組織開発とは:組織開発の基礎知識1

組織開発の基礎知識

更新日:2022年1月13日(初回投稿)
著者:神戸大学 大学院経営学研究科 経営学専攻 教授 鈴木 竜太

組織開発は、その趣旨を知らなければ組織開発を行えないというわけではありません。しかし、正しく理解することで、組織開発をより効果的に実践することができます。ダイエットをするにしても、そのダイエット方法にどのような意味があるのかを理解せず言われたようにやるだけよりは、意味を理解して自分なりに納得して取り組む方が、前向きでより良い成果が出るものです。本連載では6回にわたり、組織開発(Organizational Development)の基礎知識を解説します。今回は、組織開発の定義、組織変革との違いについて解説します。

1. 組織開発とは

組織開発とは、その名のとおり、組織を開発することです。開発(Development)という用語は、発達や進展といった意味を含んでいます。このことから組織開発とは、組織を健全な良い方向に変えていく取り組みであると、大まかに理解・定義することができます。

ただし、ここでいう組織とは、単に人が集まっているという意味ではなく、メンバーの個々の組織活動によって構成されているものと考えられます。企業組織や研究所、大学などの組織は、それぞれの人が組織の共通の目的のために活動をし、その活動によって組織の目的の達成に進んでいます。つまり組織は、各自が勝手に活動しているだけのものではなく、メンバーが共通の目的のもとに、活動を調整しながら行動・協働することで成り立つといえます。

このように考えたときに、組織開発とは、(組織がより良い方向に向かうために)各人の組織の中での活動(行動)を変えていく取り組みであるということができます。組織開発では、行動科学の知見が多く用いられます。また、組織開発は、健全な良い方向に向かうことを目指します。業績のみ上げるのではなく効率性も上げて、より健全な組織活動が行われることを目指します。そのため、組織開発においては、当事者である組織のメンバーから組織全体までが、働きかけのターゲットに置かれます(図1)。

図1:組織開発が働きかける対象とするシステムのレベル

図1:組織開発が働きかける対象とするシステムのレベル

2. 組織開発と一般的な組織変革の違い:4つの価値観

組織開発についての理解をより深めるために、組織変革との特徴的な違いについて説明します。組織開発は、組織変革の一つの形態と考えることができます。一般的に考えられる組織開発とは、以下に挙げる4つの点(人間尊重の価値観、民主的な価値観、クライアント(当事者)中心の価値観、社会的・エコロジカル的システム志向性)において、特徴的な点があります。

・人間尊重の価値観

人間尊重の価値観とは、人間には可能性があり、基本的には善であるという考え方です。これは組織開発においては、組織のメンバーにはそれぞれの可能性があり、それぞれが前向きに、主体的に活動するものであるという前提を置いているということを意味します。そのため、組織開発では、能力が十分発揮されないものを排除するという形式での変革にはくみしません。

・民主的な価値観/クライアント(当事者)中心の価値観

民主的な価値観とは、組織開発に関わるさまざまなことを決める際には、できる限り関連の人がその意思決定に参加し、多くの人の意見を反映させたものの方が、より良い効果がでると考えることです。これに関連して、クライアント(当事者)中心の価値観が重要になります。組織開発は、外部者が関与しながら進めていくことも少なくないとはいえ、当事者である組織メンバー自らが、組織をより良い方向に変えていくということを重視しています。これらを踏まえると、組織開発は、やらされ感の強い組織の変革ではなく、組織がより良い方向へ変わるために、自らを変えていく活動であることを重視しているといえます。

・社会的・エコロジカル的システム志向性

社会的・エコロジカル的システム志向性とは、組織をその中だけで閉じるのではなく、社会や環境の中での組織であることを前提としているということです。組織メンバーや当該組織だけが良いというのではなく、社会的・環境的に良いという方向を目指すことが重要です。

4つの価値観からも分かるとおり、組織開発は人間や社会に対するポジティブな考え方を含んだ取り組みです。逆にいうと、そのような観点に立っているからこそ、開発(Development)という言葉を用いているともいえます。

組織開発では、組織を良い方向へと変えるためには、人を入れ替えたり、強制的に人々の行動を変えたりするのではなく、組織メンバー自らが主体的に変わっていくことが重要であると考えています。これは、患部を切り取る外科手術ではなく、トレーニングや生活改善などによって自己の免疫力や機能を高めることで、健康を維持していくイメージと考えてよいと思います。

3. 組織開発はどこに働きかけるのか

さて、ここまで読んで、組織開発とはどのようなことなのか、なんとなく分かってきたのではないかと思います。では、組織開発は、どこに働きかけることで、人々の活動や組織を変えていくことができるのでしょうか?

組織開発が対象とするのは、組織構造や戦略といったハードの部分と、組織のプロセスのソフトの部分の両方になります。特に組織開発において特徴的であるのは、組織のプロセスの部分に働きかけていくことです。ここでいう組織のプロセスとは、作業手順や仕事のプロセスだけを指すのではなく、より人間的な側面に着目したプロセスも指します。

例えば、会議での発言が少ないということは、会議の質や生産性に影響します。1時間で建設的な発言が数個しか出ない会議と、次から次へと建設的な発言が出る会議では、同じ会議でも質は異なります。また発言の数は多くとも、後ろ向きや否定的な発言ばかりであれば、会議の結果から起こる組織活動の質は上がりません。

このような場合、組織開発では、発言を増やすことや発言の内容そのもの(コンテント)に働きかけるのではなく、会議に参加するメンバーの意識や考え方に働きかけます。発言の量や内容が表に出てくるものだとすると、その根本にある会議への意識や考え方がプロセスとなります。このプロセスの部分に働きかけることで、表に出る行動やその内容を変え、組織を変えていくというのが、組織開発におけるプロセスへの働きかけです(図2)。

図2:コンテントとプロセスの氷山図

図2:コンテントとプロセスの氷山図

ここまで述べてきたことを踏まえると、組織開発は短期的にさっとできることではありません。社会の環境意識が徐々に高まり、ごみの分別やリサイクルが動き出したり、エコバッグを利用する人が増えたりしてきたように、組織開発による組織の変化は長期的なものです。その中では、組織構造や戦略といったハード部分への働きかけが行われることもあります。また、組織メンバーやメンバー間のプロセスが変わるという点では、学びや気付きといったことも重要になってきます。

いずれにせよ、組織開発とは、組織のメンバーである当事者自身の意識や考え方、あるいは姿勢を変えていき、組織をより良い方向へと変えていこうとする一連の活動であるということができます。

いかがでしたか? 今回は、組織開発の定義、組織変革との違いを紹介しました。次回は、組織開発の歴史を取り上げます。お楽しみに!