マーケティングの基本:マーケティング戦略の基礎知識1

マーケティング戦略の基礎知識

更新日:2021年10月27日(初回投稿)
著者:若井テクノロジオフィス代表 第一工業大学 元教授 若井 一顕

2019年頃に始まり、世界中を脅威の中に追い込んだ新型コロナウィルス感染症の影響は、人に対する健康不安とともに、経済・ビジネスに大きな衝撃を与えています。飲食業や観劇、交通移動、旅行関連業などの商売は、感染に対する宣言が発出されて多くの企業が打撃を受けていると報道されています。また、コロナ禍での在宅勤務の奨励や住宅事情の変化、企業オフィスの縮小化や移転、そして企業のデジタル化の推進とデジタル庁の設置などに向けて、国家戦略も大きく展開しています。その反面、GAFAなどに代表される、インターネットをベースにした情報ビジネスは好調です。このようなコロナ禍で、ビジネスの展開は2極化しています。本連載では6回にわたり、マーケティング論について解説します。第1回の今回は、マーケティングの基本を紹介します。

1. マーケティングの必要性と変遷

マーケティングとは、その研究の第一人者であるフィリップ・コトラーにより、「価値を創造し、提供し、他の人々と交換することを通じて、個人やグループが必要(ニーズ)とし欲求(ウォンツ)するものを満たす社会的、経営的過程である」と定義されています。売り手と買い手がいて、買い手は貨幣的な価値として対価を払い、売り手は満足という価値を提供する行為といった方が分かりやすいでしょうか。マーケティングは、時代によって役割が変化しています。ここでマーケティングの必要性の変遷について説明します。

・作れば売れる時代…マーケティングは不要

かつての日本は、戦後しばらくは、ものが不足していたこともあり、大量に生産し流通させることが求められていました。とにかく生産して、販売すれば売れるという流れになっていたため、マーケティングの考え方は存在していませんでした。これは、数年前の高度経済成長期頃まで続きました。

・競争激化、売上減少、成長鈍化…マーケティングは重要

ものが一通り行きわたり、需要が一段落すると、売上高、利益がピークに達し、その後成長が鈍化していきます。また、参入企業による価格競争などが発生し利益率の低下などを招きます。そのため、今度は積極的に売り込むことで生き残りをかけていく必要がでてきます。そこで、製品の機能面や価格面だけでなく、他社との差別化のためにブランドイメージを強化する動きが生じ、マーケティングが徐々に重要視されていきました。

・今日のマーケティングの役割は、顧客と企業の橋渡し的存在

これまでの、企業側が主導でものを作り販売するという流れが、顧客のニーズを把握した上で製品を企画、開発するという流れに変化してきました。スマートフォンの普及により、SNSやマーケティングオートメーションを利用し、顧客が購入に至るまでのデータをより詳細に分析し、マーケティングの施策を構築することも可能になってきています。

コロナ禍の時代、旅行業、交通機関、ホテル業などのサービス業に加えて、飲食業でも苦汁をなめている様子がマスコミで報道されています。営業する時間の制限、3密を避けるための多くの工夫が求められます。最近では、店内にワークスペースを設置する飲食店なども増えてきています(図1)。これは、テレワークのためのワークスペースが欲しいというニーズに合わせ、店舗側が飲食もできるワークスペースを提供したということにあります。まさしく、今日のマーケティングの役割である、顧客のニーズを把握した上での企業側のサービスになります。このようにニューノーマルに合わせて、多様化したマーケティングが必要とされていることが分かります。

図1:レストランでのテレワーク(イメージ)

図1:レストランでのテレワーク(イメージ)

2. 企業におけるマーケティングの位置付けと変遷

企業における担当部署を、製造・財務・人事、そしてマーケティングに大きく分けてみると、近年ではマーケティングの比重が高まっています。マーケティングは、「顧客との最前線のセクション」としての認識が強くなってきています。コトラーの資料を引用すると、企業でのマーケティングの位置付けと変遷が分かります(図2)。

