剛体とリンク機構の力学:機械力学の基礎知識6

機械力学の基礎知識

更新日:2022年3月22日(初回投稿)
著者:広島大学 先進理工系科学研究科 機械力学研究室 教授 菊植 亮

前回は、連続体の運動と振動を紹介しました。今回は最終回です。硬くて変形しない物体の運動と、ロボットのように硬いリンクが関節を介してつながった機構について、運動の表し方を解説します。

1. 剛体の運動

本連載の第1回~第4回では、主に質点を扱い、第5回では柔軟体を扱いました。今回は、ある大きさ(体積)を持つ硬い物体である「剛体」を扱います。剛体という言葉は、硬くて変形しない物体という意味で捉えれば、「柔軟体」の対義語です。一方で、点ではなく、大きさを持った質量の塊という意味で捉えれば、「質点」の対義語です。ここでは主に、質点の対義語としての意味で剛体を考えます。

図1に、質点と剛体の違いを示します。質点の運動は、質点の位置(3次元ベクトル)の時間変化として表せます。一方で剛体の運動は、その剛体の代表点(通常は重心)の位置と、その剛体の姿勢(向き)の時間変化として表します。剛体の姿勢は、x軸周りの回転角、y軸周りの回転角、およびz軸周りの回転角の3つの角度で表せます(本当はもうちょっと複雑です。簡単にいうとこうなります)。従って、剛体の運動は、位置の3次元と姿勢の3次元の合計6次元で考える必要があります。

図1:質点と剛体の違い

図1:質点と剛体の違い

この6次元という数字は重要です。例えば、多くの産業用ロボットは6つの関節を持ちます。手先を任意の位置と姿勢に持っていって作業をするには、6つの座標値を定める必要があるためです。

剛体の重心位置の変化は、重心位置ベクトルの時間微分である重心速度ベクトルで表すことができます。一方で、剛体の姿勢の変化は、角速度ベクトルという3次元ベクトルで表します。角速度ベクトルは3次元空間での矢印で、その矢印を軸として、右ねじの向きに回転するような回転運動を表したものです(図2)。ベクトルの向きが回転運動の軸を表し、ベクトルの大きさが回転運動の速さを表します。ここで、ベクトルの矢印の方向に、何らかの運動が生じているようにイメージしてしまいがちです。しかし、角速度ベクトルはそういうものではないため、注意が必要です。

図2:角速度ベクトルと回転運動

図2:角速度ベクトルと回転運動

剛体の運動を表す運動方程式を考えてみましょう。剛体の質量をm、剛体の重心の速度ベクトルをv、その剛体に加わる力をfとすると、その時間変化(つまり加速度ベクトル)vは下記のように決まります。

これは、本連載でこれまで見てきた運動方程式そのものです。一方で、剛体の角速度ベクトルωの時間変化(つまり角加速度ベクトル)ωは下記のように決まります。

ここで、Jは慣性行列というもので、その剛体の各方向の慣性モーメントの情報を含んだ3×3行列です。慣性行列Jは慣性テンソルとも呼ばれ、物体の姿勢によって刻一刻と時間変化します。また、Nは物体に加わる重心周りのモーメントベクトル(トルクベクトル)です。

式1は並進運動についての運動方程式で、ニュートンの運動方程式と呼ばれます。一方で、式2は回転運動についての運動方程式で、オイラーの運動方程式と呼ばれます。これらは両方とも、「慣性(質量)っぽいもの」×「加速度っぽいもの」=「力っぽいもの」という構造を持ちます。ただし、回転運動に関しては、余分な項「×」が付いていることに注意が必要です。この「×」の項の詳細はここでは述べないものの、慣性テンソルJが物体の姿勢変化(回転)とともに時間変化することに由来します。

より具体的に理解するために、図3の左図のような状況を考えましょう。質量がmで重心周りの慣性行列がJの剛体に、力faと力fbが加わっています。重心から力faと、力fbの作用点へのベクトルをそれぞれrarbとします。

図3:左右の図では角加速度は異なります。しかし重心の加速度は同じです。

図3:左右の図では角加速度は異なります。しかし重心の加速度は同じです。

その場合、この物体の並進運動と回転運動の運動方程式はそれぞれ下記のようになります。

ここで重要なのは、式3(並進運動の運動方程式)は力の作用点位置(rarb)に依存しないので、剛体の重心の運動は力が加わる場所に影響されないということです。図3の右図のように、左図から力fbの作用点位置rbのみを変更したものを考えてみましょう。一見したところ、左図と右図では全く違う運動が生じるように見えます。しかし、両者の間で重心の加速度には相違がなく、重心周りの回転運動にのみ違いが生じます。

2. 剛体リンク系の運動

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3. ラグランジュ法による運動方程式の導出

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