マーチャンダイジングとサプライチェーン・マネジメント:マーチャンダイジングの基礎知識3

マーチャンダイジングの基礎知識

更新日:2023年1月19日(初回投稿)
著者:神戸大学 大学院 経営学研究科 経営学部 教授 南 知惠子

前回は、IKEAの店舗を例に、ビジュアル・マーチャンダイジングについて紹介しました。今回は、マーチャンダイジングとサプライチェーン・マネジメントについて解説します。

1. 適材適所を実現するサプライチェーン・マネジメント

本連載の第1回で、マーチャンダイジングとは、商品の企画、仕入れ、品ぞろえ、陳列、プロモーションに関わる商品政策であることを説明しました。商品政策を遂行するには、仕入れや配送における物流を含めた供給体制が構築されている必要があります。消費者や顧客企業が需要する商品を、適材適所において供給しようとする仕組みを、サプライチェーン・マネジメントと呼びます(図1)。この仕組みは情報通信技術(ICT)の進展につれ、商品の管理手法として発展してきました。

図1:サプライチェーン・マネジメント
図1:サプライチェーン・マネジメント

マーケティング管理において、商品の場所や流通に関する消費者へのサービス提供の水準に関わることはロジスティクスと呼ばれ、流通や倉庫保管の活動がこれに当たります。頻繁に商品を配送すれば、消費者へのサービス提供水準は上がるものの、流通コストも上がります。また、商品をできるだけ倉庫に保管しておけば、消費者へのサービス水準は上がるものの、倉庫での保管コストも上がります。つまり、輸送と保管のコストがトレードオフになることを考慮し、商品の受発注や処理を行うことが重要になります。

具体的には、マーチャンダイジングの活動として、商品を仕入れて、顧客の需要に沿った品ぞろえをしようとしても、顧客が需要するタイミングで商品が入荷して陳列できなければ販売機会を失ってしまいます。また、来るべき需要のタイミングに備えて大量に商品を仕入れると、商品を在庫として持っておく費用がかかり、見込んだほど商品が売れないと、在庫を抱えることになります。

製造企業にとっても、小売業や卸売業者から急に商品の追加発注を受けても、製造するのに時間がかかり、タイミングよく商品を納入できるかどうかは不確実になります。原材料を調達し、製造、販売するには、それぞれに時間がかかります。これらの活動に要する時間のことを、リードタイム(所要時間)といいます。発注した側から見ると、調達や製造が完了するまでの待ち時間ということになります。

そこで、小売業、卸売業、メーカーの全てが、市場の需要予測の精度を向上させ、商品の受注や発注の待ち時間をコントロールできれば、売り損じや、売り残りのリスクを減らすことができます。

多くの小売店舗には、POS(Point of Sales:販売時点情報管理)というシステムが導入されています(図2)。これにより、店舗で商品ごとの販売情報、つまりどのような商品が、いつどれぐらい販売されたかという情報を収集することができます。この販売情報を、小売業と卸売業者、メーカーとが共有し、販売動向を分析の上、在庫補充や配送計画を立てれば、全体として最適な供給の仕組みを作ることができます。

図2:Point of Salesの例
図2:Point of Salesの例

2. ファスト・ファッションのマーチャンダイジング

変動の激しい市場動向に対して、マーチャンダイジングとサプライチェーン・マネジメントとを最適化する仕組みを持っているのが、ファスト・ファッションと呼ばれるファッション・アパレルの業界です。

ファッションとは流行を意味し、消費者が一過的に需要する流行の時期を逃すと、その商品の市場が消失してしまうというリスクがあります。流行のピーク時に、生産計画と商品入荷のタイミングを合わせ、できるだけ多く販売したいと考えていても、気温の変化、流行現象の短さ、予想外の好調な売れ行きなどにより、需要予測が難しいという問題があります。

特にアパレル業界では、商品の企画や素材の仕入れを、店頭に完成品を陳列する1年も前から開始するため、需要変動に合わないものをマークダウン(値下げ)して販売するか、在庫を廃棄するしかないという状況となります。

ファスト・ファッションのビジネスモデルは、市場情報を入手してから、生産リードタイムと販売リードタイムを短縮することで、需要に関する予測ではなく、実需に合わせて精度を上げ、需要に商品の供給タイミングと数量を合わせていく仕組みとなります(図3)。実際に店頭で売れている品番、デザインや素材、色を知ることができ、それらを短時間に追加生産して店頭に配荷すれば、売り損じや売れ残りのリスクが極限まで少なくなります。

図3:ファスト・ファッションにおける市場情報とマーチャンダイジング
図3:ファスト・ファッションにおける市場情報とマーチャンダイジング

3. サステナビリティ志向のサプライチェーン・マネジメント

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