機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し:金属熱処理の基礎知識4

金属熱処理の基礎知識1 新たな特性を引き出す熱処理の種類

更新日:2016年4月8日(初回投稿)
著者:仁平技術士事務所 所長 仁平 宣弘

前回は、鉄鋼の代表的な熱処理法である「焼なまし」と「焼ならし」について解説しました。今回取り上げるのは、機械構造用鋼の「焼入れ」と「焼戻し」です。

機械構造用鋼は、一般機械、産業用機械、輸送用機械などのボルトやシャフト、歯車といった構造用部品に用いられます。これらの部品を製造する場合、切削加工や塑性加工などによって個々の部品形状にした後、焼入れと焼戻しを主とした熱処理を施します。

これにより、機械構造用鋼に引張強さやじん性などの機械的性質が付与されます。このように、焼入れ・焼戻しは、機械構造用鋼に求められる機械的性質を調整するために行われます。機械構造用鋼の焼入れ・焼戻しは「調質」と呼ばれます。

1. 焼入れ・焼戻しした機械構造用鋼の機械的性質

機械構造用炭素鋼と機械構造用合金鋼の焼入れ・焼戻し後の硬さおよび機械的性質の参考データを示します(表1)。いずれのデータも、新JISでは取り上げられていないため、旧JISの解説書から引用しています。直径25mmの試験片を焼入れ・焼戻しした場合の測定値です。なお引張試験片は4号試験片によって、シャルピー試験はUノッチ試験片によって測定しています。

表1:焼入れ・焼戻しした各種機械構造用鋼の機械的性質
〔炭素鋼はJIS G 4051(2005)、合金鋼はJIS G 4102~4106(1979)の解説付表による〕
鋼種 焼入れ 焼戻し 引張強さ(MPa) 降伏点 (MPa) 伸び (%) 絞り (%) 衝撃値 (J/cm2) 硬さ (HB)
温度 (℃) 冷却 温度 (℃) 冷却
S35C 840~890 水冷 550~650 急冷 569以上 392以上 22以上 55以上 98以上 167~235
S45C 820~870 686以上 490以上 17以上 45以上 78以上 201~269
S55C 800~850 785以上 588以上 14以上 35以上 59以上 229~285
SMn443 830~880 油冷 785以上 637以上 17以上 45以上 78以上 229~302
SMnC443 932以上 785以上 13以上 40以上 49以上 269~321
SCr440 520~620 932以上 785以上 13以上 45以上 59以上 269~331
SCM440 530~630 981以上 834以上 12以上 45以上 59以上 285~352
SNCM439 820~870 580~680 981以上 883以上 16以上 45以上 69以上 293~352
SNC631 820~880 550~650 834以上 686以上 18以上 50以上 118以上 248~302

*直径25mmの試験片を焼入焼戻ししたもので、引張試験(4号試験片)およびシャルピー衝撃試験(Uノッチ試験片)によるものである。

炭素鋼の硬さ、引張強さおよび降伏点は、炭素量が多いものほど高い値を示しています。逆に炭素量が少ないものほど、伸び、絞りおよび衝撃値は高い値が得られ、延性やじん性では有利であることが分かります。さらに炭素鋼と合金鋼との間には、機械的性質の差が歴然と認められます。合金鋼は、硬さでは炭素鋼とほぼ同じか、やや上回る程度ですが、延性やじん性においては圧倒的に有利です。

合金鋼に含まれる合金元素の種類も、機械的性質に影響を及ぼします。例えば、強じん性が要求される機械構造用部品で広く用いられるSCM440とSNCM439(共に「高張力鋼」に分類される)の機械的性質を見てみましょう。この2種類の鋼種に対し、ほぼ同一の条件で焼入れ・焼戻しを施した場合、得られる硬さと引張強さは同程度です。

しかし、伸びや衝撃値はSNCM439のほうが高い値を示し、強じん性においては、SNCM439はSCM440よりも有利であることが分かります。これはSNCM439に含まれる合金元素ニッケルNiの効果です。強度だけでなく、じん性も重視するのであれば、SNCM439は機械構造用合金鋼の中で最善の鋼種といえます。

2. 焼入れ・焼戻しで得られる金属組織

機械構造用鋼の特性を最大限引き出すには、焼入れによって金属組織を完全にマルテンサイト化するのが理想です。そのためには、標準的な焼入温度をA3変態点よりも30~50℃高く設定します(図1)。

図1:鉄-炭素系平衡状態図で見る標準焼入温度の範囲

図1:鉄-炭素系平衡状態図で見る標準焼入温度の範囲

代表的な機械構造用鋼であるS45CやSCM440の標準的な焼入温度は820~870℃です。例えば、S45Cを850℃から焼入れした場合に得られるマルテンサイト単相は、理想的な焼入組織です。一方、A3変態点とA1変態点の中間の温度(750℃)から焼入れした場合は、マルテンサイトとフェライトとの混合組織になります(図2)。

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図2:焼入れ開始温度が異なるS45Cの焼入組織

機械構造用鋼は、焼入れ後500~650℃で焼戻しすることで硬さを調整し、これによりじん性が付与されます。このように高温で焼戻したときの金属組織は、通称「ソルバイト」といい、フェライト生地の中に多量の微細セメンタイトFe3Cが析出しています(図3)。ソルバイトはじん性に富み、機械構造用鋼の標準的な調質組織として知られています。なお最近では、焼戻組織を総称して「焼戻しマルテンサイト」ということが多いようです。

図3:850℃から焼入れ後に550℃で焼戻ししたS45Cの顕微鏡組織

図3:850℃から焼入れ後に550℃で焼戻ししたS45Cの顕微鏡組織

3. 機械構造用鋼の焼入性と硬さ

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4. 機械構造用鋼の硬さと機械的性質

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