リーダーシップとは:リーダーシップの基礎知識1

リーダーシップの基礎知識

更新日:2022年10月25日(初回投稿)
著者:立命館大学 総合心理学部 総合心理学科 教授 髙橋 潔

リーダーシップを広辞苑で引くと、「指導者としての資質・能力・力量。統率力」とあります。読者の皆さんは、この説明に納得できるでしょうか? 本連載では、リーダーシップのリテラシー(正しく実践できる知識と能力)について解説します。読者の中で、上司のリーダーシップにあまり納得できなかったり、自分がリーダーとして悩んできたりしてきた人は、リーダーシップについて再確認できるよい機会となるでしょう。

1. リーダーシップ・リテラシーを高める

リーダーシップとは何でしょうか? 自分には、リーダーシップなど関係ないと思う人もいるかもしれません。しかし、管理職に昇進したり、プロジェクトチームを任されたりするなど、部下やメンバーに対して指示を出したり、複数のメンバーを通して業務を完遂しなければならない場面に直面すると、リーダーシップについて知りたくなります。実は、誰にとっても身近になりうるテーマなのです。

そもそも、リーダーシップはどう定義されているのでしょうか? オハイオ州立大学ラルフ・ストッグディル教授は、リーダーシップに関する数多くの著述や研究をまとめていく中で、「リーダーシップには、定義しようとした人の数だけ違った定義がある」と述べています。また、南カリフォルニア大学やハーバード大学で教鞭を執った、リーダーシップ論の大御所ウォーレン・ベニス教授によれば、何千ものリーダーシップ研究をざっと眺めたところ、350以上の説明があることを指摘しています。

リーダーシップには星の数ほどの定義があり、その実態をつかむことはなかなか困難です。しかし、エッセンスを抜き出せばこう説明できます。つまり、「目標の達成に向けて、集団の活動の照準を合わせ、他者に影響力を発揮すること」です。リーダーシップは、図1に示すように、目標への志向性、集団活動の照準合わせ、影響力の発揮の3つの要素がコアになっています。

図1:リーダーシップの定義(引用:髙橋潔、ゼロから考えるリーダーシップ、東洋経済新報社、2021年)
図1:リーダーシップの定義(引用:髙橋潔、ゼロから考えるリーダーシップ、東洋経済新報社、2021年)

一説に、リーダーシップは愛のようなものといわれています。誰もが愛を知っているし、それを求めていながら、愛というものを正しく定義することはなかなかできません。リーダーシップもそれと同じというわけです。

2. リーダーシップの3レベル

ここで気を付けておきたいのは、リーダーとリーダーシップは、同じではないということです。立場上リーダーである人の言動を見たところで、リーダーシップについて本当に学ぶことができるかというと、怪しいこともあるでしょう。実際、立場はどうであっても、リーダーシップを発揮している人からしか、リーダーシップを学ぶことはできません。

リーダーとリーダーシップが同じではないということは、逆に都合がよいこともあります。その姿勢さえあれば、リーダーでなくても、誰もがリーダーシップを発揮できるからです。組織のトップであってもリーダーシップのない人がいます。一方で、集団の末端にもリーダーシップを発揮している人がいます。そのため、あらゆる立場の人にリーダーシップ・リテラシーを身に付けてもらうのがよいのです。

リーダーは、人の上に立って指示命令を出す人であるというのは、実は間違いです。図2に示すように、リーダーシップには3つのレベルがあります。

図2:リーダーシップの3レベル(参考:L・R・ドニソーン、ウエスト・ポイント流最強の指導力、三笠書房、1996年)を基に筆者作成
図2:リーダーシップの3レベル(参考:L・R・ドニソーン、ウエスト・ポイント流最強の指導力、三笠書房、1996年)を基に筆者作成

・レベル1 実行

普通の人が見聞きしているリーダーシップはレベル1、すなわち、実行の水準です。部下やメンバーに影響を与え、業務を遂行することが、リーダーの特長であると考えている人もいるかもしれません。しかし、それはまだ序の口なのです。

リーダーシップの第1段階では、マネジメントの能力が高いことが、リーダーシップとして考えられています。マネジャーとリーダーは、しばしば双子のようなものと考えられることがあります。現場をしっかりまとめられるのは、マネジメント能力の高い人。そんな人がリーダーに選ばれることから、日本ではマネジャータイプのリーダーが多いようです。しかし、マネジャーとリーダーは実は似て異なるものなので、違いをしっかりと理解していきたいものです。この点は次回に取り上げたいと思います。

