MaaSの背景としてのヨーロッパの都市交通:MaaSの基礎知識2

MaaSの基礎知識

更新日:2022年10月4日(初回投稿)
著者:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任教授 中村 文彦

前回は、MaaSの定義や由来、現状を紹介しました。今回は、MaaS誕生の背景として理解すべき、ヨーロッパの都市交通の状況について紹介します。ヨーロッパの都市交通事情は、多くの文献でさまざまな事例が紹介されています。ここでは、MaaSの誕生から展開に焦点を絞り、脱炭素への強い意向、公共交通運営の明確な体制、新技術の積極的な実装の3点を説明します。

1. 脱炭素への強い意向

MaaSの発祥の地ヘルシンキは、北ヨーロッパのフィンランドの首都です。フィンランドは、ヨーロッパの他の国々と同様、脱炭素への強い意向があり、地球温暖化問題への対策としての脱炭素につながる、さまざまな政策が推進されています。交通のセクターでは、車両の低燃費化にとどまらず、電動化も強く推進されています。併せて、そもそもの自動車の使い方を見直す動きもあります。フィンランドは、自国に自動車製造産業を有しないこともあり、その傾向はさらに強いといえます。

MaaSというと、公共交通の利用促進のために、さまざまな交通手段の情報を束ねて提供するイメージが強いのではないでしょうか。このこと自体は間違っていません。ただし、何のために公共交通の利用を促進しているのかに注目する必要があります。

例えば、日本国内の各地で行われている公共交通の利用促進施策の目的は、公共交通を担っている事業者の増収のためという場合もあります。また、高齢化の進んでいる地域では、自家用車の運転が困難になった人たちの健康保持や、外出機会創出のためという場合もあります。これに対し、MaaS発祥の地のヘルシンキでは、自家用車の利用を減らすために、さまざまな交通手段の情報を束ね、決済を一元化しています。

もちろん、渋滞緩和や交通事故削減への効果もあります。しかし、脱炭素のために自家用車利用を減らすべく、他の交通手段への転換を促すことがMaaSの政策的な狙いであることを理解する必要があります。この点は、後に続く、他のヨーロッパの都市においても同様で、自家用車利用を減らすためのMaaSという理解が必要です(図1)。

図1:交通量削減のために自家用車利用を減らす(ヨーロッパでの脱炭素に向けたMaaSの狙いの一つ)
図1:交通量削減のために自家用車利用を減らす(ヨーロッパでの脱炭素に向けたMaaSの狙いの一つ)

2. 公共交通運営の明確な体制

ここでは、公共交通とは何かという整理から始めましょう。前回も述べたとおり、公共交通とは、公共性がある交通サービスのことであり、その運営が行政機関であるか民間事業者であるかは問いません。公共性の定義としては、誰もが気軽に乗れるという言い方が適切のようです。その意味では、貸切バスやハイヤーは公共交通ではなく、いわゆる路線バスやタクシーは公共交通になります。

日本では、運輸事業と公共交通がほぼ同義になる場合もあります。また、政府が公共交通という場合には、自転車シェアリングなどは含まれないようです。しかし、上記の定義に基づけば、登録すればすぐに借りられる自転車シェアリングは公共交通です。路線バスや路面電車の運行事業者が民間であるという点では、ヨーロッパと日本に差はないように見えます。むしろ、東京都や京都市などには公営のバス事業があるため、若干混乱するかもしれません。

日本では、公共交通の路線の運行にかかる費用を運賃収入で賄えていない場合、それは赤字を意味します。これは、民間、公営にかかわらず同様です。これに対し、ヨーロッパの都市の多くでは、公共交通サービスを十分に提供することが都市として義務化されています。また、それぞれの路線が運賃収入により費用をカバーすることを義務付けていません。ヨーロッパでは、都市によって若干スタイルは異なるものの、公共交通サービスを提供する義務を負う自治体、あるいは都市圏は、さまざまな形式で民間の運行事業者と契約を結びます。契約が成立すると、民間事業者の収入は保証されることになるため、運賃収入がいくらであれ黒字となります。

ヨーロッパの多くの都市圏では、このような仕組みの中で公共交通が位置づけられているため、同一都市圏内で複数の事業者が競い合う必要はありません。かつ同一都市圏内での公共交通は、自治体、あるいはその集合体によって、一元的に管理されています。このことが、MaaSによってさまざまな交通サービスの情報を束ね、決済を一元化するときに役立ちます。慣れない調整をする必要もありません。また、事業者同士が市民向けのサービスにおいて競争することもありません(競争があるとすれば、自治体との契約を獲得する場面のみです)。図2に、例として、フランスでの自治体と事業者の関係を示します。

図2:フランスでの自治体と事業者との財務的関係(引用:南総一郎、地方都市圏におけるモード横断的な公共交通の財務についての調査研究、国土交通政策研究所令和4年研究発表会資料、P.14)
図2:フランスでの自治体と事業者との財務的関係(引用:南総一郎、地方都市圏におけるモード横断的な公共交通の財務についての調査研究、国土交通政策研究所令和4年研究発表会資料、P.14

3. 新技術の積極的な実装

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