リーダーシップの理論を旅する:リーダーシップの基礎知識3

リーダーシップの基礎知識

更新日:2022年12月16日(初回投稿)
著者:立命館大学 総合心理学部 総合心理学科 教授 髙橋 潔

前回は、マネジャーとリーダーの違いを解説しました。今回は、リーダーシップ理論を紹介します。

1. 歴史からリーダーシップを学ぶ

世界にさまざまな国があるように、その国と文化に合った指導者像や君主論があるものです。それを探るには、その国に現れたリーダーや歴史上の人物に光を当て、その人物の特長や言動から学ぶのが一番だと考えられてきました。例えば、NHKの番組「その時歴史が動いた」や、「歴史秘話ヒストリア」などを見て、偉人の足跡から、指導者としての知恵を学ぼうとします。

ビジネスの世界であれば、松下幸之助、本田宗一郎、安藤百福、稲盛和夫などの名経営者からリーダーシップを学ぼうとします。しかし、語られるエピソードはあまりにユニークなので、自分の立場に当てはめて考えることが難しいこともあります。

リーダーシップ研究の初期では、ナポレオンやリンカーンといった英雄や偉人の評伝に加えて、学術研究を集めて、リーダーと見なされる人物が普通の人々と違っているところを明らかにしようとしてきました。年齢、体格、容姿などの個人属性や、家系、教育歴、資産などの背景はもちろんのこと、知性、雄弁さ、権力欲、対人能力などのパーソナリティに関わる要素にも違いを求めようとしたということです。この一連の流れは、リーダーシップ特性理論と呼ばれています。

その結果はどうかといえば、普通の人々と比べて、常にリーダーを際立たせているような特性は見いだされませんでした。周りから見えやすい英雄や偉人の特性は、リーダーシップの強力な要素とはならなかったのです。

このように、優れたリーダーの特徴から、一般的でどこでも通用するヒントを得ようとするのは、あまり得策ではありません。そもそも人の性格や特徴に、強みも弱みもありません。それを決めるのは自分の考え方(マインドセット)次第です。同じ特性を弱みだと感じれば弱みになり、強みだと信じれば強みとなるものです。

2. リーダーの行動に目を向ける

このようにして、リーダーシップの視点は、生まれ持った特性から離れて、リーダーのポジションに就いた普通の人が、その時々でどのような行動を取ればよいかという、行動の面に移されました。

リーダーシップの行動理論としてひとくくりにされる多くの研究は、どれも共通して2つの要素を見いだしています。それは、仕事に関わる行動と、人間関係に関わる行動です(表1)。

表1:リーダーシップ不動の2軸
表1:リーダーシップ不動の2軸

例えば、オハイオ州立大学の研究では、目標達成を重視し、計画や仕事の割り当てなどを取り仕切る「構造設定」行動と、部下の気持ちや個人的な事情に関心を示し、上下の信頼関係と意思疎通を図る「配慮」行動を、リーダーがどのくらい取っているのかを、部下の視点から行動観察しています。

日本では、三隅二不二教授が提唱したPM理論によって、集団の目標達成を促進するP(パフォーマンス)機能と、集団が崩れてしまわないよう維持強化するM(メンテナンス)機能が確認されています。仕事と人間関係という2つの行動は分かりやすいでしょう。

私たちは、職場や上司のことをいろいろ考えるときに、なにかといえばつい、仕事か人間関係かという2分法で考えてしまう、そういう癖があるものです。仕事ができて、業務をキリキリ回していける上司なのか、人情味にあふれ、いろいろ周りに気を配ってくれる上司なのか。リーダーの行動を捉えるこの2つの要素は、リーダーシップの不動の2軸ともいわれています。

3. リーダーのよしあしは状況次第

ある部署でうまくリーダーシップを発揮している人でも、別の部署に移ったらうまくいかなくなったりすることは、どこかで見聞きしていることでしょう。効果的なリーダーシップは、状況に依存します。すごいリーダーも、さえないリーダーも、状況次第です。それを明らかにしたのが、条件適合(コンティンジェンシー)理論というものです。

条件適合理論では、リーダーの行動と取り巻く環境とが、お互いに作用し合うことを考えに入れて、リーダーシップの状況依存性を明らかにしました。仕事の特性、権限の大きさ、グループ内の人間関係、部下の能力などが、リーダーシップに影響する状況要因として考えられています。

中でも、SL(シチュエーショナル・リーダーシップ)理論がよく知られています。蒸気機関車のような名前なので、どこかの研修で聞いたことがあるかもしれません。SL理論では、部下の成熟度を状況要因と見なし、それにリーダー行動の不動の2軸をかませています(図1)。

図1:SL理論
図1:SL理論

図1に示したように、部下の成熟度が最も低い新入社員のケース(S1)では、具体的に業務の指示を行い、こと細かに監督する教示的リーダーシップが必要です。部下が少し成長してきたケース(S2)では、仕事の指示も与えながら、部下の感じる疑問にも丁寧に答える説得的リーダーシップがよいと考えられています。

部下の成熟度がさらに上がれば(S3)、おおよそ部下が自分の考えや仕事のやり方を身に付けているので、部下と相談しながら決めるような参加的リーダーシップが適切です。そして、部下が熟達し切ったとき(S4)には、指示命令はせずに、職務遂行の責任と権限を部下に委ねる委任的リーダーシップがよいことになります。

日本の職場を眺めてみても、新人の部下が気掛かりで、上司が深く目をかけるのは3年くらいです。石の上にも3年で、同じ職場に勤め続ければ、仕事を覚えてくるものです。そうすると、部下にできるだけ多くの裁量権を与えて、自由に仕事をしてもらうのがいいでしょう。部下のことを放ったらかしにするのではなく、権限委譲を伴うエンパワーメントのあり方に、理論的根拠が与えられています。

4. 組織を変えるのがリーダーの機能

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