前回は、オンデマンド、シェアリング、自動運転についての課題を解説しました。最終回の今回は、未来のMaaSと題して、さまざまな政策、産業、価値創造への連携を紹介します。地域、都市にとって、MaaSはあくまで手段です。MaaSによって、これまでとは異なる課題解決ができた、新しい価値を見出せた、ということが起こりつつあります。時には、MaaSは縁の下の力持ちや裏方、あるいは触媒や隠し味のような位置付けであるかもしれません。今回は、地域における福祉や医療、教育の分野に存在する深刻な課題と、MaaSの可能性を、価値付与の視点で紹介します。
1. 福祉や医療の場面
医療に関連する移動は、通院のための移動支援をはじめ、デイケアセンター送迎、往診、薬の配達まで、さまざまなところで必要とされ、取り組みが行われています。医療MaaSという言葉も使われています。漫然としていると、当たり前と思ってしまうような移動の場面を、発想を変え、必要な移動を高度な情報通信技術の活用により変革させることで、地域が抱えている課題の解決につなげることができれば、まさにMaaSの事例になるでしょう。
長野県伊那市の医療MaaSプロジェクトは、特に優れた事例といえそうです。往診の代わりに、高度な機器を積み込み、看護師を乗せた車両が、具合の悪い住民の自宅まで行き、遠隔診療を行います(図1)。地域で、参画可能な半数の医療機関が参加し、共同利用している点、やや大きな車両が山間地を走行することを踏まえ、大型二種免許を持つドライバーを有する運輸事業者に運行を委託している点、薬の配達にチャレンジしている点など、さまざまな優れたポイントが満載です。

住民が長い移動時間を要して医療機関に行かずに済み、送迎している家族も時間に余裕ができます。そして、これまでは往診での移動中は休診していた医療機関で、休診時間がなくなり、外来診察の機会増加にもつながるなど、時間の使い方が大きく変わることで、地域に多くの恩恵をもたらしつつあります。
車両の配車については、オンデマンドサービスで用いているAIも駆使したプログラムを活用しており、その点に着目して、MaaSと呼ぶことに問題はありません。しかし、それよりも、さまざまな課題を束ねていく点で、MaaSの基本的な考え方を踏襲しており、MaaSの好例と理解するほうが望ましいです。
一般に、自治体の中では、福祉部局と交通政策部局の間が連携している事例は、決して多くありません。しかしながら、福祉や医療の課題に取り組むときに、両者の連携は必須です。伊那市の事例のように、情報通信技術や車両技術によって、連携が具現化されていくことは可能です。そのようなところに、技術を活用するとよいでしょう。
2. 教育の場面
通学の問題は、少子化とともに、さらに深刻になっています。大都会でも小学校が閉校、あるいは統廃合される例があります。
小中学校の統廃合は、人口減少に伴う、やむを得ない措置です。しかし、これにより、児童、生徒の通学距離が長くなります。徒歩、自転車で何とかなるのか、通学時の交通安全や治安に問題はないかなど、心配なことはたくさんあります。結果的に、少なからずの地域で、家族の自家用車による送迎が、既に当たり前になっているようです。地域によっては、送迎の自家用車による、局所的な道路混雑悪化や、交通事故件数の増加も起きているようです。
このような状況で、スクールバスの運行が期待されます。しかし、登下校や、遠足のとき以外、稼働しない車両や、運転士さんたちの存在は、もったいないという考えもあるかもしれません。そこで、通常の路線バス、オンデマンドサービス車両などを活用して、児童・生徒の登下校を支援する可能性があります。学校の行事や部活の延長、児童・生徒の欠席などを勘案し、効率的なルートで運行することも可能なサービスを組み込むことで、家族の送迎負担を減らすことが可能です。
障害のある児童・生徒の通学の支援でも、技術は活用できます。放課後の塾や、習い事への送迎も同様です。
石川県加賀市 では、塾送迎などを担うサービスもあります。その他にも、山形県山形市では、大学のスクールバスとの連携を含めたMaaSプロジェクトがスタートしています(図2)。

なお、単に便利ということではなく、コストの削減、家族の負担減、通学時の交通事故リスク削減の効果が見込めます。また、車内や停留所での他者とのコミュニケーションが教育の一環になることや、小さいときから公共交通になじむことで、成長してからも、公共交通を選択肢として認知してくれる成人が増えることなど、さまざまな効果を期待できそうです。
3. 価値付与に向けて
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