光の回折:光学の基礎知識5

更新日:2021年9月2日(初回投稿)
著者:筑波大学 名誉教授 青木 貞雄

前回は、光の干渉を解説しました。今回は、光の回折(かいせつ)について学びます。干渉性のよいレーザを、幅の狭いスリットに入射させると光が広がります。その広がり方は、スリットの幅が狭くなるにつれて大きくなります。同じように、レーザを細かな網の目状の物体に当てると、広がりのある複雑な透過パターンが見られます。このような光の直進を妨げる微小物体や開口による光の広がりを、回折と呼びます。

1. ホイヘンス・フレネルの考え方

ホイヘンス・フレネルの原理とは、波動の伝播問題(遠方場の極限や近傍場の回折)を解析する方法です。1678年にオランダの物理学者クリスティアーン・ホイヘンスが元となるホイヘンスの原理を発見し、1836年フランスの物理学者オーギュスタン・ジャン・フレネルがこれに修正を加えた原理です。

本連載の第1回で、ピンホールカメラを例に、光の直進性を説明しました。その際、ピンホールの大きさが小さすぎると、像がボケてしまうことを述べました。これは、光が回折によって広がるために生じる現象です。物体の大きさが光の波長に近付くにつれて、回折現象は顕著に起こります。

簡単な例として、単色平面波がスリットに入射して広がる様子を見てみましょう。ホイヘンスは、光源からの2次波(素元波、球面波)が連続して発生しながら進むことで、光は伝播すると仮定しました。スリットに入射する直前まで光は遮られる物がないため、そのまま平行に進みます。スリット面内に入ると、中心部はそのまま進みます。しかし、スリットのエッジ付近は、障害物として影響を受けます。すなわち、面内の2次波が新たな球面波の光源(多数)として広がりながら進みます(図1)。

図1:ホイヘンス・フレネルの原理

図1:ホイヘンス・フレネルの原理

スリットからある程度離れた点Pには、スリット面内の多数の2次波光源からの光が到達します。それぞれの光の光学的距離は異なるため、点Pの位置(x)が変わると、重ね合わせた光の強度も大きく変化します(図1の強度分布)。この大きな強度変化について、ホイヘンスの考え方だけでは説明ができませんでした。そこでフレネルは、重ね合わせの際、光の干渉効果があると考え、この強度変化を説明しました。その結果、干渉性のよい単色光の回折現象を、半定量的に解くことが可能になりました。以上の考え方を、ホイヘンス・フレネルの原理と呼びます。

・回折の一般式

図2に示すように、点光源P0から出た光は球面波Σとなって伝播します。

図2:フレネルの回折原理

図2:フレネルの回折原理

このとき、点P0から距離r0の点Qにおける光の変位U(Q)は、複素数表示で以下のように表すことができます。

ここでAは、単位の半径を持つときの光波の振幅とします。

波面Σからは、ホイヘンスの原理に従って2次波が出ます。ここでは、時間平均を想定し、時間に関する変数を省略して話を進めます。観測点P(x,y,z)における、波面Σ上の微小面積dσからの2次波の寄与は、以下のように表せます。

ここでK(χ)は、波面Σの法線とQP(=r)との成す角χによって変わる傾斜係数(Inclination Factor)とし、χ=0で最大、χ=π/2で0と考えます。P点での光の変位は、Σ面上の全ての波源からの寄与を考えると、以下のような積分の式となります。

2. フラウンホーファー回折とフレネル回折

フラウンホーファー回折とは、回折物体から観測点までの距離(R)と波長(λ)の積(Rλ)が物体の大きさの2乗に比べ十分に大きな回折をいいます。一方、フレネル回折とは、フラウンホーファーよりも有限遠(物体の近く)に位置する回折をいいます。
前章で述べた回折の積分式を、もう少し簡単な形にしてみましょう。図3のような光軸を含む開口Sと観測面を考え、開口面から観測面までの距離をRとします。これまでの説明では、光源と開口までの距離を有限としてきました。ここでは、入射光は平面波とし、開口に垂直に入射するものとします。

図3:平面開口による回折場の座標系

図3:平面開口による回折場の座標系

球面波に対応する入射光の式は、U(z)=Aeikzと表せます。さらに、開口が十分に小さいという条件から、開口内の任意の点Q(ξ,η)と観測点P(x,y,z)を結ぶ直線と、開口に垂直に立てた法線との成す角δは、開口内で近似的に一定と見なします。すなわち、開口内の任意の点と観測点を結ぶ直線と法線との関係はχ=δ(一定)と近似します。さらに、観測点Pから開口の座標原点Oまでの距離をr'とすると、1/r≈1/r'と近似できます。

回折積分の式は、z=0と置くことで、次のように表せます。

開口内の点Qから観測点Pまでの距離rは、図3より、

となり、級数展開すると、

と書けます。これをU(P)の式に代入すると

となります。ここでΔ(ξ,η)は、

です。さらに、回折光の方向余弦に関して、p=x/r'、q=y/r'とし、ξ,ηの2次の項まで考えると、以下のように表せます。

2次の項が無視できる場合、すなわち、以下の条件が満たされるとき、

言い換えると、開口から観測点までの距離に関して、以下が成り立つとき、

Δ(ξ,η)は、次のようになります。

このように、1次項のみで近似できる場合をフラウンホーファー回折と呼び、2次項まで含む場合をフレネル回折と呼びます。最終的に、フラウンホーファー回折は以下のように表せます。

ここで、Cは定数です。この式から、フラウンホーファー回折は、開口の透過率分布(複素数表現を含む)をフーリエ変換して求められることが分かります。

3. フラウンホーファー回折の具体的な例

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4. 回折理論による望遠鏡と顕微鏡の分解能

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