前回は、日本におけるMaaSの背景として、地域の課題と産業界の動きを紹介しました。今回は、MaaSの現在地と課題について解説します。
1. 国内の課題
2019年度から、国内でも、MaaSに関連するさまざまなプロジェクトや組織が立ち上がりました。筆者が代表理事を務めるJCoMaaS(Japan Consortium for MaaS)もその一つです。より規模が大きく、活動的なものとしては、MONETなどが知られています。
プロジェクトは、経済産業省や国土交通省が支援する実証実験の他に、運輸事業者が他の民間企業と連携して実施しているものもあります。統合的に情報を提供するサービスとしては、例えば、スマートフォンなどで、鉄道の時刻表・運賃・乗換案内・路線図などの情報を提供するジョルダンやNAVITIMEなどがあります(図1)。また、鉄道だけでなく、バスや自転車シェアリングの情報を組み込んだものや、リアルタイムの運行情報を組み込んだものもあります。

一部地域では、スマートフォンの利用で一日乗車券などを提供するものも出てきています。そういう意味では、都市部における公共交通の情報統合サービスは、民間による主導で、ある程度定着していると理解できます。なお、GTFS(General Transit Feed Specification:経路検索や地図サービスへの情報提供を目的とした、公共交通データフォーマット)をベースとした、国内バス情報標準フォーマットに準拠したデータに基づき、グーグルマップ上で、バス停の位置や、時刻表、実際の運行状況などを提供する事業者が、少しずつ増えています。地図上の位置の不整合や、ダイヤ改正に伴うデータ更新の遅れの発生など、課題はあるものの、徐々に浸透しているといえるでしょう。
一方で、MaaSといった場合、オンデマンドのサービスやシェアリングサービス、あるいは自動運転サービスが組み込まれたものを期待する人が多いようです。筆者としては、そのようなこだわりは不要と思えるものの、実証実験事例などでも、何らかの新しいサービスを組み込んだり、新しいサービスの予約を中心に据えたりしているものが多いように見受けられます。
これらの事例の多くは、取り扱う移動サービスの主役が明確で、その利用のためのアプリという位置付けも明確であるため、分かりやすいプロジェクトであるといえるでしょう。しかし、同業他社の排除、異業種の移動サービスの排除、対象地区外での利用の排除、障害者割引や学生割引などのサービスとの連携排除といった問題が指摘される例もあるようです。この問題の背景には、MaaSが、地域全体で、全ての移動の選択肢を束ねるという発想から始まっていないことがあると思われます。
実証実験において、利用者数が思わしくないという報告を聞くことも少なくありません。アプリのダウンロード数、アプリのアクセス数、アプリによる予約数、および実際の利用者数のいずれもが伸び悩んでいるようです。本来的には、地域の生活や移動に関わるデータが取得、蓄積され、連携して利用可能になっていれば、当初の想定と、実際の利用状況がどのように異なっているのか、詳細な分析が可能なはずです。しかし、実際にはデータが十分にそろわず、分析が十分ではない場合もあります。
例えば、バス利用が思わしくないときに、バス利用者にアンケートを実施することや、バス利用者とワークショップを開催することに、それほど意味はありません。むしろ、バス以外の交通手段を利用している人や、外出を控えている人、外出できないでいる人の行動や意識について分析を深め、彼らに移動を体験してもらい、そこでの感想をフィードバックしてもらうといった、いわゆるモビリティマネジメント的なアプローチが求められているように思われます。
総じていうと、技術は進化し、さまざまな実証実験が実施されてはいるものの、それを総括して次に向かう道筋が十分に整理されていないというのが現状のようです。
2. 海外の現状
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3. 直面している課題
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