・レベル2 改革

レベル2では、改革の役割が求められます。円滑な組織運営を口実に先送りを決め込む、口だけの変化や改革ではありません。そもそも、組織が間違った決定や行動を取ることを想定するところに、レベル2の厳しさがあります。そして、不正を察知できる幅広い知性と、誤りを正す勇気が求められています。

リーダーには、将来の社会や次世代のためならとか、コンプライアンスを守るためなら、組織や先輩の顔に泥を塗るような少々手荒いことをしても、組織に変革をもたらす改革者としての使命が求められます。慣れあいやしがらみで、反社会的勢力と手が切れないというような、甘いことは言っていられません。

同時に、組織の悪弊にズバリ切り込み、正義の名の下で大鉈(なた)を振るって、組織をつぶしてしまう破壊者でも務まりません。改革の旗印の下、破壊で終わってしまえば、紛争と同じように誰かを不幸にしてしまうだけです。そのため、平和を愛する人や調整型の管理者には、この手のリーダーシップは不得手なのかもしれません。

・レベル3 ビジョン

最高レベルのリーダーは、大局観を持ち、メンバーに対し象徴的で刺激に満ちたビジョン(未来像)を語ることが求められます。抵抗にあって、変革が途中で立ち消えになってしまわないように、遠い将来を見据えて組織や社会の未来像を示すことや、次世代に託す「夢とロマン」を語ることが肝心です。ビジョンといっても近視眼的に焦点を当てるのではなく、50年後や100年後の将来を展望する心構えが求められます。

3. 上昇志向とインポスター

リーダーシップを考える際に厄介なのは、出世したくない、偉くなどなりたくないと思っている人が多いということです。将来に対する諦観(諦めの心境)が、現代の風潮かもしれません。人より一歩先んじて、人の上に立つことを負担に感じたり、不安に思ったりする傾向にあります。上の世界に身を投じて、孤独を感じながらも、自分の能力を最大限に発揮することは嫌。にもかかわらず、周りにはよく思われたいので、SNSで「いいね」をもらい、承認欲求を満たそうとする。そんな傾向にあるようです。

これまでは、人より上に立ちたい、今よりもっとよい暮らしをしたいという上昇志向を、人は誰もが自然に持っているという前提で考えられてきました。個人も組織も国も、普通の人が普通に感じる上昇志向に頼って、成長してきたといえます。上昇志向が、成長をもたらす原動力だったのです。

ところが、バブル崩壊という経済的大変化によって、私たち一人一人が、健全な上昇志向を持てなくなりました。どんなに努力をしてもうまくいかない社会に幻滅して、成長自体をストップしてしまうという皮肉な心情を抱くようになったのかもしれません。

インポスター(なりすまし)症候群という心の病があります。仕事やプライベートでうまくいっているにもかかわらず、自分の持っている能力や実績を本心で認められず、「たまたま運がよかった」とか「周りの助けがあったから」と思い込んでしまう、屈折した心理のことです。

インポスターとは詐欺師のことです。自分の身に付いた実力や、得られた成功を自分のこととは感じられないため、まるで周りをだましている詐欺師のように、どこか絵空事に感じてしまうことをいいます。インポスター症候群の人は、自分を過小評価し、失敗や批判を恐れてチャレンジせず、何事にも自信がないように感じてしまいます。これにより、周りから請われても成功したくない、出世したくないというゆがんだ心理状態に置かれます。

「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない。」(引用:村上龍、希望の国のエクソダス、文藝春秋、2002年)

この上昇志向のなさとインポスター症候群は、どちらも社会の発展とリーダーシップを妨げる心理として位置付けることができます。社会生活を送る私たち一人一人にリーダーシップがないため、夢がないのです。リーダーシップとは、夢を追うこと。そして、その大きな責任を担っているのは、人の上に立つリーダーではなく、自分自身なのです。

いかがでしたか? 今回は、リーダーシップ・リテラシー、リーダーシップの3レベル、上昇志向とインポスターについて紹介しました。次回は、マネジャーとリーダーの違いについて詳しく解説します。お楽しみに!