光の偏光:光学の基礎知識6

更新日:2021年9月8日(初回投稿)
著者:筑波大学 名誉教授 青木 貞雄

前回は、光の回折(かいせつ)を解説しました。今回は最終回です。光の偏光を取り上げます。これまで述べてきた光波は、光の振動方向、すなわち、電場ベクトルの向きによって光の変位が影響を受けない場合を扱ってきました。光の振動方向に依存しない光波は、変位をスカラーとして扱うことができます。今回は、光の変位が振動方向に依存する偏光について、その基本的な性質と結晶内での伝播(でんぱ)現象について述べます。偏光の性質は、光の位相制御に非常に重要な役割を果たし、最近では画像表示にも利用されています。

1. さまざまな偏光

さまざまな種類が存在する偏光のうち、ここでは、真空中を伝播する平面波と、等方性媒質中の光の偏光について説明します。

・真空中を伝播する平面波

光が電場と磁場の振動によって空間を伝播する電磁波の一種であることは、本連載の第1回で述べました。光の3次元的な伝播の様子を表現するために、図1に示すように、真空中の直交座標系0-xyzのz軸に沿って伝播する平面波の電場ベクトルと磁場ベクトルを定義します。

図1:電磁波の電場と磁場

図1:電磁波の電場と磁場

電場ベクトルE(r,t)と磁場ベクトルH(r,t)は、以下のように表すことができます。

電場ベクトルE(r,t):E(r,t)=(E,0,0)cos{k(z-ct)+Δ}
磁場ベクトルH(r,t):H(r,t)=(0,H,0)cos{k(z-ct)+Δ}

ここで、kは波数、cは光速、Δは初期位相とし、電場と磁場の位相は等しいことに注意します。さらに、電場ベクトルの大きさEと磁場ベクトルの大きさHの間には、以下の関係があることを前提とします。

ここで、ε0は真空中の誘電率、μ0は真空中の透磁率です。第1回でも述べたように、光学で取り扱う媒質は、ほとんどの場合、電場の性質が重要な働きをするので、通常、電場の振動する面のみに注目し、その振動面(この場合0-xz面)を偏光面と呼びます。特に、上のような式で表される平面波を直線偏光と呼びます。

・等方性媒質中の光の偏光

真空中を含め、一般に気体や液体、固体のガラスやプラスチックなどは、光の進行方向によって屈折率の違いがない等方性の媒質です。このような媒質中を伝播する光波の偏光について考えてみましょう。

z軸に沿って伝播している光波のx、y成分の伝播速度を

vx=vy=v=c/n

とします。ただし、nは媒質の屈折率です。z=zにおける電場の変位を

E(z,t)=(Ex(z,t), Ey(z,t))

とすると

Ex(z,t)=Axcos(k(nz-ct))
Ey(z,t)=Aycos(k(nz-ct)+δ)

と表せます。ここで、δは電場のx成分とy成分の初期位相の差で、y成分がx成分に比べ位相がδだけずれている(遅れている)ことを示しています。これらの式から、z=0での合成電場を求めてみます。

Ex=Axcos(kct)
Ey=Aycos(kct-δ)=Ay(coskctcosδ+sinkctsinδ)

と変形できるので、時間に関する項を消去すると、以下が求められます。

上の二次形式は、一般に楕円(だえん)を表すことが知られています。ここで、

δ=±π/2, ±3/2π, ±5/2π.........

のとき、上の式は

となり、電場成分の軌跡は楕円の標準形を表しています。

いくつかの特別な値のδについて、合成電場の例を見てみましょう。合成電場の図は、観測者がz軸の正の位置から原点方向を見たとして描きます。

例1. δ=π のとき

合成電場は原点を通る直線になります。図2にt=0からt=π/kcまでの半周期分を示します。明らかに直線偏光になることが分かります。

図2:直線偏光(δ=π)

図2:直線偏光(δ=π)

例2. δ=π/2 のとき

合成電場は楕円になります。図3からも明らかなように、時間の経過とともに反時計回りに電場が変化するので、左回り楕円偏光になります。同様にして、δ=-π/2のとき、右回り楕円偏光になることが示されます。

図3:左回り楕円偏光(δ=π/2)

図3:左回り楕円偏光(δ=π/2)

例3. Ax=Ay=A、δ=π/2 のとき
左回り円偏光、δ=-π/2のとき右回り円偏光になることは、楕円偏光の説明から容易に分かります。図4に、光の伝播と右回り円偏光の生成(z=zにおける電場ベクトルの時間経過の軌跡)の様子を示します。z=zに置かれたスクリーンに、合成電場ベクトルが時間の経過を追って投影されていくと考えます。

図4:右回り円偏光(A<sub>x</sub>=A<sub>y</sub>=A、δ=-π/2)

図4:右回り円偏光(Ax=Ay=A、δ=-π/2)

2. 直線偏光の生成

直線偏光とは、電場(および磁場)の振動方向が一定である偏光をいいます。ここでは、ポラロイド偏光子と直線偏光の偏光子透過強度について説明します。

・ポラロイド偏光子

無偏光の光から偏光を分離したり、光の偏光状態を検出したりする光学素子を偏光子といいます。比較的手軽に取り扱える代表的な偏光子に、ポラロイドがあります。ポラロイドは、ポリビニールアルコールから人工的に作られた偏光子です。長い鎖状炭化水素分子から成るポリビニールアルコールシートを一方向に引き伸ばし、分子を整列させ、ヨードを含む溶液に浸すことで、長い鎖状分子にヨードを付着させます。このような状態になると、引き伸ばした方向に電子が自由に動くことができるようになります。

無偏光の光が入射すると、電子はさまざまな方向に振動を始めます。鎖に沿って振動する入射光は、振動方向に電子の運動を誘起します。これらの電子は伝導電子として振る舞い、一部は原子と衝突してジュール熱としてエネルギーを失い、また一部は光を後方に反射します。

一方、鎖に対して直角の方向に振動する入射光は、電子の運動をほとんど誘起しないで、そのまま透過します。このようにして、ポラロイドは一方向の直線偏光を生成します。比較的薄く、切断も容易なので非常に使いやすく、偏光を利用した立体視用眼鏡の材料としてもよく用いられます。

・直線偏光の偏光子透過強度

直線偏光を偏光子に入射させると、その振動方向が変わるに従って透過光強度が変化します。図5に示すように、偏光子の透過軸を0-yに選び、直線偏光(電場ベクトルの振幅E0)がy軸とθの角度で入射したとすると、電場ベクトルのy成分はEy=E0cosθとなるので、透過光強度は

I=E02cos2θ

となります。これをマリュスの法則といいます。

図5:マリュスの法則

図5:マリュスの法則

この法則を用いれば、任意の直線偏光を偏光子で受け、それを回転させ、透過光強度を測定することで、元の直線偏光の方位が分かります。このような目的で使われる偏光子を、特に検光子と呼びます。

3. 異方性媒質(結晶)中の光の偏光

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4. 偏光の応用

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