MaaSとは:MaaSの基礎知識1

MaaSの基礎知識

更新日:2022年9月13日(初回投稿)
著者:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任教授 中村 文彦

MaaS(マース)は北ヨーロッパで始まり、日本では2019年ごろから急速に知られるようになりました。しかし、単なるアプリ開発の一種という理解から、自動運転の普及のためのツールという理解まで、非常に不正確な理解がまん延しているように見えます。一方、現場では、極めて優れた実践が行われている例もあります。本稿では、6回にわたってMaaSの基礎知識を紹介します。初回は、MaaSの定義と由来、および現状を紹介します。

1. MaaSの定義

MaaSはMobility As A Serviceの略で、濁らずにマースと読みます。英語を直訳すると、不定冠詞のaに配慮して、一つのサービスとしてのモビリティということになります。ここで、モビリティとは何かが重要になります。最近では、政府による資料を含め、モビリティ=車両、あるいは交通具と扱っているものが多くあります。超小型モビリティも車両の意味合いです。

しかし、交通計画の分野では、もともとは車両という意味ではなく、移動の可能性や、移動のしやすさを表す抽象概念でした。MaaSのモビリティも、車両ではなく、移動のしやすさと理解した方が適切です。すなわち、さまざまな交通手段の中から移動手段を選び、場合によってはそれらを組み合わせて「一つのサービス」として扱うことをMaaSと定義しています(図1)。

図1:MaaSの説明図(引用:中村文彦・外山友里絵・牧村和彦、MaaSがよくわかる本、秀和システム、2022年)
図1:MaaSの説明図(引用:中村文彦・外山友里絵・牧村和彦、MaaSがよくわかる本、秀和システム、2022年)

ちなみに車両や交通具は、移動のための道具という意味で、モビリティ・ツールと呼びます。また、バスやタクシーなど車両を用いたサービスは、モビリティ・サービスと呼ぶのが本来の表現です。しかし、アメリカの交通省の資料でも、モビリティ=車両と解釈できる文面を見ることがあるので、モビリティ=車両という定義も並存していくものと思われます。

2. MaaSの由来

MaaSという言葉が広く使われ始めたのは、2015年とされています。始まりは、フィンランドの首都ヘルシンキでのサービスの実施です。スマートフォンのアプリで、市内の全ての移動手段の情報を入手することができ、自分の行きたい場所への移動方法を検索すると、複数の案が提示されます(図2)。また、シェアサイクルなどの予約や、決済も行うことができます(図3)。

図2:MaaSの利用イメージ(引用:中村文彦・外山友里絵・牧村和彦、MaaSがよくわかる本、秀和システム、2022年)
図2:MaaSの利用イメージ(引用:中村文彦・外山友里絵・牧村和彦、MaaSがよくわかる本、秀和システム、2022年)
図3:MaaSで実現する移動(引用:中村文彦・外山友里絵・牧村和彦、MaaSがよくわかる本、秀和システム、2022年)
図3:MaaSで実現する移動(引用:中村文彦・外山友里絵・牧村和彦、MaaSがよくわかる本、秀和システム、2022年)

アプリの利用料金は月額一定で、いわゆるサブスクリプションの登録も可能です。また、会員登録すると、自家用車を保有して利用する場合の1カ月の経費程度の金額で、期間中、全ての移動手段を好きなだけ使うことができます。このサービスを運営しているのが、民間事業者であるというのも特徴的です。

実は世界中を見ると、市内全ての移動手段を案内し予約や決済ができるアプリや、月額利用のシステムは既に存在していました。フィンランドのサービスは、それらを一つに束ねた点でインパクトがありました。それがフィンランドの首都で生まれたのは、以下の4つ理由で、ある意味必然だったようにも思えます。

  • 1:そもそも全ての公共交通機関が公営の交通局で一元管理されていたこと
  • 2:シェアサイクルやオンデマンドバスなどの実証実験や社会実装に積極的に取り組み、交通局がその運営と運行に深く関与していたこと
  • 3:携帯電話のルーツといえるNOKIA発祥の国であり、情報先進国としてのプライドがあったこと
  • 4:北ヨーロッパの国々は自動車産業を有せず、地球温暖化問題への取り組みに真剣で、特に自家用車利用を減らすという政策合意の共通認識があったこと

これらの観点は、日本の都市交通、あるいは中山間地域など地方部の交通の状況と比べると、大きく異なるように見えます。しかしながら、公共交通が抱える問題の深刻さと、スマートフォン普及による活用可能性の機運も相まって、日本でも多くの人がMaaSに関心を持ち始めていると理解しています。

3. MaaSの現状

ヘルシンキで始まったMaaSは、北ヨーロッパを中心に、ヨーロッパ全土で事業展開されていきます。MaaSに関心のある自治体や交通事業者などが集まって、MaaS Allianceという団体も設立されています。そもそも、多くのヨーロッパ各都市で公共交通サービスは一元化されており、検索するサービス(サービス名Trip Plannerは一般名詞になっている)も、各都市に既に存在していました。また、ヨーロッパ全体が、地球温暖化対策の中で自家用車利用(保有ではなく利用)を減らす政策的な方向性を明確に持っていたため、具体的な内容には差があるものの、多くの都市でMaaSといえるサービスが展開されています。

なお、そもそも公共交通とは何かという、再定義の議論も出てきました。そこでは、誰もが気軽にアクセスできる移動サービスを公共交通と呼ぶ方向で整理されています。すなわち、シェアサイクルは公共交通で、ハイヤーや貸切バスは公共交通ではないという分類になりつつあります。

しばしば、欧米という表現で、先進国をまとめて表すことがあります。しかし、MaaSに関しては、ヨーロッパと北アメリカでは様子が異なります。アメリカの西海岸を中心としたいくつかの都市では、そもそも環境対策から自家用車の利用削減に関心が高かったこともあり、MaaSという表現を用いて取り組んでいる例もあります。しかし、アメリカ全体で見ると関心はそれほど高くなく、MaaSといわず、Mobility on Demandという言い方で検討されているようです。

日本では、国土交通省、および経済産業省が中心となって、多数の実証実験プロジェクトを支援しています。国の支援とは独立してMaaSアプリを開発している例もあります。ヨーロッパと比べ、高齢者外出支援、観光客誘致、地域活性化などの目的が明確に示された実験が多いことが特徴です。その一方で、運輸事業者のほとんどが民間であるため、地域で一括管理されていないこともあり、対象とする交通手段について、地域内の全てが網羅されていない場合も少なからずあります。

いかがでしたか? 今回は、MaaSの定義や由来、現状を紹介しました。次回は、MaaSの背景にあるヨーロッパの都市交通について解説します。お楽しみに!