スマートシティで日本が強い売り物とは(前編)不動産:国際的スマートシティの基礎知識9

国際的スマートシティの基礎知識

更新日:2023年3月2日(初回投稿)
著者:亜細亜大学 都市創造学部 都市創造学科 教授 岡村 久和

前回は、スマートシティプロジェクトにおける事業者と、そこへのアプローチについて解説しました。スマートシティはビジネスです。従って、明確にその商品やサービスが存在します。今回は、その代表的な不動産ビジネスを取り上げます。アジアでの事例と、国内で数多く進められてきた土地やまちの開発のノウハウと経験が、いかに国際的スマートシティ産業に生かされ、日本がその中で強い位置を確保しているかを解説します。世界のトップレベルである日本の土木技術といった、日本の強みを感じられるのではないでしょうか。

1. ジャングルからの不動産売買

これまで、国際的なスマートシティとは、産業の名前であると解説してきました。ビジネスである以上、そこには商品やサービスがあり、それらを買う人や売る人が存在します。今回は、スマートシティのビジネスの基本形とはどういったものかを、具体的に解説します。

日本国内でのスマートシティとは、まちで使える新しい仕組みや、テクノロジーを実験的に入れた場所、そこで使われる技術を意味することが多いと思われます。したがって、スマートシティをどうやってビジネスにするか、そのマネタイズはどうするかという議論になります。一方で、国際的スマートシティは、最初からビジネスを目的としているため、いくつかの典型的なパターンが存在します。

最も基本的なスマートシティビジネスは、不動産ビジネスです。通常の不動産ビジネスと違うのは、既存の不動産価値を一気に高め、それらを売却、もしくは賃貸することで、大きな利益を得ることを目的としているという点です。この形は、世界のスマートシティビジネス地域の2分の1を占めるアジア、中東などで最も多く存在します。

例えば、インドネシアやマレーシアなどでは、日本やアメリカ、ヨーロッパの先進国との関係が深く、国そのものが発展途上国から新興国の都市へと移行している場所が数多く存在します。それにつれて、人々の生活は先進国にどんどん近くなり、生活水準の向上とともに人口も増加しています。それまでの発展途上国が新興国に変わると、産業は第1次産業から第2次産業へと変化していきます。また、第3次産業に変化する都市も増えてきます。

スマートシティは、技術に支えられたまちを作る産業です。これは、第1次産業のまちから第2次、第3次産業のまちに変えていくまちづくりの過程を考えると、そのビジネスが理解しやすくなります。すなわち、スマートシティ産業の典型的なビジネスが、不動産ビジネスである理由がここにあります。

例えば、ジャカルタやシンガポールなどの大都市から50km圏内には、たくさんのジャングルや荒れた土地が、まだまだ広く存在します。50km圏内であれば、渋滞をしても2時間での通勤が可能な範囲といえます。さらに、アジアや中東には、その地域が海に面して大きな港があり、生産品の積み出しが可能という条件を持つ場所も数多くあります(図1)。

図1:シンガポール港、コンテナ貨物取扱量では香港と並んで世界トップの座を競っている
図1:シンガポール港、コンテナ貨物取扱量では香港と並んで世界トップの座を競っている

スマートシティにおける不動産ビジネスの典型的な手法では、これらのジャングルや、手付かずの土地を安く仕入れ、価値を上げて販売します。インドネシアのジャカルタ近郊に多数作られているスマートシティは、ジャカルタからの距離が30~70kmの圏内に位置しています。それぞれ山手線内側の半分から2倍の、500~1,000haの広さです。

そこでのスマートシティにおける不動産ビジネスは、既存の都市に技術を入れ込むという考え方ではありません。1つの投資会社が、1つの地域を特定して買収し、隣のエリアとは全く隔離したまちを作るというものです。それらのほとんどは、1本の高速道路に沿って広がるジャングルを切り取り、買い取られたものです。ジャングルであるため、国有地、私有地が混在します。これらの原生林の買い取りには資本が必要です。日本企業、デベロッパーや商社は、まず土地を探し、そのオーナーと資本家を探します。インドネシアのデベロッパー企業は、直接、現地法人を作ることが許されていないため、土地の買い取り段階から、現地の華僑を含めた投資家と合弁企業を作り、その買収を進めます。これは、ジャングルや原生林の取得という、大きな不動産ビジネスになります。この段階では、土地の売買益や手数料、投融資などの金融ビジネスなどが主となります。

2. 開発というビジネス

土地の取得ができた後には、開発行為というフェーズが続きます。一般用語の開発ではなく、まちを作る前に、ジャングルや原生林をまちづくりに適した土地に改造する、広範囲にわたる土木工事のことをいいます。日本の産業技術における土木工事は、世界のトップクラスといっても過言ではなく、その先進技術や施工の正確性は、まさにハイテク産業です。デルタマスシティの開発も、この土木技術の上に成り立っています(図2)。

図2:インドネシア、デルタマスの現在と将来
図2:インドネシア、デルタマスの現在と将来

この土木工事のフェーズに入っても、開発行為のオーナーシップは、デベロッパーや商社が現地法人と作った合弁企業のままであることも多く、現地での上場を実施した上での起業も珍しくありません。

開発行為を進める中では、まだ不動産ビジネスとしての視点で事業は進められます。しかし、既にその地域のスマートシティ特性と戦略は決まっています。日本の複数の商社が進めている、スマートシティでは、土地の半分は工業団地にし、残りを居住区と商業施設にするという考え方が一般的なようです。工業団地を半分確保する理由として、自動車や電機製品や物流産業などを狙い、それらに適した平坦な土地開発や道路、港への積み出しの利便性などを追及できることが挙げられます。

物流の利便性などを追及する場合、湖沼地などは狙いません。一方、湖沼地であると、逆に水の便が良く、居住区や商業地域には向いています。日本の土木技術を使えば、理想的な土地開発が可能です。URが埼玉に作った越谷レイクタウンのように、田畑にいきなり湖を作るといった、超ハイテクノロジーの土木工事です。ここで活躍する不動産ビジネスが、開発と呼ばれるビジネスです。不動産ビジネスとしては、非常に大きなビジネスボリュームを占めます。

この例のような日本製スマートシティ開発の隣で、中国や韓国資本のスマートシティが作られることも多くあります(図3)。ただし、それらが同じ戦略を持っているとは限りません。ジャカルタ近郊のジャカルタ副都心には、中国資本で高層マンションだけを数十本も建てているスマートシティや、韓国資本で全面的に工業団地のみで占められているスマートシティが存在します。

図3:ジャカルタ副都心(日系のデルタマスと、その他海外資本の競合スマートシティ)
図3:ジャカルタ副都心(日系のデルタマスと、その他海外資本の競合スマートシティ)

前者の、高層マンションを数十本建てている中国資本のスマートシティでは、日本モデルほど厳しい平らな土地を必要とせず、多少の丘陵地でも土地開発を行います。そのため、土地の買収単価は低く、同じ投下資本で広大な土地が手に入れられます。後者の、韓国資本による巨大な工業団地は、面積が数百haもありながら、細く長い距離にわたって高速道路に沿った開発が行われています。その理由は物流にあります。このため、土地の開発においても、その運送ルートの確保が最も重要な視点となっています。

このように、土地の開発という不動産ビジネスは、実際には、ハイテク技術を持った日本企業の指導の下に、現地建設会社などと共同し施工されます。国際的スマートシティ産業では、大きく重要な収益限であり、最先端の技術が求められるビジネスといえます。

3. 不動産価値を上げる要素ビジネス

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4. 地方行政とオフィススペース

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