがあります。

穂は、ほとんどが動物の毛で、馬毛(古くは、こまげと呼んでいた)、ヤギ毛、羊毛が多く使用されています。黒毛には、馬毛のような硬い毛が使用されます。白毛には、ヤギ毛、羊毛の柔らかい毛が使われます。最近は、ナイロンのような合成繊維の毛も多くなってきました。漂白剤や薬剤を使用する場合には、ナイロンばけを使用してください。

はけの選び方
塗料の種類、塗り面積などに応じて適切なはけを選びます。一般的に、合成樹脂調合ペイントのように粘度の高い塗料では、硬い毛(黒毛)のずんどうばけを使用します。また、腰が強く塗料の含みがよいので、広い面の塗装に適しています。一方、ウレタンワニスやラッカーのように粘度の低い塗料では、やわらかい毛(白毛)のすじかいばけを用います。

はけ塗りの方法
屋根・フェンス・シャッターなどを合成樹脂調合ペイントで塗るときは、黒毛のずんどうばけと、すじかいばけ、さらにウエスと下げ缶(塗料容器)をセットにして両手に持ち、いつでもはけを取り替えて使用できるようにします。

隅や端など塗りにくい所がある場合、すじかいばけであらかじめ塗っておく必要があります。また、色違いで塗り分けるダミ分けという作業にも、すじかいばけを使います。ずんどうばけの補助として使用します。

図8:すじかいばけによるダミ分け(塗り分け作業)

図8:すじかいばけによるダミ分け(塗り分け作業)

広い面は、ずんどうばけで塗っていきます。その手順を示したのが図9です。

図9:はけ塗りの手順

図9:はけ塗りの手順

まず、塗付けをします。均一に塗料を配ることが目的です。このとき、はけの向きと動きに注意してください。続いて、ならしを行います。塗付け方向と直行する方向にはけを動かし、塗料をまんべんなく塗り広げます。この段階で、全体の塗付量はほぼ均等になります。

最後に、むら切りをします。これは仕上げの作業で、毛先をそろえたはけで一定方向に軽くはけを動かし、はけ目を通します。入隅(2つの面が合わさってできるくぼみ)がある場合には、返しばけを行いはけ目が残らないようにします。はけ目は時間が経つことで平坦になり、消えていきます。これをレベリングと呼びます。レベリング現象と仕上がり外観との関係を第6回で取り上げます。

形状が複雑な箱や家具類については、塗りにくい部分、塗り残しやすい部分や裏側などから塗り始め、人目につくところを最後に塗ると仕上がりが良くなります。

通常は、図9のように柄の中央付近を持ちます。塗料を塗り付けたり広げたりするときには、力がいるので毛に近い側を持ちます。一方、境目を塗り分けるダミ分けのときには、毛先に微妙な動きを与えるため、毛から遠い側を持ちます。

図10:はけの洗い方と保管方法

図10:はけの洗い方と保管方法

はけは、ヘラで残りの塗料をていねいに突き出した後、洗い用シンナーで洗います。毛に癖がつかないようにしてから、使用塗料のはけに応じて保管します。

以上が、はけ塗りの方法です。次回は、直接法の他手法である、ローラブラシ塗りやしごき塗り、また電着法について解説します。