電気・電子分野で欠かすことのできない技術、はんだ付け。鉛を含まない鉛フリーはんだが使われるようになり、十数年が経過しました。鉛フリーはんだへの切り替えに、苦労した技術者もいるのではないでしょうか? 一部の業界では、まだ鉛入りのはんだを使っています。その鉛入りのはんだと鉛フリーはんだの違いが、はっきりと分かるようになってきました。
本連載では、全5回にわたり、鉛フリーはんだ付けの基礎知識を解説します。第1回目は、鉛フリー化の背景、鉛フリーと鉛入りはんだの組成や温度の違いなどを見ていきます。
1. 鉛フリー化の背景
鉛入りのはんだから鉛フリーはんだに切り替わった契機、それは欧州連合(EU)の特定有害物質禁止指令(RoHS指令:Restriction on Hazardous Substances)です。RoHS指令は、6つの有害物質(鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニルPBB、ポリ臭化ジフェニルエーテルPBDE)の電気・電子機器への使用を禁じています。2006年7月1日に施行されました。欧州に流通する製品も対象となるため、日本でも多くの会社が鉛入りはんだの使用を止め、鉛フリーはんだの採用に迫られました。
図1に、鉛Pbの人体への影響を示します。廃棄された電気・電子機器へ、酸性雨が降りかかると、鉛の成分が雨に溶け出し、地下水へ染み込んでいきます。地下水は、長い時間をかけて川や海に流れ込みます。鉛に汚染された飲料水を人間が摂取すれば、成長の阻害、中枢神経が侵される、ヘモグロビン生成の阻害など、人体へ大きな影響が発生します。このような理由で、鉛フリーはんだの使用が求められているのです。
2. 鉛フリーと鉛入りはんだの違いと組成
鉛フリーはんだへの対応で最初に問題となったのは、どのような合金を使うかです。鉛入りのはんだは、スズSn-鉛Pbの合金です。そして、図2にある合金が検討の土台に上がり、融点とはんだの作業性の良さなどが比較されました。比較の結果、現在世界標準として、スズSn-銀Ag-銅Cu系の合金が使われています。以下、これを鉛フリーはんだとします。
Sn:スズ、Cu:銅、Ag:銀、Bi:ビスマス、Zn:亜鉛、Pb:鉛、In:インジウム
鉛入りはんだ | 鉛フリーはんだ | |
組成 | スズSn:60%、鉛Pb:40% | スズSn:96.5%、銀Ag:3.0%、銅Cu:0.5% |
融点 | 固相点183度 | 固相点217度 |
液相点189度 | 液相点220度 |
最大のメリットは、スズSn-鉛Pbの合金と比べて、機械的特性や耐疲労性に優れ、材料自体の信頼性が高いことです。しかし、短所もあります。表1の鉛入りと鉛フリーはんだの組成や融点の違いを参照しながら、確認してください。
・ぬれ性が劣る:鉛フリーはんだの組成のほとんどが、スズSnです。鉛Pbに比べ、酸化膜が還元されにくく、表面張力が大きくなり、ぬれ性が劣ります。
・電子部品や基板へのダメージが大きい:スズSn-鉛Pbはんだの融点は183度、スズSn-銀Ag-銅Cuは221度です。約40度も高いので、実装時の加熱量が増加します。
・界面劣化やはんだ食われが起きやすい:母材金属の拡散や溶解は、非常に早く起こります。加熱時間が増えると、接合界面の金属化合物層が成長し、界面ぜい弱化や銅コイル線食われ、パターン食われなどが発生しやすくなります。
・応力が集中する:鉛フリーはんだは、材料自体が強固なため、被接合材の物性や形状によって、接合部に応力集中が発生します。例えば、表面実装のチップ、3216抵抗は長期の耐熱疲労性を、BGA(Ball Grid Array)は対落下衝撃性に弱くなります。
3. 鉛フリーと鉛入りはんだの表面
組成が違う鉛フリーはんだと鉛入りはんだ。見た目、特にはんだ付け後の表面の光沢が違います。鉛入りはんだの表面は光沢があり、富士山のように滑らかな裾広がりの形(フィレット)をしています。一方、鉛フリーはんだの表面は、図3のように白くざらざらしています。もし、これが鉛入りはんだ付けであれば、オーバーヒートを起こした不良と判断されるでしょう。詳細は第2回でも解説します。ここでは、外観上の違いがあることを理解してください。
4. 鉛フリーと鉛入りはんだの外観検査のポイント
基本的に、鉛フリーと鉛入りはんだ付けの検査ポイントは同じです。はんだ付けのミスは発見しづらいので、作業者が、検査や良し悪しを判断できることが重要です。検査のポイントは、大きく5つあります。正しい位置かどうか、正しい形かどうか、はんだのぬれ性はよいか、はんだは適量か、はんだの表面が適切かどうかです。鉛フリーはんだは、表面に白いざらざらした部分があっても、NG判定とはなりません。
いかがでしたか? 今回は、鉛フリー化の背景や、鉛フリーと鉛入りはんだの組成、温度などを見てきました。次回は、鉛フリーはんだ特有の現象を解説します。お楽しみに!