海洋プラスチック汚染の現状2:海洋プラスチック汚染の基礎知識4

海洋プラスチック汚染の基礎知識

更新日:2022年2月9日(初回投稿)
著者:九州大学 応用力学研究所 教授 磯辺 篤彦

前回は、世界の海や川で行われている海洋プラスチックごみの調査について、そして、その最前線の様子を解説しました。今回は、引き続き海洋プラスチックごみ、特にマイクロプラスチックの現状と50年後の予測について取り上げます。

1. 海洋マイクロプラスチックの調査

私たちは、2014年から環境省の助成を得て、海鷹丸と神鷹丸(ともに東京海洋大学の練習船)の2隻を運用する体制で、日本沖合のマイクロプラスチック浮遊量調査を実施してきました。2017年からは、この沖合調査に北海道大学、長崎大学、そして鹿児島大学も参加し、調査船5隻体制に拡大されています。これほどの規模で組織立って継続している観測は世界にも例がなく、日本は海洋プラスチック汚染研究では疑いなく先端的といえるでしょう。これらの調査結果は、環境省のウェブサイトで公開され、学術論文の基礎資料として利用されています(参考:Isobe, A. K. Uchida, T. Tokai, and S. Iwasaki, Marine Pollution Bulletin,10, 618-623, 2015)。

さらに、私たちは世界で初めて南極海での浮遊マイクロプラスチック調査を成功させました(参考:Isobe, A. K. Uchiyama-Matsumoto, K. Uchida, and T. Tokai: Marine Pollution Bulletin, 114, 623-626, 2017)。また、南極海から東京に至る太平洋縦断調査も行っています(参考:Isobe. A. et al., Nature Communications, 10, 417, 2019)。

・マイクロプラスチックの採集

マイクロプラスチック採集の方法は、海洋学で伝統的な動物プランクトンや稚仔魚のネット採集を踏襲しています。この採集法では、目合い0.3mm程度の網を海面近くに沈め、船で横方向に曳きつつ、網を通過した海水に含まれる浮遊物をこし取っていきます(図1)。浮遊するマイクロプラスチックは、ほとんどが海水より軽いポリエチレンやポリプロピレンであるため、海面近くに浮遊すると考えられています。もちろん、網の目合いを0.3mmよりも細かくすれば、もっと小さなサイズのマイクロプラスチックが採取できます。しかし、その後の分析工程にも限界があり、この程度の大きさが採取・計測できるマイクロプラスチックの下限です。

図1:船舶によるマイクロプラスチックの曳網調査

図1:船舶によるマイクロプラスチックの曳網調査(東京海洋大学、海鷹丸による南太平洋での調査風景)

このような浮遊マイクロプラスチックの採取や分析の方法は、英語のガイドラインにまとめられ、環境省のウェブサイトで公開されています(参考:Michida, Y. et al., 環境省、Guidelines for Harmonizing Ocean Surface Microplastic Monitoring Methods 、2020)。

このガイドラインに則って採取された世界の海のマイクロプラスチック濃度は、データベースとして統合され、やはり世界に向けて公開されています(参考:Isobe, A. et al., Microplastics & Nanoplastics, 1, 16, 2021)。海洋プラスチック汚染の監視という点で、日本は世界に先駆け、そして大きな貢献をしているといえるでしょう。

2. 海洋マイクロプラスチックの現状

これまでの調査結果によって、日本近海の東アジア海域は、浮遊マイクロプラスチックが特に多い「ホット・スポット」であることが分かってきました。海面近くの海水1m3当たりに浮遊する個数は3.7個を数え、この値は他の海域と比べて一桁多いものです。海表面1km2当たりの浮遊個数に換算しても、世界の海洋における平均値の27倍です(参考:Isobe, A. K. Uchida, T. Tokai, and S. Iwasaki, Marine Pollution Bulletin,101, 618-623, 2015)。

また、生活圏から最も遠い南極海ですら、マイクロプラスチックの浮遊が確認されました(参考:Isobe, A. K. Uchiyama-Matsumoto, K. Uchida, and T. Tokai:Marine Pollution Bulletin, 114, 623-626, 2017)。既に、世界でプラスチック片が浮遊しない海など存在しないのでしょう。先に述べたデータベースから作成した、世界の海に浮遊する8月 のマイクロプラスチックの濃度分布を見ると、東アジア周辺のみならず、太平洋や大西洋の中央、あるいはインド洋や北極海であろうと、高濃度で浮遊するマイクロプラスチックが確認できます(図2)。

図2:世界の海における8月の単位海水体積当たりのマイクロプラスチック浮遊重量

図2:世界の海における8月の単位海水体積当たりのマイクロプラスチック浮遊重量(白抜きは未観測海域)(引用:Isobe, A. et al., Microplastics & Nanoplastics, 1, 16, 2021)

プラスチックが世界に広く出回ってから、現在までに60年ほどが経過しています。おそらく、出回ると同時に道端に捨てられ始めたことでしょう。そして、川から海に運ばれたプラスチックごみは、これまでに破砕を繰り返しつつ、マイクロプラスチックとなって、世界中の海に広がっていったのです。

3. 50年後の海洋マイクロプラスチック

続きは、保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。