図2:企業におけるマーケティングの位置付けと変遷

図2:企業におけるマーケティングの位置付けと変遷

マーケティングについては、昔から多くの書籍や教育資料にも解説がなされており、古典的なマーケティング理論の継承はもちろん、近年のデジタル化による変容もあります。そして、マーケティングは企業の営業部門が独占的に担当するだけではなく、企業の全体的な活動として顧客重視の視点が高まっています。企業は、生産品やサービスを市場に出して顧客に提供します。その対価としての収益・利益を申し受けて、企業の拡張やステークホルダ(直接・間接的な利害関係)に還元をすることが求められます。企業人として、一人ひとりがマーケティングのセンスを持つことが求められる時代でもあります。

3. マーケティング戦略と戦略的マーケティング

マーケティング戦略を全社戦略として扱うのが、戦略的マーケティングです。戦略的マーケティング志向の背景には、企業の限られた経営資源を有効的に配分することが重要であるという考え方があります。図3は、マーケティング戦略と、戦略的マーケティングの違いを領域で示しています。戦略的マーケティングは、理念をもとに、事業ドメイン、全体戦略、事業戦略、機能戦略に展開していく領域です。機能戦略に該当するのがマーケティング戦略の領域になります。

図3:戦略的マーケティングの展開

図3:戦略的マーケティングの展開

戦略的マーケティングの展開における、理念、事業ドメイン、戦略について説明します。

・理念

理念とは、ある物事における「こうあるべき」という根本的な考えを意味するものです。ビジネスにおいては、経営理念や企業理念などがあり、企業の存在意義や使命感を普遍的に表します。

・事業ドメイン

事業ドメインとは、企業が展開する事業領域、または主力事業となる本業のことを指します。

・全体戦略、事業戦略、機能戦略

全体戦略とは、事業の参入・撤退・買収、資金調達など会社全体を動かす戦略です。2つ目の事業戦略は、特定の事業において企画・製造・販売などの各機能を連携させる戦略を表します。3つ目の機能戦略は、従来の企画・製造・販売などの特定機能の個別戦略です。

従来の機能戦略にあるマーケティング戦略とは、市場情報を集め、製品企画から販売まで事業性の面から計画を立て、それを実行するという一連のプロセスのことです(図4)。マーケティングの戦略プロセスは、マーケティング環境分析、標的市場の選定、マーケティングミックスの最適化の大きく3つに分類できます。

図4:マーケティング戦略策定のプロセス

図4:マーケティング戦略策定のプロセス

・マーケティング環境分析

マーケティング環境分析とは、内部・外部の経営環境を分析することです。正しい状況を把握し、必要な情報を得て、分析をすることによって、戦略課題を抽出することが可能となります。

・標的市場の選定

標的市場の選定とは、さまざまな種類の消費者や競合他社が存在するマーケットの中から、市場を分類(セグメンテーション)し、自社が勝負できる市場に的を絞る(ターゲティング)ことです。

・マーケティングミックスの最適化

マーケティングミックスの最適化とは、マーケティング戦略の中で、フレームワークやツールを組み合わせて具体的にどのような戦略をとるか、何を実行すべきかを策定し最適化を図ることをいいます。

メーカーは市場の状況を調べ、人々が欲しているものが何であるのかを探り、その調査結果を直接、製品開発・サービスに生かします。これにより製品は人々に受け入れられ、実際によく売れることにもつながります。実は、よく売れる商品は、マーケティングの成果であるともいえるのです。 マーケティングで用いられている代表的な市場環境の分析方法として、SWOT分析、PEST分析、ファイブフォース分析に加えて、マーケティングミックス4Pがあります。これらについては、次回で解説します。

いかがでしたか? 今回は、マーケティングの基本について説明しました。次回は、マーケティング分析方法として、PEST分析、SWOT分析、そしてファイブフォーセーズについて紹介します。お楽しみに!

参考文献:
池上重輔、マーケティングの実践教科書、日本能率協会マネジメントセンター、2007年11月
青井倫一、通勤大学MBAマーケティング、総合法令出版、2013年4月
野口智雄、マーケティングの基本、日経新聞出版社、2005年3月
P.コトラー、マーケティング・マネジメント(第7版)、プレジデント社、1996年