前回は、PVD(物理蒸着)およびCVD(化学蒸着)による硬質膜の生成技術を紹介しました。今回は、硬質膜の開発動向および特性を解説します。
1. 硬質膜の開発動向
硬質膜に対して最も期待されている適用目的は、耐摩耗性および摺動特性の向上です。切削工具をはじめ機械部品や自動車部品に適用されています。また、耐食性や耐熱性、耐反応性の向上も期待できるため、使用条件の過酷な金型や自動車用エンジン部品にまで、適用範囲は広がっています。
PVD(物理蒸着:Physical Vapor Deposition)およびCVD(化学蒸着:Chemical Vapor Deposition)による硬質膜の受託加工の需要は、工具が大半を占めています。その理由は、PVDとCVDが、切削工具や金型を使用している加工業界の技術課題と深く関わっているためです(図1)。
加工技術を取り巻く技術課題は、超精密加工、超高速加工、および難加工材加工の容易化です。地球環境問題や省資源化対策に関しても、セミドライ加工から完全ドライ加工への実現が検討されています。
これらの課題解決には、従来の工具の摩擦摩耗特性を改善する必要があり、PVDまたはCVDによる硬質膜コーティングが期待されています。日本で最初に工業的に応用された硬質膜は、窒化チタン TiN膜です。窒化チタンTiNは硬質で、金色なので、実用化された当初は傷が付かない金色めっきとして、装飾品、時計の外側のケースやバンド、眼鏡フレームなどに採用されました。
新しい硬質膜の開発目的は、従来の窒化チタンTiN膜に比べて、無潤滑環境下における摩擦係数を低減できること、耐高温酸化性が優れていることなどが挙げられます(図2)。
低摩擦係数皮膜としては、ダイヤモンド状カーボン膜(DLC:Diamond-Like Carbon)が、耐食性や低相手攻撃性皮膜としては、窒化クロムCrN膜が開発されています。現在、硬質膜の需要は多様化し、将来的にも適用分野は広がるものと思われます。
2. 硬質膜の摺動特性
硬質薄膜の摩擦係数と摩耗量を同時に算出できる試験機として、ボールオンディスク摩擦摩耗試験機がよく利用されています(図3)。固定した相手ボールを一定荷重で押し付けた試験片を回転させ、そのときの摩擦力から摩擦係数の変化を測定します。試験後の摩耗痕から摩耗量を測定することもできます。
一例として、アーク蒸発法によって生成した窒化クロムCrN膜について、さまざまな摩擦環境下で摩擦摩耗試験を行った際の、摩擦距離に伴う摩擦係数の推移を示します(図4)。
このときの相手材は、凝着しやすいステンレス鋼(SUS304)です。相手材に関係なく無潤滑環境下では摩擦係数は高くなります。しかし、摩擦環境が液体環境(パラフィン油、水溶性切削油)下では、摩擦係数と同時に、相手材の摩耗量も極端に低減します。
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3. 硬質膜の高温酸化特性
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