前回は、企業会計の歴史をたどりながら、管理会計の必要性を解説しました。今回は、利益とは何かというテーマで、マネジメントの父、ピーター・F・ドラッカーが考える利益などを紹介します。
1. 財務会計上の利益を理解する
前回、財務会計上の利益は、期間収益(売上高)から期間費用を差し引いた差額概念であり、このことが利益概念をヌエのようなつかみどころのないものにしている、と解説しました。最初に、この点について説明します。
利益が差額概念であることに違和感を覚えない読者もいるかと思います。筆者は、拙著「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?(林總、ダイヤモンド社、2006年)」で、謎のコンサルタント安曇捷の口を借りてこう表現しました。
「利益は計算結果であって、手にとって確かめることはできない。このことが、会計を謎にしているのだよ」
期間利益とは、1年間で生成された価値の総額(期間収益)と、同じ期間で消費した価値の総額(期間費用)の差額です(図1)。したがって、差額である期間利益は、その期間に生成された価値の純額です。しかし、この差額が、会計期間における業績を表すには、期間収益と期間費用との間に明確な因果関係が成立している必要があります。ところが、財務会計の計算方式では、明確な因果関係は分かりません。

こう説明すると、会計を学んだ人は「費用収益対応の原則」にのっとって計算するから問題はない、と反論するはずです。なにしろこの原則は、期間計算の大原則であるため、その理屈は会計人の頭に刷り込まれています。
どういう内容かというと、まず当期の期間収益を確定させ、次に因果関係のある期間費用を対応させれば、その期間の事業活動の結果は期間利益として表示できる、というものです。期間収益は売上高、期間費用は販売された商品や製品の原価である売上原価と、その期間の販売管理活動で消費した販売費、および一般管理費です。
このうち、売上原価はその期間に販売された製品や商品そのものの原価であるため、売上高とは個別的に対応しています。しかし、販売費や一般管理費が当期の利益の生成に貢献したかというと、実に曖昧です(図2)。

例えば、広告宣伝費を増やしたからといって、当期利益が増えるとは限りません。また、営業部員を増やしても(給与が増えても)利益が増えるとは限りません。つまり、販売費や一般管理費が期間収益と対応しているとは限らないのです。
2. 期間利益を鵜呑みにしてはいけない理由
ここで、期間利益を鵜呑みにしてはいけない理由を2つ説明します。
まず一つは、財務会計理論では、販売費、および一般管理費は、期間収益に対して期間的に対応しているとして、会計期間における収益と費用との厳密な因果関係の証明を巧みに避けている点です。この点について、ドラッカーはこのような言葉を残しています。
「資源と活動のほとんどは、業績にほとんど貢献しない90%の作業に使われる。・・・利益を生み出す活動に意識的に力を入れないならば、コストは何も生まない活動、単に多忙な活動に向かっていく」(出典:ピーター・F・ドラッカー、創造する経営者、ダイヤモンド社、2007年)
ここでいう業績(Resultの和訳)は期間利益を指し、期間費用の90%は、期間利益を生まない90%の活動から発生すると言い換えられます。赤字の原因は、利益を生まないムダな活動にコストが使われているからです。したがって、経営者は利益を生み出す活動に意識的に力を入れる必要があります。
ところが、損益計算書からは、期間収益と期間費用の因果関係は分かりません(図3)。それなのに、経営者は赤字に転落すると無謀にもコストを削ろうとするわけです。もし削ったコストが、利益を生み出している10%の活動を支えていたとすれば、会社の業績はますます悪化してしまいます。

因果関係が曖昧である以上、期間利益は会社の業績を正確に表しているわけではありません。これが会計を謎にしている第一の理由です。
鵜呑みにしてはいけないもう一つの理由は、期間利益は簡単に操作できるからです。この点についてドラッカーは次の言葉を残しています。
「会計システムのどの部分が信用でき、どの部分が信用できないかは明らかである。われわれが到底歩くべきではない薄氷の上にいることは明らかである。最近、キャッシュフローが重視されるようになったのも、会計学の2年生でさえ損益計算書は化粧できるからである。」(出典:ピーター・F・ドラッカー、ネクスト・ソサエティ、ダイヤモンド社、2007年)
なぜ損益計算書は化粧できるのかというと、財務会計上の利益を期間に区切って計算するからです。例えば、当期の費用を翌期に繰り越し、翌期の収益を当期に繰り上げれば、簡単に期間利益を増やすことができます。このような利益操作は、簿記を少し学べば誰でも簡単に行えます。これが第二の理由です。
3. 利益が出ていても倒産するのはなぜか
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4. ドラッカーが考える利益とは
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